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サムオブ井戸端話 #019「『竜とそばかすの姫』とピコ太郎」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週水曜日にアップします。

 

映画『竜とそばかすの姫』をとおして1バズで全世界に広まる音楽を考えるサムオブメンバー。いろいろ考えてみたが結局、ピコ太郎しかいないという結論になる話の後編です。前編は下記リンクから。

 

YOU:ノレるフィクションとノレないフィクションってあるじゃん。『竜とそばかすの姫』はノレないフィクションだったなと。

オノウエ:「そんなわけないじゃん」と思って映画を観続けるわけでしょ。

YOU:でもこれは観た人ほとんどが同じことを考えてると思うよ。

オノウエ:そういう評価なんだね。

YOU:細田守の脚本や家族観にノレない人は多いと思う。

オノウエ:家族観にノレない人は多いよね。

YOU:『竜とそばかすの姫』は『映画大好きポンポさん』のときと同じで、矛盾が生じちゃってるのが浮き出やすいものだったと思う。

オノウエ:音楽だけ切り取ったら、良い曲なんでしょ?

カンノ:音楽だけもう1回映画館で聴きたいと思う人がいるくらいなんだからね。

YOU:あと映像も素晴らしいですよ。あれってようはミュージカル映画なんですよ。だから音楽と世界観が連結されて考えちゃうの。ゆえに「本当かよ?」と思っちゃいやすい、もったいない映画だったのかなと。たとえば『ラ・ラ・ランド』はゴリゴリのミュージカル映画で、急に歌い出したりするの。

YOU:結構好きな映画として挙げられることが多いし、俺も好きな映画なんだけど、反対に嫌いに挙げる人もいる。それは主人公はジャズが好きなのね。「俺は一流のジャズマンになる」みたいなことを言ってるんだけど、流れてくる曲が全然ジャズじゃないの(笑)主人公は「ジャズが好き」と言ってるのに全然ジャズが流れないっていう。でも「エモいからいいじゃん!」っていう風に、観客を騙すことには成功してるの。

カンノ:知識がなければ違和感はないってことね。

YOU:映画のどこで音楽が鳴るのかって話だね。「このタイミングで聴けるからいい」っていうことはあると思ってて。サブスクで『竜とそばかすの姫』の音楽は聴けるけど、結局はサウンドトラックだからさ。

カンノ:せっかくの中村佳穂が歌う曲なのに、サウンドトラックで終わっちゃうのはなんだかもったいない気もするな~。RADWIMPSの「前前前世」って『君の名は』の曲でもあるけど、完全にRADWIMPSの代表曲として突き抜けたじゃん。映画を観てなくてもわかるというか。そういう側面も少し大事だと思ってるんだけど。

オノウエ:そうなると「オリジナルサウンドトラックってなんのため?」って話にもなると思うけど。

YOU:個人的にはBUMP OF CHICKENの「ゼロ」って曲が好きで。

YOU:これは「ファイナルファンタジー零式」っていうゲームのテーマソングなんだけど、多分ほとんどの人はそのゲームをやっていないと思うんだよね。でもがっちりとゲームの世界観と合ってて、流れるタイミングとか本当最高だった。

カンノ:エモい?(笑)

YOU:必然性しかなかったね。それが全部合致しててよかった。でもあれはゲームという、何時間もかけてその世界観にハマれるからこそできることだと思う。それがたかが2時間の『竜とそばかすの姫』みたいな映画のなかで、世界中でバズって何億人が「ウォ~!」となれる曲という設定はちょっと無理あるよ(笑)

カンノ:力技すぎるんだな。

YOU:「そういうことにしといて!」がいっぱいある。

カンノ:行きたい結論のためにすべて動いてる感じだね。

オノウエ:たしかに1バズで世界中の人が聴いているという状況自体がほぼありえないってことだもんね。

カンノ:それを作るってことだもんね。そしてそこに駆り出されるのがmillennium paradeと中村佳穂っていうチグハグさね。

YOU:想像しにくいことを作ろうとしているんだもんね。1バズで世界中で聴かれるっていう。で、我々の想像の範囲内でいうと、それに該当するのがピコ太郎っていう(笑)で、「ピコ太郎が流れたら感動できるのか?」というと絶対に感動できない(笑)

カンノ:「子供がマネする」っていうバズだもんね(笑)

オノウエ:マジでピコ太郎以外浮かばないな…

カンノ:世界中だもんね。「上を向いて歩こう」じゃない?坂本九って1バズの人?

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

オノウエ:怒られるぞ(笑)

YOU:当時に「バズ」っていう概念がねえよ(笑)

オノウエ:ビリー・アイリッシュはどういう広がり方だったのかな?

カンノ:やっぱり「bad guy」が浮かぶよね。

YOU:ビリー・アイリッシュはアイコンになったよね。でも、『竜とそばかすの姫』の主人公はインターネット世界で素性を晒してないんだよ。

オノウエ:なるほど。映画の主人公は素性を晒してないけど、ビリー・アイリッシュは自分のパーソナリティー含めてブランディングしてるのか。

カンノ:だから結局、映画の主人公はビリー・アイリッシュよりもピコ太郎に近い(笑)元・底ぬけAIR-LINEという素性は晒してないもんね(笑)

YOU:だから本来、1バズを狙うならビリー・アイリッシュの方向なんだね。

オノウエ:トータルブランディングを自分でやらないとダメなんだよ。だから「顔を晒さない」「パーソナリティーも晒さない」「曲がいい」で1バズを狙うって少し虫がいいよね。

カンノ:これって日本的なバズの狙い方だよね。Adoとかが最近はそうだし、ちょっと前だと相対性理論とかね。

カンノ:だから日本的な考え方を世界に広げて作ったと思えちゃうよね。

オノウエ:だから細田守が考える世界って日本ということだよね。

YOU:まぁ、細田守も日本人にむけて作ってるからいいんだけどさ(笑)でもたしかに、ビリー・アイリッシュみたいな生い立ちとかパーソナリティーとかを全部掛け算してぶん殴ってくるみたいなのってさ、グレタ・トゥーンベリと同列に語られる感じがあるよね。ここでよく話してるけど、「誰がなにを歌うのか」って観点でいうと、ビリー・アイリッシュは強すぎるよね。

カンノ:それほどのアイコンになるような人って日本ではあんまりいないかもしれないね。

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