SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週水曜日にアップします。
FMラジオから「夏のマスターピース」という括りでNUMBER GIRL「透明少女」がかけられたことに対して違和感を覚えたカンノメンバー。「夏のマスターピース」「チルになれる曲」などプレイリスト的なラベリングをすることで音楽が聴きやすくはなるが、自ら音楽を掘らなくなる現象が起こりうることについて語り合いました。前編は下記リンクから。
オノウエ:これまでカンノが言ったことをまとめると、J-POPには3つの規格があって、それは「曲調」と「人格」と「歌詞」であると。それは「歌詞」という言葉の力が前面に出すぎると音楽ではなく言葉を聴いてる感じになっちゃうから良くなくて、3つの規格が全部方向が一致しちゃってると単線的すぎて面白くないってことだよね。
カンノ:そうだね。やっぱり変な感じが欲しいんだよね。「何、これ?」っていう。でも「何、これ?」っていう楽曲って売れないんだよね。
YOU:それはそうだよね。疑問を持たせちゃいけない。
カンノ:分かってはいるんだけど、引っ掛かりがないんだよね。たとえば「渋谷系」っていう分類にアーテイスト自身が入っていこうとする流れとかあったじゃないですか。
YOU:寄せに行く。
オノウエ:寄せに行ってるというよりは、たとえば昔なら「渋谷系」と呼ばれることに対して「僕は渋谷系じゃないです」とアーティスト側が反発することが多かったじゃん。でも今の人はわりとそのカテゴリーに自分から入っていくパターンは多いよね。これはマーケティングの問題だと思うけど。
カンノ:「応援ソング」というのもつまりは「応援ソングマーケティング」だし「応援ソング商売」だよね。「シティポップ商売」っていうのもあるよ。そういった分類がいろんなところにあるよね。J-WAVEが「J-POP」って分類を作り、HMVが「渋谷系」って分類を作るみたいな、その分類のなかで音楽を聴くという習慣が根付いてると思うんだよ。ところでこの前、TOKYO FMの番組を聴いててめちゃくちゃ笑ったんだけど、DJの人が「それでは夏のマスターピースです、NUMBER GIRLで『透明少女』」って言ったんだよ(笑)
YOU:そんなの嘘だよ(笑)
カンノ:そうなんだよ、俺はナンバガのファンだけど「透明少女」を夏のマスターピースだって1ミリも思ってないんだよ(笑)でもナンバガの「透明少女」が人気なのは、もしかしたら「夏のマスターピース」だと本当に思って聴いている人がいるかもしれないなと思ったんだよね。
YOU:そういったプレイリストに入ってた可能性はあるよね。「夏ロックプレイリスト」とか。
オノウエ:プレイリストは絶対入ってるね。
YOU:「J-ROCK BEST」みたいな安定のプレイリストに括られて聴かれてる可能性は大だと思うね。
カンノ:なんか「透明少女」の話をするのも少し気恥ずかしいんだよ。ベタすぎて。それなら『NUM-HEAVYMETALLIC』の話がしたい(笑)
YOU:それはそれで面倒臭いよ(笑)基本的に大多数の人とはNUMBER GIRLの話って通じないじゃん。そのなかでも多少は通じる人がいるんだけど、「やっぱ『透明少女』が最高っすね」って言われると気恥ずかしくなるよね。
カンノ:あとラジオでいうと、これも同じ番組で「リゾート気分を味わうためのスティールパン特集」みたいなのが流れてたの。
オノウエ:変な特集だな(笑)
カンノ:スティールパンを使ったJ-POPを聴いてリゾート気分を味わうみたいな。それでUAの「スカートの砂」が流れてきたの。でね、UAを聴いてリゾート気分を味わえる?(笑)
YOU:あぁ~、言いたいことがなんとなく分かってきたな(笑)
カンノ:リゾートっぽい楽曲かもしれないけど、それ以上にUAの不穏な人格が勝っている感じというか。
YOU:我々はUAという人物をある程度知ってるからね。
カンノ:そうそう。それでNUMBER GIRLの「透明少女」も疾走感とか爽やかさは分かるんだけど、そんなことよりもバンドや向井秀徳の不穏感とかキャラクターが強いじゃん。でもFMラジオで「不穏」みたいな括り方はできないわけだよね。だから「夏のマスターピース」とか「リゾート気分を味わえる」みたいな、アゲアゲとかリラックス的な効能のある括り方しかできないんだよなと思ったの。
