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サムオブ井戸端話#004「サブスク全盛時代での音楽の”呪い”」

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週火曜日にアップします。

 

ミュージシャンに憧れてハマることを「呪い」としたときに、「そういった呪いはサブスク全盛の時代で成立するのか?」とオノウエメンバー。3000円払ってアルバムを買うことと定額で音楽を聴くことの聴取態度の違いや、人をカルチャーの沼にハマらせる「呪い」を持続させる仕組みについて語り合いました。

 

カンノ:たとえば「ミュージシャンになりたい」という思いって「ミュージシャンになりたい」と思わせるなにかがあってそうなるわけじゃないですか。ここではそれを「呪い」と呼びましょう。そこでみなさん、それぞれ「呪い」ってありませんか?「これがあったからこうなっちゃった」みたいなやつ。逆に言えば「これさえなければもうちょっとまともに生きられたのに」とも言えるんだけど(笑)そういうのってありますよね。

オノウエ:それぞれあると思う。あとキャリアの長いミュージシャンにどこかのタイミングで失望する瞬間ってあるじゃん(笑)

YOU:そうね、勝手にね(笑)

オノウエ:勝手に呪われて、勝手に裏切られた気持ちになってるんだけど(笑)

YOU:「お前、あのときにかけた俺への呪いはなんだったんだ!話が違うじゃないか!」(笑)

オノウエ:そういう勝手な被害者意識みたいなやつね。そういう「呪い」って今存在するのかな?僕らやその上の世代ってちゃんと呪われてきたと思うんだけど、今の若い世代って誰に呪われているんだろう?こと音楽の世界に関して。

YOU:「呪い」って言葉だと観念的すぎるけど、ようは「ハイスタ世代」みたいな言葉だよね。みんなハイスタのコピバン組んでたみたいな。

オノウエ:俺が知らないだけなのかもしれないけど。なんでこれを思ったのかというと、サブスクの時代における音楽聴取の態度ってどういうものなのかが根本的に俺はあまり分かっていないんです。たとえば僕らの時代だったら、今月のお小遣いが3000円しかないのに3000円でアルバムを買っちゃうわけじゃん。で、買っちゃうと呪われるの(笑)

カンノ:来月3000円が入ってくるまで、このアルバムを聴き続けなければならない。

オノウエ:そうそう。それで今のサブスクの聴取態度でそういった呪いは発生し得るのか。そこから考えると、まつきあゆむがやっていたモデルは結構良かったんじゃないかって最近思うようになった。

カンノ:まつきあゆむはどういうモデルだったの?

オノウエ:まつきあゆむはCDを無くしただけなんだよ。2000円払ってMP3が来るっていう。

オノウエ:で、CD代としての3000円みたいなものを払ってるじゃん。あの方向に音楽のデリバリーの仕方が行かなかったよね。CAMPFIREみたいなモデルにもうちょっとうまく使われたら良かったのかもしれないけど。だからサブスクみたいな定額でばら撒かれるものって「呪い」は生まれにくいのかなって思ったんだよね。モノに対する執着って、その作品に対するインパクトもあるけど、「俺はこんだけ金を払った」というのもあるじゃん。「金を使っちゃった」っていう。それってもう嫌いになれないじゃん。嫌いになることすらできないんだよ。なぜなら金を払っちゃったから。

カンノ:ザルな商売だね(笑)

オノウエ:それもある種、共犯な仕組みだよね。

カンノ:しかも3000円払う前から呪いにはかかってるわけだもんね。呪われたから3000円払ってるんじゃないの?

オノウエ:たとえば「これ良さそう」と思うミュージシャンがいて、シングルを聴くには1000円が必要じゃん、自分の環境で聴くには。だからお金を払うしかない。その「お金を払う」行為をもって呪いが成立していて。逆に言うと、払わなかったから呪われなかったとも言える。

カンノ:お金を払ってCDを買おうかどうか悩んでいる状態は「半呪い」だ。

オノウエ:そうだね。CDを買おうかどうか悩んでいるときは半分呪いにかかっていて、CDを買ったら完全に呪いが成立する。

カンノ:霊的効力が財布からお金を出させようとする(笑)

YOU:後先考えずにアルバムを買っちゃう瞬間はあったよね。

オノウエ:そういうものって今はあるのかな?あと、まつきあゆむの仕組みがもうちょっと一般化していたら、良いか悪いかは一旦置いといて、ちょっと状況が違っていたのかなと思うわけです。っていうのは、一発屋で売れる人たちがボンボン出てくるみたいなことにはならなかったのかなって。持続性の問題というか。持続させる方法って「どれだけ呪われた人を多く作るか」じゃん。あと同時に自分が思うのは、僕はもう最近なにかにハマるような体験がほとんどなくなっちゃってるんですけど。それは仕組みのせいにしてはいけないんだけどさ。

カンノ:好きなものがないってこと?

