SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週火曜日にアップします。
前回「スピっていて根性のある人がアーティストを続けられると思う」という話をしたSOMEOFTHEMメンバーたち。引き続き、自分自身の確固たる理屈(=スピ)を信じ続けられる(=根性)人こそがアーティストでいられるのではないかということを語り合いました。前回の井戸端話は下記リンクです。
YOU:そこに対して根性はどう関係するの?
カンノ:スピを信じ込めるかが根性だね。まずスピが存在する。これが先天的なもの。それの持続が根性なんだよね。
YOU:いかに自分をスピに置いとくかってことね。座禅とかそうだよね。
カンノ:座禅をしようと思い立つのがスピで、それを続けるには根性だね。
YOU:それはそうだね。
カンノ:その思いつきがどうなるかなんてさっぱり分からないわけじゃん。でも自分のなかで「これはイケるな」って無根拠に思えるかどうかなんだよ。そしてそれは傍から見たらどうかしてるんだよ。
オノウエ:そういうもんだよね。
カンノ:でもその状態に入れるというのは重要だと思うんですよね。
オノウエ:俺理論に無根拠の自信があるかどうかってことだね。無根拠の自信をもてる人がスピれる才能がある。
カンノ:そしてそいつがいくらそれを言葉で説明したところで、説明になっていないっていうのも大事だね。
YOU:でもアーティストの人はその思いつきを結果的に世の中に流通させるわけじゃん。だからある程度世間に通じるものも持っていないといけないと思うんだけど。自分の極私的なものを社会に流通させるっていう才能も持っていないといけないよね。
カンノ:もちろん周りのスタッフなどから客観的な意見をもらうことも必要だよね。自分のスピだけでうまくいくというわけではない。ただその0→1というのはスピから来るもの。その1を100にするために周りの客観的な意見とかは必要だね。そしてその周りの人たちも「あー、またこの人、わけわからないことを言ってる」みたいなことってあると思うんだけど、でもそのスピへの理解力はある状態だから。まぁそれは第2行程以降の話だけど、最初のスピった思いつきというのは第1行程だよね。「これをこうしたらこういう風に作れる」と話しているときは目の奥を真っ黒にして喋ってるから(笑)その状態にどうやったらなれるか。
YOU:しかもその状態で置き続けるっていう。
カンノ:それが根性。でもこれって、周りから見ての根性にすぎなくて、本人はそんなに根性の状態でもないんだよ。
YOU:スピと根性が完全に正のループとして回っているんだ。
カンノ:「スピ」と「根性」ってそうとう危ないワードを使ってるけど(笑)、一個人で完結する分にはいいのかなって。
オノウエ:そのスピっている状態って、周りから見たらどう考えても辛そうな状態なんだけど、本人は意外と辛くないっていう。
カンノ:飲まず食わずでも大丈夫な状態というかね。
YOU:でも、とはいっても辛いんじゃない?
カンノ:もちろん度合いはあると思うけどね。軽スピもあれば重スピもある。
YOU:0か100かって話じゃないわけね。
カンノ:30くらいのスピのときもあれば、70くらいのスピのときもある。ただスピの瞬発力はあると思うんだよな。急な100スピとか。
YOU:カンノはたまにちゃんとスピってるもんな(笑)
カンノ:目ん玉真っ黒なときはありますよ。僕がやっている4×4=16(シシジュウロク)というラップユニットで「星野裁き」という楽曲を作ったときは目ん玉真っ黒でしたから(笑)
オノウエ:目ん玉真っ黒で、それがどんどん大きくなっていったもんね(笑)
カンノ:「これがこうでこうでこうやって、ほらできた!」って(笑)
オノウエ:最初に説明を聞いたとき全然分からなかったもん(笑)
YOU:あんなの分かるわけねえよ(笑)
オノウエ:「これはこうでこうなんだけど、ここでこの整合性が取れていないから」とかって話を聞いても訳が分からない(笑)
カンノ:そもそもそんな整合性ねえよ!