オノウエ:すべてがプレイリスト化してるってことだよね。
YOU:「夏の曲」に括られちゃうんだね。
カンノ:どんなマニアックな人でさえ、その軽薄な括りに持ってかれるんだよ。
オノウエ:以前だったらNUMBER GIRLが好きかどうかでNUMBER GIRLの話ができたけど、今は「NUMBER GIRLを知っている」と「『透明少女』を知っている」が同義ではない可能性があるよね。それはつまり、夏ロックプレイリストで流れてくる「透明少女」は好きで聴くんだけど、アーティストであるNUMBER GIRLまでは掘らない、名前も知らないっていう人は結構いるかもしれないってこと。ラジオで「夏のマスターピース」という軽い括りで「透明少女」が流れると単純に「爽やかで良い曲だな」という印象で終わっちゃうけど、そういう現象がいたるところであるかもしれない。
YOU:よし、ここでORIGINAL LOVEのトリビュートアルバムの話をしよう(笑)
YOU:あのトリビュートの収録曲がオリラブの初期に固まってるんだよ。オリラブが90年代に出した曲のほとんどがクラシック化しているのはすごいことではあるんだけど、それを若手に歌わせて渋谷系文脈で商売しようとする軽薄さは一方で感じちゃう。
オノウエ:それはあるね。ORIGINAL LOVEのトリビュートアルバムなのに、ORIGINAL LOVEのことをあんまり知らない感じがするんだよ。
YOU:そうそう。「まともに聴いたことないだろ?」って選曲なんだよ。もうちょっと捻った楽曲が入ってもいいんじゃないか。
カンノ:ORIGINAL LOVEの王道ばっかりってこと?
YOU:というよりは、ORIGINAL LOVEについて語るときに、ORIGINAL LOVEのことを知らない人が出す曲ばっかり(笑)「ドラマの主題歌だよね?」みたいな(笑)
オノウエ:まさにそう。たとえばプレイリストだったら横に広がっていくじゃん。1組のアーティストを縦に深く掘るんじゃなくて、「夏の曲」みたいな括りでいろんなアーティストの夏の曲をたくさん聴くという横の広がり方。それはそれでいいんだけど、このORIGINAL LOVEのトリビュートは1組のアーティストは決まってるのに、全然深く掘ってくれてない。
YOU:だから結局、横の掘り方に見える(笑)90’sのメロウJ-POP集みたいな感じになっちゃう。
カンノ:横にも縦にも深く掘らないから、正方形に見えるよね。
オノウエ:1ドットですよ(笑)
YOU:岡村靖幸のトリビュートを見習ってほしいよ。
オノウエ:岡村靖幸トリビュートはキャリア初期からその当時の最新まで万遍なくやってたもんね。それに対してオリラブは、ORIGINAL LOVEファンが買うような選曲じゃないんだよね。
YOU:何も知らない人が買いそうだよね。
カンノ:結局トリビュートアルバムもプレイリストっぽいものになってるものが多いもんね。プレイリストも音楽のサプリメント的効能だったりするよね。
オノウエ:「チルになれる曲」「アガれる夏の曲」「80年代J-POP」とか。
カンノ:音楽はどんどん効能化していくんでしょうね。
YOU:効能ってつまりジャンルの細分化だよね。
カンノ:そうそう、分類ですよ。
YOU:自分であれこれ探って「俺ってこういうのが好きなんだな」と思う前にラベリングされちゃうってことだよね。たくさん音楽をむやみやたらに聴いて「俺ってこういうのが好きなんだな」という気付きがある前に、「あなたはこういうのが好きです」と言われて、なんとなく受け入れちゃうんだよね。
カンノ:本当はカレーっていろいろあるはずなんだけど、「あなたはカレー味が好きなんでしょ?」って雑に括られる感じ。
YOU:それ分かるな~。
オノウエ:自分でスパイスでやるところまでやったんだけど「やっぱり意外と松屋のカレーって旨いよね」というのと、いきなり「松屋のカレーは旨い」じゃ全然話は違うもんね。
カンノ:そういうことは音楽にもあるなと。
YOU:いろんなジャンルでそうだね。
カンノ:自分なりの方程式はあるはずなんだよね。それは他の人やAIに解釈される必要はないし。自分のものだけでいいし。まぁ、そんな話です。
オノウエ:またしても老害みたいな話をしてしまったな(笑)