オノウエ:昔みたいな熱量で接せられるものってないんだよね。

YOU:それは老化なんじゃないか?(笑)

オノウエ:老化なんだけどね(笑)

YOU:多分、今の若者は今の若者でなにかほかの文化にちゃんと呪われていると思うよ。

オノウエ:そういうことを知りたいんだけど、どうすれば知ることができるんだろう…?

カンノ:10代と喋る機会がないもんね。2人は妹がいるけど、なにかにハマってたりしてる?

YOU:うちの妹は普通にジャニーズかな。

カンノ:なるほどね。

YOU:ジャニーズって呪いの再生産をちゃんと成功させてるから(笑)

オノウエ:「呪いの再生産」(笑)

YOU:芸能史的にいうと、今めちゃくちゃゴタゴタしててさ。最近もマッチが退所したりさ。ゴタゴタしてるけど、でも若い子からしてみると、マッチが抜けようが関係ないよね。

カンノ:ジャニーズのカウントダウンコンサートで先輩の往年の楽曲を歌っても関係ないもんね。

YOU:そうそう。すごいのが、ちゃんといる人だけで盛り上がれるんだよ。抜けた人に対してそんなに思いを馳せていない。ようはアイドルってちゃんと呪いの再生産の機能ができているんだよ。

オノウエ:そっか、ほかの文化には再生産の機能ができていないのか。

YOU:たとえば「このレーベルのミュージシャン、全員推しです」みたいな機能が今はないよね。供給側も需要側もそんな意識なくて。ちょっと前の東芝EMIって「こういうロックバンド集めました」って感じがあったじゃん。Victorがやってる『ビクターロック祭り』はかなりマシなことやってると思うもん。「日本のロックをうちのレーベルから打ち出していきますよ」という意思は分かるじゃん。テクノだと「Warp Recordsのアーティスト、いっぱい聴いてます」みたいな。それが呪いの再生産の仕組みなんだと思うんだよ。

オノウエ:そうだよね。呪いを解いちゃいけないんだもんね。呪わせ続けないといけない。

YOU:それでいったら音楽よりも映画のほうが呪いは強い気がするな。もっというとMCUね。MCUって超巨大な呪いなんですよ。既存の作品ですら量が多くて観るのが面倒臭いけど、呪いにかかる人はどんどんコンテンツを消費して、グッズ買って。スターウォーズとかもそうかもしれないけど、直近だとMCUかな。

オノウエ:それでいうと、僕は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ですね。『シン・エヴァ』を観るために『エヴァンゲリオン』は全部観ました。

カンノ:ハマってるもの、あるじゃん(笑)

オノウエ:でもそれは『シン・エヴァ』が上映されるから観るのであって、ようは終わりを知るために観てるの。だから僕は呪われていません(笑)でも当時、リアルタイムで観ていた人はこの『シン・エヴァ』に対してめちゃくちゃ怒ってるじゃん。あれは「俺たちにあれだけの呪いをかけたのに、綺麗に呪いを解こうとするなよ!」っていう怒りが出ている気がした。

YOU:いや、本当に大人になってほしいよね。「いつまでもアニメなんか見てんじゃねえよ!」って思ったよ。

カンノ・オノウエ:(笑)

オノウエ:でもそれこそがあの映画のテーマだったけどね。「大人になれよ」って。碇シンジは大人になっちゃったからね。

YOU:「大人になっちゃった」って結構大事なことだと思っていて。「大人になっちゃった」ということに対して、ギアを思春期のままにするんじゃなくて、ちゃんと諦めるってことは大事だと思うんですよね。まぁ、こと音楽に関しては呪いの磁場はなくなってきている気はするね。アーティストそれぞれで小さな呪いはあるだろうけど、「〇〇世代」って呼ばれるようなミュージシャンの呪いはないよね。

カンノ:たとえばヒゲダンに呪いの作用はない気がする。

オノウエ:ヒゲダンからは魔術の匂いはしないよね(笑)

カンノ:ヒゲダンによって人生を変えられる気はしない(笑)

YOU:ポルノグラフィティっぽいよね。

カンノ:分かる。ポルノは基本、人を呪わないよね(笑)

YOU:ポルノのすごいところはそこ。誰も呪っていないけど、誰にも嫌われてもいない。

オノウエ:でもYOU-SUCKメンバーは数少ない、ポルノグラフィティに呪われた人なんじゃないの?

YOU:俺はポルノに呪われたね(笑)ポルノグラフィティを一時期聴きまくっていたせいで、音楽的に詳しくなったほうがいい部分をあまり詳しくなれなかった(笑)

オノウエ:逆に「ポルノグラフィティ年表」を作れるくらいポルノグラフィティに呪われたからね(笑)

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