「Radio OK?NO!!第4回『サンプリング方法論』特集」にて、カンノと上野がテーマにしている「サンプリング方法論」。カンノがドリフターズの志村けんがイギリスのコメディ番組モンティパイソンの引用をしていたことに気がついたことに端緒を発し、単なる音源のサンプリングではなく、サンプリングされる音源の背景、文脈、仕組みを含めて引用していく広義の「サンプリング」の魅力について話している。
Radio OK?NO!!第4回「サンプリング方法論」特集
これに対して、単行本としてリリースされている古川日出男作品を全て集めているYou-suckが、小説家:古川日出男も「サンプリング」をしているな、というところに気がつき、話に混ぜてもらう形でZOOMで話をさせてもらった。
前半の会話がYou-suckのPCが落ちて録音が消えてしまったため、前提となる会話をまとめると、
古川日出男の特異たる点は、数多のサブカルチャーからの「サンプリング」によって物語を作るところに面白さがあるんじゃないか!
- 『中国行きスロウ・ボートRMX』(2003年、のちに『二〇〇二年のスロウ・ボート』)は、村上春樹の短編集『中国行きスロウ・ボート』(1983年)から要素をサンプリングして新たな話を作っている。
- 『サウンドトラック』(2003年)は村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』(1980年)の要素の多くを「サンプリング」している。
以降は、上記の古川日出男の話を下地に、録音を再開して文字起こしした文章である。
(カンノが加藤ミリヤの『恋シテル』(2008年)を流しながら)
カンノ:録れてる?録れてる?
You:うるせーな!完全に録音できているよ!!サンプリングの話題で大ネタ使って別にそんなにいい曲じゃない悪い例が出ちゃったよ!笑
カンノ:悪い例とか言うなよ!良い例だろ!笑
You:『X.O.X.O.』ね笑
(加藤ミリヤは『X.O.X.O. 』( 2010年)でスピッツの『ロビンソン』のイントロのフレーズをサンプリングしている。)
上野:えー、気を取り直して(笑)個人的にはここで話したかったこととしては、小説におけるサンプリングと音楽におけるサンプリングって違うんじゃないかっていう気がしているっていうことで。カンノが出しているサンプリングは文脈を含めたモノのことを指していて、古川日出男のサンプリング性って改めてなんなのか、それが音楽にフィードバックされたらなんなのか?ということを聞きたい。古川日出男は文脈とかのサンプリングはしていないよね?
You:たしかに、古川日出男がやっている「サンプリング」は文脈ではなくて、文体模写でもなく、パロディでもないと思う。
カンノ:ここのブレイク気持ちいい!みたいな感じだよね。
You:そう、この要素が気持ちいいから小説の中で取り入れているっていう話だと思う。それは『さらば雑司ヶ谷』も同じだと思う。一般人が小沢健二について批評しあってるところとか、音楽雑誌の評論家たちの対談みたいだしね。
上野:それは、バラエティとかでいうと、マキタスポーツがやっている曲構造物真似みたいなものなのかな?ミスチルがトイレを歌っている、とか。
You:それは近いかも。
カンノ:モノマネってサンプリングなのかな。
上野:モノマネのメタレベルがいくつかあって、何かに似せてまんまモノマネしているわけではないと思う。
You:そうだね。マキタスポーツって別に歌声似せてないもんね。
上野:この歌いかたをこれだけ真似られるっていうのが第一段階、この人これ歌いそう,が第二段階、この人ならこの曲作りそうが第三段階だとすると、古川日出男がやっているのは第二段階第三段階だよね。
カンノ:たとえば、古川日出男は村上龍を真似ようとしているのか、それとも村上龍の小説の気持ち良いところを真似ようとしているのかでいうとどっちなんだろう?
You:古川日出男は村上龍を真似てはいるわけではなくて、村上龍のお話の気持ち良いところを真似ようとしているんだと思うよ。
上野:文体模写とかをしていないんなら、マキタスポーツの芸と近いかもね。
カンノ:古川日出男の文体は独特だよね。音楽でいうとMOROHAに近いような気がしている。
You:ポエトリーリーディング的なところとかかな?そうかもしれない。
カンノ:古川日出男も向井秀徳と一緒に朗読したりして、音楽とのコラボレーションをしていたのもあってMOROHAのイメージが出やすいよね。
You:古川日出男は身体的な表現を小説に取り入れようとしていた節はあるね。ダンサーの原田育世ともコラボしているし。
古川日出男×黒田育世×松本じろ×小島ケイタニーラブ「東へ北へ」
カンノ:文体から身体性を感じるよね。そこはMOROHAと近いような気がしている。MOROHAも古川日出男もなんかBPMではないスピード感を感じるんだよね。
上野:小説に関しては読んだときのスピード感もあるよね。昔読んだ『ベルカ、吠えないのか?』も読んでいてスピード感を感じる。
カンノ:古川日出男といとうせいこうの小説は文体にスピードを感じるよね。
You:誰かが言及しているのを見たことないけど古川日出男といとうせいこうの共通項って多いんだよね。バックボーンに音楽があったり、二人とも震災小説描いてるし。いとうせいこうでいうとムスリム世界になった東京が舞台の『ワールズエンドガーデン』(1991年)とか、想像力のぶっ壊れかたも似ているよね。古川日出男は語っていないけど、いとうせいこうの小説から影響は受けているんじゃないかなぁ。
カンノ:いとうせいこうも古川日出男もどちらも話の構造が狂ってるんだよね。いとうせいこうはむしろ小説の方にヒップホップを感じるんだよね、構造から覆す感じが。