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サムオブ井戸端話 #055「ライブMC論」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

ライブMCについて議論を交わすサムオブメンバー。後編では演奏する音楽ジャンルによってライブMCの性質は変わってくる話や、何故かカンノメンバーがライブMCで悩んでいる全国のミュージシャンにアドバイスをしたりしました。前編は下記リンクから。

 

オノウエ:たとえば4人組バンドなら、それが有名なバンドじゃなければ個々のパーソナリティーとか見てる側はよくわからないじゃん。その状態で「自分はどういう人間なのか」を見てる側に伝える喋りをするってかなり難しいことだよね。たとえばカンノみたいにライブの構成自体も全部自分で考えて、喋り方や声量やパフォーマンスでどういう人なのか見てわからせることってバッチリできると思うんだけど、いわゆるバンド形態だとその辺りが難しそうだなって思うの。その場合どうすればいいか、カンノに論があれば聞いてみたい。

カンノ:バンドだったら一番の理想形は、そういう喋りをする担当がいるってことかな。「4人でやる」じゃなくて「担う1人がいる」ってことかな。

オノウエ:そうなると、1人は覚悟を持ってエンターテイナーを演じなくちゃいけないということか。

カンノ:そして基本はボーカリストだと思うけどね。で、その人がバンドのエンタメ方向の印象付けは決定するよね。

オノウエ:役割と覚悟だね。

カンノ:その役割を自分なりに「見つけた」という感覚があるかどうかだね。そこからMCの使命感が生まれるんじゃないかな。

オノウエ:たとえば3人組のバンドがいるじゃん。全員つまらなかったらどうすればいいの?

YOU:酷な質問だな(笑)

オノウエ:誰か一人面白いやつがいるとか、弁の立つやつがいるとかはなんとかなるじゃん。もう全員つまらないの(笑)でもこれって可能性としては全然ありえると思うの。

カンノ:その場合は1回型通りなMCをやったほうがいいかもね。そのときになにかちぐはぐが出ると思うんだよ。「このMCはしっくり来るな」「この喋りは自分の身の丈じゃないな」とか。そこで出てきたちぐはぐが個性の原液みたいなものだから、それをどう活かすかという考えがあれば面白くなる可能性もあるんだろうけど、そういう方向に脳を使ったことがないんだろうから難しいよね(笑)

オノウエ:マジでどこかの養成所みたいな話になってるな(笑)

YOU:ここまでライブMCについて普通のミュージシャンは考えねえよ(笑)たとえばゆらゆら帝国は3人とも喋りは苦手そうだよね。

カンノ:でもゆらゆら帝国の音楽性だったらべつに喋らなくてもいいんだよ。問題は3人組の青春パンクバンドで全員つまらなかったらだよ(笑)

YOU:それは最悪だな(笑)つまらくてもいいから、誰かチョケるムーブはやってほしいよね。

カンノ:でも本当に思うけど、音楽性に寄せたMCとか振る舞いは必要で、たとえば疾走感あるロックバンドなら「お前らノっていけ~!」みたいなことは言わなきゃダメだと思う。

YOU:なるほどね。

カンノ:「オーイエー!」「オーライ!」「ベイベー!」が言えなきゃダメだと思う。

YOU:いとうせいこうがヒップホップのライブで「Scream!」を「騒げ~!」に翻訳した話は有名だと思うんだけど、アジる文化は継承しているから、やっぱりどういうことを言うのかは重要だよね。

カンノ:だからやっぱりロックバンドは「オーイエー!」にどれだけ説得力があるかだよ。

オノウエ:ライブMCをしないヒップホップMCの人っているのかな?

YOU:どうなんだろう?

オノウエ:ヒップホップはそもそもステージでの喋りもひっくるめてヒップホップのステージって考えてる人は多そうだよね。

カンノ:自分のスタンスを話したりね。

オノウエ:そうそう。そもそもバックグラウンドが違うんだろうね。ジャンルが発生した背景とかさ。

YOU:言いたいことはあるけど手段がない人たちが安い機材で始めたのがスタートだもんね。

カンノ:ヒップホップのグループで喋んない人がいるっていうのはあるだろうけどね。

オノウエ:あと盛り上がってほしいというのがヒップホップにはベースである気がするね。全員でジャンプしたり盛り上がったり。じつはバンドってそうじゃなかったりするじゃん。

カンノ:「バンド真面目に聴け問題」は以前も話したね。

オノウエ:そうそう。MCに対する考え方と、「みんなどういう聴き方をしてくれてもいいからね」っていう許容のスタンスの話ね。

カンノ:バンドはガチガチになりやすいから。

オノウエ:特に俺らが高校のころに聴いていたゼロ年代系のバンドはそういう真面目な感じは多かった気がするね。最近のバンドは盛り上がれ系が多い気もするけど。

YOU:なんかMCで悩んでる全国のミュージシャンにカンノからアドバイスはある?

オノウエ:なんだよ、その質問(笑)

カンノ:えっと、これから大事なことを言いますね…

オノウエ:偉そうに答えるのかよ(笑)

カンノ:多分ね、スベることが怖いと思うんですよ。これは肩書き論でもあるんですけど、芸人は喋りでスベることはありますが、ミュージシャンのMCでスベるという概念は基本的にないと思って大丈夫だと思いますよ。

YOU:それはどういう意味?

カンノ:ウケてなくても、お客さんは「スベってるな」って思ってないので大丈夫です。

オノウエ:なんかめちゃくちゃ現実的な心持ちのアドバイスが出てきてビックリしたな(笑)

YOU:アハハハハッ!

