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安易につながりたくないようでつながりたい自意識のための音楽 the ARROWS『EPICUREAN』

 the ARROWS(ジ・アロウズ)という名古屋出身のバンド。

2006年にポニーキャニオンからメジャーデビュー。インディーズ時代にリリースしたものを含めると、9枚のシングル、8枚のアルバムをリリースしているロックバンドである。現在ホームページもほとんど更新されておらず、積極的には活動していないように見えるが、どうやらまだ解散はしていない。メンバーはそれぞれ音楽活動を続けているようである。音楽好きの友人でも話題にしている人を見たことがないのが悲しいが、個人的にはインディーズ時代の1stアルバム『東ファウンテン鉄道』に収録されているロックンロールダンシングガールという曲は、日本のオルタナティブロックの隠れた名曲だと思っている。

 


ロックンロールダンシングガール (PV) the ARROWS

 

(このPVはメジャー1stでリテイクされたものでこれはこれで良い曲なのだけど、インディーズ1st『東ファウンテン鉄道』に収録されたテイクのギターの爆発力にオルタナを感じる。もう廃盤かもしれないけど、中古で安く手に入ります。)

 

僕は折に触れて、the ARROWSの『EPICUREAN』という曲を繰り返し聴いてしまう。2007年にリリースされたメジャー2ndアルバム『GUIDANCE FOR LOVERS』の1曲目なのだが、ネットに音源やライブ映像もまったくない。Amazonで音源が買えて、少しだけ聴くことができるのみ。サブスクリプションでの配信もされておらず、このままだと後年聴く人は本当のモノ好きだけになってしまいそうな、そんな曲が僕はとても好きだ。

 

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GUIDANCE FOR LOVERS

ダンスミュージックを基調とした煌びやかな音づくりと親しみやすいメロディ。これはメジャー初期のthe ARROWSの持ち味であり、アルバムの一曲目を飾るにふさわしいとてもポップな一曲である。”快楽主義者”を意味するタイトルから、「ダンシングオールナイト!女を抱け酒を持ってこい」的(?)な歌かと思って聴いてみると、歌われていることの閉塞感にとても驚くはず。

 

この曲の主人公は昼間からカーテンを締め切り、一人の部屋で寂しさと嫉妬を誤魔化しながら踊る。そして”ひとりぼっち”で自分の”お茶目な性格”を確認する。誰にも会わないから、誰にも指摘されることのない、自分の性格をなぞる。外の世界を羨みながら、自ら扉を閉めて閉じこもる逃げ道のない自意識のダンスナンバー。
そんな主人公の心情を見透かす”誰か”はそんな自意識を持つ主人公を優しく、かつ厳しく見守る。そして、”つかの間の笑顔”であったとしても、”友達が欲しけりゃ電話”するしかないし、寂しさや虚しさは自分の力だけでは解消しようがないという現実を突きつける。楽しげなダンスナンバーに乗せて。


僕はどうしようもなく、人と仲良くなるのが苦手で、よく大人数の飲み会ではひとりぼっちになる。ほんとうは盛り上がりの輪に入りたいのだけど、自分なんかが声を発して場を盛り下げてしまったらどうしよう、無視されたらどうしよう、気持ち悪いやつだと思われたらどうしよう、と考えているうちにますます人に声をかけにくくなる負のループに陥りがちである。実際、他の人からすると自分になんか興味はないし、悪いことは一切考えていない(のかもしれない)ので、単なる自意識の過剰さがこの情けないひとりぼっちの状況の原因であることはわかっているだけれど、学生時代はもちろん、社会人になってもこの自意識を乗り越えることができないでいる。

あるいは、心の奥底では、誰とも仲良くなりたいわけではなく、自ら孤独を選んでいるのかもしれない。一方で死ぬまでずひとりで身寄りもなく老いていく自分を想像すると、とてもゾッとする時がある。でもそこに向けて何か手を打つ勇気も知略もなくて行動できない。一人でいることの確固たる理由もない。

 

そんな僕は今日もなんとなくひとりぼっちである。


僕は『EPICUREAN』に歌われるような自意識の部屋で、今日も音楽を聴いている。そしていつだって僕の好きな曲は、孤独を慰撫するものではなく、孤独それ自体の現実を謳う曲だ。僕のような自意識過剰なひとりぼっちは、孤独を謳うその人たちの存在を感じることで、はじめてひとりぼっちじゃないと感じることができる。the ARROWSは、そんなひとりぼっちの自意識を少しずつ外の世界へと繋いでくれる曲を多く作っている、そんなアーティストである。

最近、シェアハウス的なところに引っ越してきた。いろんな出自の人が集まっており、他の住人たちは毎日楽しそうで正直うらやましいけど、やっぱり相変わらず会話にあぶれて自分の部屋でひとりで動画をみたりしている夜が多い。それでも、どこかの孤独な誰かに自分の好きな音楽を分かち合いたくて、せめてこんな文章は書いてみることにしてみた。

You-suck 

 

『GUIDANCE FOR LOVERS』に収録されているシングル曲。良きJ-POP。


ONE NIGHT STAR (PV) the ARROWS

 

インディーズ1stアルバム。歪んだギターと疾走感がカッコいい。帯のコメントがACIDMANオオキノブオ

東ファウンテン鉄道

東ファウンテン鉄道

 

 

GUIDANCE FOR LOVERS

GUIDANCE FOR LOVERS