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サムオブ井戸端話#003「アニメ音楽の疾走感ロックサウンド問題」

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週火曜日にアップします。

 

映画『映画大好きポンポさん』を観て、内容は面白かったが音楽が苦手だったと感じたYOU-SUCKメンバー。アニメ作品で使われがちな疾走感溢れるロックサウンドはいつ頃から出てきたのかを語り合いました。

 

YOU:『映画大好きポンポさん』って知ってます?

オノウエ:知らない。

カンノ:知らないっすね。

YOU:これは劇場公開しているアニメなんです。

YOU:簡単にあらすじを説明すると、舞台はハリウッドを模したニャリウッドという場所で、そこで映画制作会社の代表をしているのがポンポさん。彼女は幼女のキャラクターでロリロリな服を着てツインテールで。その子がめっちゃ映画に詳しくて、年齢は不詳。このポンポさんのなにが面白いかというと、映画の制作過程をリアルに描いているの。クランクインがあって、衣装選びがあって、本に対してどういう撮り方が効果的かなど、映画論が結構盛り込まれているんですよ。この作品は2017年にpixivコミックで無料でアップされたのがきっかけで書籍化されて人気になり映画化されたんだけど。

カンノ:そっか、もともとは漫画なのね。

YOU:そうそう。ポンポさんは作品では狂言回し的な人で、主人公はジーン君という根暗な映画好きで、ポンポさんのもとで下積みをしてるんだけど、才能を見出されて監督として成功していく話なんです。典型的なビルディングスロマンなんだけど。でも演出とかが結構面白くて、わりとテンポ良く観れるので僕は結構好きなんです。で、なんでこの話をしているのかというと、音楽がちょっとキツくて…。

カンノ・オノウエ:(笑)

YOU:この舞台はハリウッドを模したところなのに、日本のアニメで使われるような音楽が流れてくるから違和感を覚えるの。いわゆる歌い手文化の人とかVtuberの音楽なんですよ。ようは『化物語』の主題歌みたいな。

YOU:もっと分かりやすいところでいうと、米津玄師とDAOKOの「打上花火」とかね。あれもアニメ映画の主題歌だから。

YOU:なんかこの辺のイメージ分かりますかね?疾走感あるテンポでピアノが入ってて泣きのメロでギターがギュンギュン鳴ってるやつ。

オノウエ:日本的な壮大感だよね。

カンノ:新海誠×RADWIMPSなんかもそうだよね。

YOU:あの音楽だけはあんまり好きじゃなくて。たとえばなにか壁を突破するときの音楽が、いちいちエモかったりさ(笑)「こうやったらエモくなるんでしょ?」って感じ。

カンノ:壁を突破するときの音楽それ自体が全然音楽の壁を突破していない(笑)既視感バリバリなんだね。

オノウエ:その映画は音楽以外の演出も日本的なの?

YOU:日本的だね。ハリウッド女優みたいな女の子がいるんだけど、どう見ても日本のアニメの萌えキャラなの。ちょっとロリっぽいようなお姉ちゃん。そんでヒロインの女の子もロリっぽいドジっ子な感じ。それでポンポさんに至っては幼女だから。

カンノ:ギャグっぽいの?

YOU:ギャグ要素もあるけど、基本はちゃんとストーリーに沿ってる。

オノウエ:だから「ゴールがハリウッド」ってことがおかしいんじゃないの?

YOU:妙なアニメなんだよ。ハリウッドでアカデミー賞を獲ることがモデルなんだけど、ずっと日本のアニメのフォーマットで進んでいる面白さ。で、ポンポさんは幼女だけど年齢不詳で敏腕プロデューサーという設定で、ようは「ファンタジーですよ」っていう。

カンノ:「この世界はフィクションですよ」っていうことね。

YOU:それが示されてるからギリギリ見られる。でも音楽だけは許せない(笑)

オノウエ:なんか演出の整合性とかではなく、単純に「ムカつく」っていう話…?(笑)

YOU:透明感のある歌声を持った女の人がピアノとギターがギャンギャン鳴っているエモエモな音楽で、それで壁を突破する描写が「もうやめてくれ…」っていう(笑)

オノウエ:ああいう音楽とアニメの親和性ってどこから生まれたんだろうね?

