SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

「サンプリング方法論」番外編:小説におけるサンプリングについて〜小説家:古川日出男を通して〜②

「Radio OK?NO!!第4回「サンプリング方法論」特集にて、カンノと上野がテーマにしている「サンプリング方法論」。カンノがドリフターズ志村けんがイギリスのコメディ番組モンティパイソンの引用をしていたことに気がついたことに端緒を発し、単なる音源のサンプリングではなく、サンプリングされる音源の背景、文脈、仕組みを含めて引用していく広義の「サンプリング」の魅力について話している。

 

Radio OK?NO!!第4回「サンプリング方法論」特集

 

これに対して、単行本としてリリースされている古川日出男作品を全て集めているYou-suckが、小説家:古川日出男も「サンプリング」をしているな、というところに気がつき、話に混ぜてもらう形でZOOMで話をさせてもらった。今回はその後編をお届け。前編はこちら。

 

 

 

 

上野:もう一回古川日出男のサンプリングに立ち戻りたいんだけど、サンプリング性って一種の批評性を持っていると思っていて、古川日出男の批評性ってなんだろうね?

You:批評性がゼロではないと思うけど、どちらかというと、海外のラッパーがヤマタツの音源をサンプリングしているのに近いと思う。ヤマタツの曲が美しいから、っていうのと同じ感覚だと思う。『アラビアの夜の種族』は「千一夜物語」、『サウンドトラック』の『コインロッカーベイビーズ』の物語としての強度を借りているという感じがする。

 

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

  • 作者:村上 龍
  • 発売日: 2009/07/15
  • メディア: 文庫
 

 

上野:なるほどねー。

 

You:また話は変わるけど、サンプリングとモノ作りに関して、坂口恭平が面白いことを言っていて。坂口恭平が自殺したい人に対して、自分の携帯電話の番号をネットで公開して「いのっちの電話」と称して相談窓口の活動をしていて、その会話の内容がたまにツイッターにながれてくるんだけど、「死にたい」とか「仕事行きたくない」っていう人に対して、坂口恭平は「本当は他にやりたいことないの?」って詰めていくんだよね。そうすると、たとえば相談者から「音楽が好き」とか「小説が描きたい」みたいなやりたいことが出てきて、それに対する方法論を坂口恭平が説いていくんだけど、それがまさにサンプリング的な手法で、音楽が好きだったら好きなアーティストの歌詞の好きなところを書き出して組み合わせて曲にしちゃえ、っていうんだよね。で、相談者はそちらに取り掛かることで自殺したくなくなる、みたいな感じ。

 

 

You:これって、物づくりの本質をついていると思うんだよね。自分がこれまで見てきたモノ聞いてきたモノから、新しいものを作る。それを意識的にやっているかどうか、サンプリングして作品に仕上げる速度が早いかどうか、っていうのがその作り手の実力としてみられるような気がしている。

カンノ:ものづくりの本質だね。それでしかないよね。

 

You:そういう意味で、古川日出男はかなりその本質を自覚してサンプリングをしている人だと思う。もともと古川日出男はデビュー前は雑誌の仕事で映画を観てそれを簡単なシナリオにまとめる、っていうことをやっていたんで、物語のストック数がもともと尋常じゃない。

カンノ:もともとそこの知識もある人なんだよね。勉強ですよ、日々(笑)

You:『アラビアの夜の種族』も、無数の物語をサンプリングしている。つまり、音色を打ち込んでいるっていう風にも思うんだよね。

上野:なるほどね。

You:あとは、「サンプリング」ってサンプリングされたものをどう受け取るかは受け手に委ねられているという話もあるよね。歴史や文脈を読み取るもよし、関係なく楽しむもよし。

カンノ:志村けんの『ヒゲダンス』ってそういう意味では面白いんだよね。『DO ME』っていうFUNKの曲をFUNKの村で消費するのではなく、一般大衆に向けて広げていったのがすごい。一つのジャンルで終始しないっていうことは大事だと思う。

 

 

You:古川日出男はそういう意味では、あんまり正統に評価されていないように思えるけど、いろんなサブカルチャーのサンプリングを小説の世界でやっている人で。佐々木敦は昔から評価しているけどね。

上野:佐々木敦がやっているHEADZも同じだと思う。

カンノ:蓮沼執太とか、クチロロとかもそうだね。

You:僕らが面白いと思っているものは、みんな多かれ少なかれサンプリングを明確に、自覚的にやっている人たちだなー、と思った。