オノウエ:ないない。
YOU:病的だね、本当。
(「星野裁き」は星野源「アイデア」という楽曲が”バンド→MPC→弾き語り”と3パートに分かれている構造になっているということと、落語「天狗裁き」の主人公が”奥さん→長屋の親友→長屋の大家→奉行→天狗”と5パートに分かれて喧嘩をする構造になっていることをマッシュアップさせて作った楽曲、と文字で説明したところで伝わらない)
オノウエ:だからちゃんとスピと根性をやっていると思うよ。スピ根をしているよ。
カンノ:アーティストにはスピ根が必要だと思うんだよな。
YOU:でも今って、「スピらず根性もなく人生乗り切れますよ」みたいな言説が溢れすぎてるよね。
カンノ:まぁ、それがまともなんじゃないの?
オノウエ:どうなんだろうね?
カンノ:皆はスピってないの?
YOU:ないね。
オノウエ:俺もスピれる才能も根性もなかったな。
カンノ:これは僕の先輩から聞いた話なんですけど、芸能の世界で勝つ人の話を聞いたんですね。それはたとえば道を歩いていて1万円を拾ったと。それで「1万円拾った、ラッキー」とだけ思うのか、「俺は今朝この時間に起きて、それまでこうやって時間を過ごして、今たまたまこの時間にこの道を歩いたから1万円を拾えた人間なんだ」という2種類の考え方があるとしたときに、確実に芸能の世界で売れるのは後者の考え方を持っている人なんだって。
YOU:その話はカンノは後者だよね。
カンノ:その話を聞いたときに、もうちょっと続けてみようって思ったね。
オノウエ:俺は絶対前者だな。
YOU:たいていの人は前者だよ。後者は稀だと思うな。
オノウエ:あと後者みたいな考え方の生活に自分が耐えられないな。だって今までの自分の行動が今の自分の行動に紐づくんだもん。そんな生活耐えられないよ。
カンノ:でもこれはご都合なんだよ。1万円を拾ったときにはそう思うんだけど、本当の強者は、たとえば1万円じゃなくて落とし穴にハマっただとしたら、「なんで落ちなきゃいけないんだよ、クソ!」で終わりなんだよ。そこではその日の行動の紐づきとかは考えないと思うんだよな。
YOU:政治家とかそんな感じな気がするな。
オノウエ:それは毎朝やっている星座占いの1位だけ信じるみたいなこと?
カンノ:そうそう。それが一番強い人。12位も信じちゃう人は辛くなっちゃうと思うな。
オノウエ:俺はそうなっちゃうな。
カンノ:”ご都合スピ”ってあるから。
YOU:なるほどな、面白いな。この話、めっちゃ自己啓発だよ(笑)言う人によっては「なに言ってんだコイツ」って話をしてるけど、カンノのことを知ってると面白いな。
カンノ:冒頭話した頭の切れるミュージシャンの人ですら、わりとよくある偶然で喜べるっていうのは、なんかあるのかな~って思ったんだよね。
YOU:ロジック外のところで起こる偶然ね。
カンノ:それで「ウェ~イ!」と盛り上がれることが、ちょっと見ていて嬉しくもあった。
オノウエ:あんなに論理的に話せるのに、星座1位はちゃんと喜べるってことね。
カンノ:それが垣間見れたね。
オノウエ:そしてカンノ自身もそっち側だから、引き続きそんな感じでやっていこうってことだね。
カンノ:そういうことでちゃんと喜べるってことが、広い意味でアーティスト性につながっていくのかなって思いましたね。
YOU:僕は「推し」という言葉が嫌いなんですが(笑)、ここでの話というのは、自分で自分のなかに推しを生んでいる状態だよね。
カンノ:そうだね。根本的に自分がどれだけ好きなのかというのはあるよね。だからこそ、変に自分を客観視しちゃうとスピれないんだよね。むしろ演者よりは裏方のほうが向いているかもしれない。表の媒体に出ていける人って、どれだけ自分にうっとりできているかっていうのは大きいと思うんだよね。で、そういう人だけでは成り立たないから、客観的にものを見られるような人がいるってことも同じく重要かなと。
YOU:とても全うなことを言ってるね。
カンノ:だから俺はどんどんスピを加速させるので、2人は客観を加速させてくださいね(笑)