YOU:『化物語』が大きい気はするかな。その前もあるけどね。たとえば『涼宮ハルヒ』のシリーズなんかは劇中歌が結構大きな意味を持ったりする。

オノウエ:なんかテンポがむちゃくちゃ早い電波系ソングとの親和性が高いのは分かるの。完全にマッシブな日本のアニメ表現とリンクする様っていうのは。でも米津×DAOKOみたいな壮大な感じとか、ああいう音楽とアニメの親和性が高くなったのはどこからなんだろう?これはセカイ系みたいな話なのかな?

YOU:日本のロックはほぼアニソンみたいな。よく「いろんなものがガラパゴス化されてる」なんて言われているけど、日本のロックって世界のトレンドとはちょっと違う流行り方してるじゃん。未だにロックバンドがちゃんとロックバンドとして売れているみたいな。なんでそれが保たれているかというと、アニメの影響がデカいんだと思う。ロックの音楽とアニメのストーリー展開が相互補完的に成り立ってて、それが未だに続いている感じがしたんですね。「これ以外の方法はないのか?」って思いつつ、「良い映画だったな」と思ってパンフレット買って出たんだけど、音楽だけはダメだった…(笑)

オノウエ:本当にダメだったんだな(笑)

YOU:『映画大好きポンポさん』が良かったのは、所謂「萌え系」と呼ばれるアニメの作り方のうえで、結構ガチなクリエイター賛歌みたいなことをやってるから、そこのギャップが面白かった。でも音楽がアニメ方向に寄せすぎてるんだよなぁ。あと映画のなかで映画をテーマにするなら、そこはむしろアニメに音楽を寄せなくても良かったんじゃないかなと思っちゃった。

オノウエ:「映画のなかで映画をやる」の演出が日本のアニメに寄せたことをやって、音楽はそのなかに入ってたってことだよね。

YOU:ちなみに劇中作は『MEISTER』って映画で、それは指揮者の話なの。だからクラシック音楽とかが映画のなかで鳴ってるわけよ。それなのにも関わらず、普通の日本のニコ動っぽい音楽というか、歌ってみた系のロックが流れてくるのが変だなと思っちゃった。

オノウエ:たしかに歌ってみた系って素人の文化じゃん。素人文化発の音楽がハリウッドを目指す映画のなかで使われているってたしかに変な感じがするね。

YOU:もったいないなと思っちゃって。あそこの音楽を差し替えるだけでもうちょっと印象が変わる気がする。

カンノ:たとえばどんな感じだったらまだマシになりそう?

YOU:歌がないとか。

カンノ:歌が入るとガッカリする感じってあるよね。

YOU:あとピアノがダサい、俺はこれをずっと言い続けてるけど(笑)

カンノ:お前は本当にピアノが嫌いだもんな(笑)あれだよね、「疾走感を生み出そうとするピアノの音」だよね。

YOU:そう、それが本当に嫌いなの(笑)

カンノ:ネット発の音楽が、ゼロ年代のころに多かった疾走感のあるロックバンド風な音が多いの、あれはなんでなの?

YOU:BUMP OF CHIKENの影響が大きいんじゃない?

カンノ:バンプは大きいかもね。

YOU:BUMP OF CHIKENとアニメ文化ですよ、犯人は(笑)

カンノ:バンプの影響下から動いてない感じはあるね。

YOU:バンプは『ワンピース』もやってるし『ファイナルファンタジー零式』っていうのもやってるし、幅広いんだよね。

カンノ:本人たちも好きだもんね。

オノウエ:「アルエ」だからね(笑)

カンノ:バンプの呪縛だ。

YOU:バンプは呪いですよ。バンプのせいで思春期の疾走感が量産され続けている(笑)

カンノ:制服を着たら走らなきゃいけない(笑)

オノウエ:思春期の呪いね~。

YOU:あんまりアニメとかは見ないんだけど、急にギャンギャンしたギターロックが流れてきて、疾走感や焦燥感や切なさを表さられると、アニメとのギャップを感じちゃう。

オノウエ:でも日本でビルディングスロマンをやろうとすると、どうしても音楽はそうなっちゃうんじゃない?

カンノ:アニメとロックバンドの親和性の呪縛はまだまだ強いよね。

YOU:現状ロックバンドはアニメにしかいないもんね。

オノウエ:そうやって生き残るしかないもんね。

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