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サムオブ井戸端話 #028「日常化する”病んでる”現象」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

最近、4s4kiにハマっているYOU-SUCKメンバー。彼女のパフォーマンスやまふまふ、トー横の現象をとおして、「病んでる」ことがファッション化しているのではないかという話をしました。

 

YOU:僕、最近4s4ki(アサキ)が好きなんです。

カンノ:フジロック出てたね。

YOU:女性シンガーソングライターという位置づけなんですが、ハイパーポップといわれるような潮流にあるマッシブな音楽をやる人です。4s4kiって23歳で若くて、一人で曲作ったりしていて、身体に入れ墨がめっちゃあったり、あといわゆる地雷メイクをしていて。病んでる系な衣装に身を包んで、歌詞も「死にたい」とか結構出てきたりするの。で、この「病んでる」感じをわりと打ち出していて、「インターネットから出てくる人ってみんな病んでるな~」とか思ってるんだけど(笑)で、この前4s4kiのライブをO-EASTに観に行ったんですよ。プロジェクターで映像とか流して、ステージングもかなり凝ってるんですよ。テーブルの上にエフェクターとか並べて、結構つまみをいじったりするんですよ。それでオートチューンをバキバキにかまして歌ったり。そんなパフォーマンスをするから電子楽器が多いんです。で、その机をスピリチュアルなもので覆って、そこに水晶玉を乗っけたりとか、フジロックでは大きい鳥居とか置いたりして、なんかヴェイパーウェイブ的な小道具や大道具を取り入れていて。それで「死にたい」とか言ってるから、病んでる風な曲が多いんです。でもライブに行ってみたら、本人はすごい明るいの。アグレッシブだし、めちゃくちゃ動くの。

カンノ:フジロックで見たけど、結構動いてたイメージはあったな。

YOU:叫ぶ曲も多いから、それは合ってるの。で、本人は小さいから走り回ったりして、なんか健康的で明るいんだよ。それで見た目も可愛らしくて、だからこそおじさんのファン層もあるんだけど(笑)それで「みんな愛してます!」とか言うの。なんか素は明るくて良い子な感じなの。それで本人曰く「昔は死にたいとか思ってたけど、今はめっちゃ生きたいです!」みたいな。俺が行ったのはメジャーデビューしてのツアーで、そのライブが一番大きい会場だからテンションも上がってたと思うんだけど。だから病んでる風な衣装やアプローチなんだけど、本人はいたって明るいという。それで次はまふまふの話になるんだけど。

YOU:まふまふの紅白のパフォーマンスで手首に包帯巻いてたじゃん。明らかにこれはリストカットの象徴じゃん、傷付いている自分を表すための。包帯って「病んでる」の象徴になると思うんだけど、パフォーマンス自体はいたって真面目で誠実だったじゃん。「どうも、インターネット代表です」みたいな礼儀正しさがあった。

カンノ:「ありがとうございました」って言ってたね。

YOU:それであれだけの歌唱力があるわけだから、絶対に練習はしてるんだよ。あともう一つ。昨日、トー横に行ったんですよ。トー横って新宿の東宝シネマズの横の広場あたりのことね。この辺りって警察の見回りも多いし、ちょっと前に傷害事件もあったのね。それでわりと集まる人の数は減ったんだけど、ちょっと前までは10代の子とか多かったの。

オノウエ:10代の溜まり場ね。

YOU:そうそう。で、そこに集まる若い子のファッションというのが地雷メイクだったり、昨日見かけた子だとタオル地でウサギのコスプレっぽい格好になれるやつで。

カンノ:ドンキで見かけるやつだ。

YOU:そうそう、着ぐるみみたいな。それでド地雷メイクみたいな子で。男の子もヴィジュアル系みたいな黒のレザーに髪の毛もピンクだったり白だったりする。それで細くてさ、女の子とイチャイチャしてたの(笑)そういうファッションの子が多くて。なんか「病んでる」ってことが日常化しすぎてるなって思ったの。ファッションとして選択されやすくなってると思ったの。

カンノ:「病んでる」がファッション化してると。

YOU:実際に病んでる人もたくさんいるんだけど、「病んでる」がアイコン化して巷にあふれて、しかもそれが「かっこいい」とか「かわいい」という評価になっていて、なんかいろんな過程をすっ飛ばしてそっちに流れちゃってる子って多いんじゃないかなって思ったんだよね。

カンノ:「病んでる」がカテゴリー化されてるんだね。「病んでる」というプレイリストに括られる感じ。

YOU:僕らの時代には「鬱ロック」なんて言葉がありましたけど、あれはまさに「病んでる」のプレイリスト化だったね(笑)

カンノ:この前映画好きの友達と話してて、「『鬱映画』で括るやつらはみんな嫌いだ」って言ってた(笑)

YOU:そうそう、そういうこと。自分を表す代弁手段として「病んでる」がすごく手軽に選択できるものになってしまったなと。

カンノ:装備品の一つになってしまったと。

YOU:昔だったら「地元の先輩がやってたから」が理由でヤンキーの格好をするとかあったかもしれないけど、今はインターネットで病んでる風なインフルエンサーっていっぱいいるからね。

カンノ:病んでることで「かっこいい」とか「かわいい」になるんだね。

オノウエ:本当に病んでるかどうかは関係ないでしょ。

YOU:関係ないし、実際に病んでるかどうかはわからない。もちろん家出少女みたいな子もいるんだろうけど、おしなべてトー横にたまるような子はそんな格好をしていると思う。

カンノ:それが分かち合えるコミュニティがあるってことだよね。そのコミュニティが楽しいってことだもんね。

YOU:その場にいるときは楽しいってことだろうね。

オノウエ:もし病んでないのだとしたら、ちょっとイケてる人がSupreme着るのとなんら変わりはないもんね。

YOU:そうそう。もう異質なものじゃなくて、下手したらメインストリームにある気がする。

カンノ:もう少なくはないかもしれないね。

YOU:元も子もないこと言うと、みんなお金なさそうなんだよね(笑)多分安くそういう文脈のファッションのものが手に入るんだよ。

オノウエ:コストが低いんだ。

YOU:そして安く知り合える。

カンノ:様々な意味でドン・キホーテっぽいかもしれないね。

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