カンノ:「たかがMC」と「されどMC」のラインがあるんですよ。お客さんは「たかがMC」と思って見てます。極端なことを言うと「大したことのない時間」みたいな。でも演者は「されどMC」と思っちゃって、変に重要視しちゃってるんです。お客さんと演者でMC観に食い違いが発生しちゃってるんだと思うんです。結局は「たかがMC」なんです。だからべつに何を言ってもいいんです。なんでもいいから喋ったことがキャラクターになるから。僕はこの前のリリパで決め打ちで喋ったところもあるけど、8割は反射神経だったから。オノウエ君にはライブの音源を聴いてもらったけど、僕の喋りヤバかったでしょ?

オノウエ:カンノの喋りはヤバかったね(笑)

YOU:アハハハハッ!

オノウエ:これまでカンノのライブはいろいろ見てきたけど、史上最大に喋ってたし、史上最大に早口だったし、史上最大に情報量多かったし、史上最大にMCの時間も長かった(笑)あれはヤバかったね(笑)

カンノ:で、どんなことを喋っていたかなんてお客さんは絶対に覚えてないんだけど、「なんか変だった」「いっぱい喋ってた」とかっていう印象は残るんだよ。

YOU:あ~、なるほど。俺もお客として見てたけど、たしかに「おかしなものを見てるな~」という印象はあるね(笑)

カンノ:音楽のライブでは「おかしいものを見てるな」でいいんだよ。それが印象に残るし。で、ちょっとでもおかしかったら「面白かった」になっていくから。

オノウエ:なるほどね。

カンノ:お客さんに実害を与えなければ(笑)

YOU:「俺は一体、なにを見ているんだ?」っていうのは印象に残るもんね。それが「おかしかった」「面白かった」になるのはよくわかる。

オノウエ:カンノはダメなMCってどういうMCだと思う?

カンノ:なんだろうな。「めっちゃ噛む」とか?

オノウエ:あぁ~(笑)

カンノ:「めっちゃ噛む」ってなにかを言おうとして言えなくて噛むってことじゃん。その言おうとしている言葉に熱量がないんだよ。

YOU:どういうこと?

カンノ:人って言いたいことを言うときは基本噛まないから。

YOU:おぉ、ヤバいね(笑)

オノウエ:なんか真理っぽいこと言ってきたぞ(笑)

YOU:カンノがフロイトっぽいことを言い出した(笑)

カンノ:噛んでるときは、その人の頭のなかに台本があってそれを言おうとしてるんだけど、緊張とかで失敗してるんだよ。

YOU:なるほどなぁ。

オノウエ:それはカンノの言葉を借りると、自分のキャラに合ってないことを言おうとしているってことになるんだ。

カンノ:肩肘張っちゃってるんだよ。そもそも「言おうとしている」時点でダメです(笑)

YOU:アハハハハッ!もう「オーガニックに生きましょう」みたいな話になってるから(笑)

カンノ:今のは極論だけどね(笑)でも自分のオーガニックさを知ることは重要ですよ。「自分の素の言葉は何なのか?」みたいなのは。

YOU:それはそうだね。

オノウエ:なるほどなぁ~。

カンノ:そこから派生したことを喋ればいいから。

オノウエ:よくある話だけどさ、バンドがレーベルや事務所の大人たちにMCをチェックされるみたいな話もあるじゃん。そういう制約でガチガチにされちゃうこともあるんだろうね。関わる人が増えると、周りの大人の数も増えてきて、いろいろ言ってくる大人も増えてきて、がんじがらめになるみたいな。

カンノ:それで萎縮しちゃってね。

YOU:噛むことがキャラクターにもならないの?

カンノ:それは周りのフォロー次第じゃない?まぁ、適切なフォローができるくらいの腕のある人はミュージシャンじゃなくて芸人になればいいと思うけど(笑)

オノウエ:結論は自分のキャラクターを理解したうえで、リラックスして喋りたいことを喋るっていうことがカンノのMC論ってことだね。

カンノ:あとお客さんは喋りなんて聞いてないって思ったほうがいいですよ。

YOU:それは大事な姿勢だね。

カンノ:だって僕がお客のとき、ミュージシャンが何を言ってたかなんて覚えてないもん。でも「なんか楽しかったな」ってことは残るから。それが重要。具体的なことなんかどうでもいいから。「楽しい風」とか「楽しげ」ってことが重要ですよ。結局は雰囲気ですから。

オノウエ:ライブの告知ってMCのときにするけど、あれって何の意味があるの?たしかにMCで喋ってたことなんてなにも覚えてないんだけど、だからこそ告知の意味ってなんだろうね。

カンノ:まぁ、型だよね。言わないと変だから。あれはお客さんへの直接の営業活動だよね。でもライブMC内でそれをやらなくちゃいけないから変な構造だよね。さっきも話したけど、この前のリリパでCDの告知を話すときに「CDを持ってきました。今日はリリパなので、なんと、特別に、えっと、定価で販売します」って言ったんだけど、これは肩書きが芸人だとつまらないけど、ミュージシャンだと「なんか面白げなことを言ってる」になる可能性があるから。

YOU:なるほどね。肩書きで基準を考えるのは大事だね。

カンノ:たかがミュージシャンですから。なので、全国のミュージシャンの皆さん、頑張ってください!

オノウエ:カンノが全国のミュージシャンに何故かエールを送ったので、この辺で終わりましょう(笑)

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