様々なライブやレコーディングに参加しているミュージシャン・三浦千明さん、屁理屈音楽語りグループのLL教室・ハシノさんをお招きして、SOMEOFTHEM・カンノと「音楽ラジオ」についての駄話会。第8回はおしゃべりミュージシャンの特性と、一国一城主としての冠ラジオ番組でなければならないミュージシャンの話。
カンノ:僕が高校生のころ、ラジオを聞いてて笑ったのが『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』のNONA REEVES・西寺郷太さんゲスト回の「マイケル・ジャクソン、小沢一郎同一人物説」回(※1)で、お腹痛くなるぐらい笑いましたね。
ハシノ:その辺りで西寺さんは喋り手としてシフトしたのはターニングポイントなような気がするよね。
カンノ:ロフトプラスワンから飛び立つ感じになりましたよね(笑)そのころのミュージシャンってめっちゃ喋れちゃうと、ミュージシャン像としてはリスナー側に降りてくる感じってあるじゃないですか?当時ってまだSNSがない時代だから、リスナーとミュージシャンってまだ距離があったほうが良かった時代だったとも思うんです。
三浦:1万字インタビューでしか素性が分からない感じだよね(笑)
カンノ:まさに!それに比べたら西寺さんって毎日10万字喋ってるような気がするじゃないですか(笑)
三浦:しかも人の曲についてね(笑)
カンノ:それが今の時代とかなり良い感じにリンクしている気がしますね。
ハシノ:そもそもミュージシャンって喋りが上手くある必要ってなかったじゃん。
カンノ:本来はそうですよね。
三浦:う〜ん、難しいところだなぁ…(苦笑)
ハシノ:まぁ、例えばめちゃくちゃ喋れる人ってずっといるの。さだまさしとか。ただ、そうじゃなくても別に良かったんだよね。
三浦:歌い手さんであればね。歌い手は喋れなくて良いんだけど、シンガーソングライターは話が上手くないと売れなかったの。中島みゆきとか。自分で詞や曲を作れる人は話も作れるから売れる。谷山浩子とか。オールナイトニッポンに行った人達ね。それは歌い手からシンガーソングライターになっていった時代というのは大きくて。
カンノ:アーティストという表現者なのか、皆に楽しんでもらうサービス業なのかってありますよね。
三浦:アーティストと呼ばれるのはその後の時代なんだよね。
カンノ:それって要は、90年代初頭ですか?
三浦:ビーイングもそうだし、あとバンドね。バンドのカラーがあるから喋らないってなるんだけど、その後のビジュアル系は喋る方向になるんだよ(笑)
ハシノ:なるほど(笑)
三浦:話が面白くないと売れないからね。
カンノ:それってどの辺りですか?
ハシノ:多分、西川貴教だよね。ド初期のビジュアル系の人達って、根がメタルかパンクかどっちかじゃん。
三浦:お話をしない人達(笑)メタルやパンクまでは喋らない。むしろ、その時代だけじゃないかな、喋らないビジュアル系って。
ハシノ:分かった、ビジュアル系を作った人達は喋らないんだ。でも、ビジュアル系というのが世の中にあって、「俺はビジュアル系をやるぞ!」と後乗りしてきた人は喋るんだ。
三浦:あれやこれやして売れたいからね。
カンノ:世の常ですね。
ハシノ:第1世代と第2世代で違うんだね。
カンノ:そうですね。それで第2世代は「前の人達に足りないのはサービス精神だ」となるんですね(笑)
三浦:かっこよくキメたところで先人を超えられないから、面白おかしくやるしかなかったんだよね。
カンノ:3枚目で勝つ方向になるんですね。
三浦:それで未だに根強くビジュアル系の人達はラジオ番組を持ってますね。
カンノ:そういえば僕が最初に好きになったラジオは『西川貴教のオールナイトニッポン』でしたね。一応、ラジカセからアンテナ伸ばして「電波入らねぇな」とかやってたギリギリの世代です(笑)
ハシノ:シンガーソングライターの話で言うと、例えば今の長渕剛って誰の影響も受けていないように見えるよね。
カンノ:でも初期の『東京ポッド許可局』では、長渕剛と片岡鶴太郎同一人物説が言われてましたよね(笑)要はモノマネ芸人という意味で。その中でも話されてましたが、マキタスポーツさんが中学か高校の頃、ラジオの番組内で長渕剛がギター講座を開いていたと。そこで、「吉田拓郎だったらこういう感じで弾いたらそれっぽくなる」みたいなことを長渕が言っていて、それに衝撃を受けたと。マキタさんの芸風に繋がる話ですよね。やっぱりシンガーソングライターって皆面白いんですね。
ハシノ:ピン芸人だよね(笑)
カンノ:1人でどう頑張るかって話ですね。
ハシノ:ピン芸人って自己完結するもんね。だからひな壇での立ち振る舞いが難しかったりね。
カンノ:M-1とR-1が全然違うみたいな話ですよね。漫才のフォーマットのままひな壇に行けるM-1と、自分の世界観だからひな壇みたいなコミュニケーション必須な場面では難しいR-1 みたいな。
ハシノ:それで言うと、シンガーソングライターって「俺様」と言える環境だとめちゃくちゃ活き活きするんだよ。それってラジオにすごく向いているということだよね。
カンノ:一国一城の場所としてのラジオですね。
ハシノ:すごく笑ってくれる作家がいるだけのプライベート空間みたいな。活き活きするよね。
三浦:もう終わっちゃったんだけど、吉田拓郎がラジオをやっていて(※2)。それは1人で喋ってるんだよね。
ハシノ:あぁ〜。
三浦:相手がいないで喋っていて。その仕組みで言うと、かなり最高峰だよね。
カンノ:ストロングスタイルですよね。あと、山下達郎も1人ですね(※3)。
三浦:あっ、そうだね。
ハシノ:その辺の人達って、テレビに全然出ないんですよ。いくらヒットしても『ザ・ベストテン』とかに絶対出なかった。だから当時、『LOVE LOVE あいしてる』(※4)に拓郎を引っ張り出したのって事件だったんだよ。
カンノ:そうだったんですね!
ハシノ:だからその辺りの人達は、ベストテンというひな壇に出たくなかったんだよね。
カンノ:『アメトーーク!』には出たくないと。
ハシノ:ラジオという一国一城の主の場所で活き活き出来るからね。
カンノ:司会じゃなきゃダメなんですね。
ハシノ:そうそう。
(※1)詳細リンク→https://www.tbsradio.jp/utamaru/2007/10/mj.html
(※2)『吉田拓郎 ラジオでナイト』ニッポン放送で2017年4月2日から2019年3月31日まで放送。
(※3)『山下達郎 サンデー・ソングブック』TOKYO FMをキー局に、前身番組含め1992年10月3日から現在でも放送。山下達郎の個人コレクションを使って発信されるオールディーズ・プログラム。
(※4)フジテレビで1996年10月5日から2001年3月31日まで放送されていた音楽バラエティ。毎週アーティスト1組を迎えて、トークコーナーと音楽コーナーで構成された番組。