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サムオブ井戸端話 #043「関ジャム平成最強ソングベスト30雑感」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

『関ジャム完全燃SHOW』の「令和に活躍する若手アーティストが選ぶ最強平成ソングベスト30」を見て違和感を感じたカンノメンバー。そもそもこの企画が成立しづらいものであることや、"思い入れ"の観点で若手アーティストにとって90年代は「知ったこっちゃないもの」になるのではないかという話をしました。

 

カンノ:『関ジャム完全燃SHOW』で「令和に活躍する若手アーティストが選ぶ最強平成ソングベスト30」というのが放送されました。見ましたか?

YOU:見ました。

オノウエ:僕は見てないです。僕は2人がそれを見てどう思ったのかが聞きたいです。

カンノ:YOU-SUCKさんはなにか思いましたか?

YOU:まぁ、若手のミュージシャンに聞いたらああいうランキングになるよねって感じかな。

カンノ:基本的には僕もそんな感じですね。

YOU:たとえば「キリンジ史観」っていう言葉が出てきたけど、それも文化エリートである人が文化エリートであることを避けるためというか、逆張りの言説にしか見えなくて。

カンノ:”無難さ”で選ばれた感じはあるよね。それが今だとキリンジの「エイリアンズ」なのかな。

YOU:今回ランキングを選んだ人たちにとっての”無難さ”はキリンジの「エイリアンズ」だし、宇多田ヒカルだし、椎名林檎だしって感じだよね。

カンノ:そうだよね。「若手アーティストが選ぶ、世の中の総意はコレ!」って感じがしたランキングだよね。だから余所行きなものに見えたかな。

YOU:テレビの企画だからそりゃそうだよね。

カンノ:僕が思ったのは、「テレビの企画だから余所行きなものになるよね」っていうことと「テレビでこの手のランキングをやることって厳しいよな」みたいなものかな。

YOU:わかるよ。「なんでこの人たちが入ってないんだよ!」って思うことばっかりじゃん(笑)だから自分なりにトップ30とか考えちゃったもんね(笑)でもそういうことを考えた人は多かったと思うんだよね。そういう意味では有意義な番組企画だったと思う。

カンノ:「自分のトップ30何かな?」ってね。30位までいかないにしても、トップ3くらいは考えちゃうよね。

オノウエ:カンノがこの関ジャムの企画に関してすごく反応してたじゃん。その理由をもっと聞きたいかも。

カンノ:「この企画はそもそも成立してなくね?」っていう違和感かな。もっというと「あのランキング、なにも正しくないだろ」っていう(笑)

オノウエ:そういうことか(笑)

YOU:お前はあれを「正しい、正しくない」で見てるのか(笑)

カンノ:そもそもテレビって余白がないというか、断定口調になっちゃうと思うの。「これがランキングです!」っていう。「このランキングが正しいです!」にならざるを得ないというか。で、視聴者という受け手は「これが正しいのね」って思っちゃうじゃん。それって良くないと思うんだよね~。

YOU:でも「ベスト30」みたいな権威付けができるものってもうテレビくらいしかないんじゃない?

カンノ:見過ごされることが色々あるうえで、それがなかったこととしての「ベスト30」だからさ。

オノウエ:なんかわかってきた。実際に選ばれた曲云々というのは関係なくて、「ベスト30」という形式の危うさの話だね。

カンノ:「令和に活躍する若手アーティストが選ぶ最強平成ソングベスト30」ってさ、絶対にできないよね?(笑)

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

カンノ:そもそもできないことをやろうとしているよね。

YOU:そもそもできないことを「不完全かもですがどうぞ」って出されるのが嫌ってことね。

カンノ:そこはもうちょっとツッコまれても良い気はしたんだけどね。それで「エイリアンズ」がちょっと悪者扱いになっちゃってるのも変な感じだし(笑)

YOU:「エイリアンズ」が変な扱いになってるのはそうだね。

カンノ:たとえばビーイング系が選ばれていないとか、小室哲哉プロデュース楽曲が選ばれていないとかってあるじゃん。

オノウエ:あ、小室が選ばれてないのか。

YOU:あとヴィジュアル系もないんだよね。

カンノ:そういうことがあるじゃん。で、これは「令和に活躍する若手アーティストが選ぶ」じゃん。この人たちは平均年齢が25歳くらいであると。1995年生まれくらいだよね。で、その人たちから見たらビーイングとかって古臭いと思うんだよ。小室哲哉も。これらは90年代を象徴してるじゃん。この前、bayfmの特番で『90の音粋』って番組を放送していて。

カンノ:これは90年代の楽曲を79-80年生まれのパーソナリティーたち、つまり90年代が青春期の人たちが選曲して放送する番組があったの。そこでは小室哲哉ノンストップミックスとかが流れたりするわけよ。これは79-80年生まれの人たちが選んでるから小室哲哉でテンションが上がるわけだけど、でも逆のことを言えば25歳の人からすれば小室哲哉って「あの時代のものね」ということでしかないじゃん。思い入れもなければ、自分たちより上の世代のものという意識だし、小室哲哉を1歩進めたものが宇多田ヒカル「Automatic」である意識とかも持っちゃってるじゃん。

YOU:なるほどね。

カンノ:だからこの企画は「平成最強」ってワードがよくないんだと思うの。キャッチーな言葉だけど、「令和に活躍する若手アーティストが選ぶ」縛りだと不平等なルールにどうしてもなるから。平成も広すぎるし。

YOU:30年もあるからね。

カンノ:令和アーティストは90年代初頭とかは振り返ることしかできないからね。その時代を体感できないから。背景とかを知る由もないんだよ。だからそもそもルールが成立してない。

オノウエ:たとえばこのランキングみたいなことを「昭和」の観点でやられたら実はそんなに気にならないと思うの。でも「平成」って俺たちは90年生まれだから思い入れがありすぎるんだよね。

カンノ:それでいったら僕たちはここで言われる「令和アーティスト」と近い年齢だからさ、こういうランキングになる意味もよくわかると思うんだよね。”思い入れ”という観点で。「Automatic」「天体観測」「丸ノ内サディスティック」が入ることの意味が。

YOU:俺たちが普通に聴いていた曲たちだよね。

カンノ:で、同時に90年代初頭の話をされたら「知ったこっちゃねえよ」って思うこともわかるでしょ。ビーイングとか小室哲哉の話って。

YOU:たしかに知ったこっちゃないね。世代じゃないもんね。

カンノ:「古い!古い!」になっちゃう。そういうある種の不平等さが蔑ろにされて作られたランキングってことじゃん。だから正確なものは無理だよねっていう。

YOU:それを言ったら成り立たないもんね。

カンノ:その”成り立たなさ”があんまり言われてないなと思ったんだよね。

YOU:このランキングは「平成」とか「最強」じゃなくて「若手」がミソで、だからこそ宇多田ヒカルが1位になるんだよね。J-POPを更新させた人として。宇多田ヒカル以降のJ-POPを我々はずっと見てきているってことだよね。その意味でこのランキングはかなり面白い資料だと思うな。

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