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サムオブ井戸端話 #059「令和4年にクチロロ『ファンファーレ』の話をしよう」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

クチロロの『ファンファーレ』みたいなアルバムは今の時代には作れないと思ったカンノメンバー。「この手のバンドはこういう音楽をやります」ということが演者側にもリスナー側にも暗黙の了解となった今の時代、J-POPバンドサウンドから急にヒップホップのトラックになり打ち込み曲へと続く構成のアルバムを今の時代に作ることの難しさについて語りました。

 

カンノ:今回のタイトルは「令和4年にクチロロ『ファンファーレ』の話をしよう」です。

オノウエ・YOU:(笑)

カンノ:『ファンファーレ』は聴いてますか?

YOU:サブスクにないから聴いてないな。

カンノ:私もです(笑)

YOU:1つ『ファンファーレ』に関して印象的なことがあって。大学の授業で佐々木敦のポピュラーミュージックについての講義があったんです。批評家で、headzというレーベルをやってるとかもそこではじめて知りました。その授業の1つでクチロロの三浦さんがゲスト講師で来られたことがあったの。その前に、佐々木敦クチロロ評みたいなことを話してて。そこで結構正直なことを言ってて、「『ファンファーレ』で彼らの才能は枯れたと思った」って言ってたの。

カンノ:へぇ~。

YOU:「このあとはないと思ったんだけど、結果メジャーデビューしましたね」みたいな。だからある種、周りの評価的にはちょっと凡作だったと思われていたのかもしれない。

オノウエ:その講義は俺もモグって聞いてたな(笑)あのときの話は、もともと『20世紀アブストラクト』という実験音響的な音楽を三浦さんはもともとやっている人で。

オノウエ:三浦さんが佐々木敦と繋がっていて、headzとも繋がって。で、ポップなこともやり始めて1stアルバムの『クチロロ』をリリースして、でもそれはまだ実験音楽の香りは残っていて。

オノウエ:「面白いことをやる人たちだな」と思っていたら2ndで当時でいうと保守的な『ファンファーレ』というアルバムを作ったから「才能が枯れたと思った」という話だね。でもそんなことなかったという話。

YOU:それが印象的だった。で、今フラットに考えて、クチロロのなかで一番聴いたアルバムなのは『ファンファーレ』で間違いないね。

カンノ:『ファンファーレ』はマジヤバいアルバムですね…。

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

オノウエ:カンノ、まだ何も言ってないぞ(笑)

YOU:これから何を言い出すんだよ(笑)

カンノ:僕は今の時代に『ファンファーレ』みたいなアルバムを作るのって結構不可能だと思ってて。

YOU:不可能?

カンノ:あれってクチロロがファンファーレバンドを結成して、そのメンバーで作ったアルバムなんだよ。だからバンド形態のアルバムが前提としてある。でもそこで切った「朝の光」っていうシングル曲は打ち込みなんだよね(笑)ちぐはぐなんですよ。で、アルバムのなかに「twilight race」という曲があって、あれはバンドじゃなくて三浦さん南波さんの2人で作ったヒップホップ曲という(笑)それが1枚のアルバムのなかに収まってるんだよね。そういうことって2000年代だからできたのかなって思うの。今って、「このバンドはこの手の音楽をやります」というところから外れてはいけない時代だと思うの。それでいうと、『ファンファーレ』って外れた曲が何曲かあるの。そうなると1アーティストのアルバムというよりは、コンピレーションアルバムとかに近いような気がするのね。「楽しいバンドサウンドだなぁ」と思った次に急にヒップホップのトラックが流れてラップをするわけですよ。それって安心安定な音楽の聴き方じゃないよね。だから今の時代の人はそれだと聴かないなって思ったの。僕は『ファンファーレ』というアルバムから「脱プレイリスト」を感じるんですよ。プレイリストって、そのプレイリストのタイトルから外れたことはできないじゃん。カラーが決まったら、そのカラーから外れちゃいけない音楽の聴き方が今の時代だと思うのね。

オノウエ:これはこじ付けなんだけど、『アメトーーク!』以降からそうだよね。「僕たちは〇〇芸人です」の「〇〇」から外れちゃいけないじゃん。そういうところから加速してるのかな。いろんな分野である気がするな。

カンノ:それは僕が出演したマキタスポーツさんのYouTubeチャンネルで、まさしくマキタさんが言ってましたね。「アメトーークってプレイリストだよね」と。

(該当箇所は59:50~)

カンノ:「家電芸人」というプレイリストに「家電芸人」という曲がいろいろ入っていると。そこから外れちゃったら、「家電芸人が見たいのに家電芸人じゃない」ってことになって見なくなっちゃうよね。そこで思っていたものとは違うものに触れて、ざわっとした瞬間に人は見たり聴いたりしなくなっちゃうよね。そんな時代に今、音楽はあるなと。そのときに『ファンファーレ』は急にざわっとするアルバムだと思うの。それが好きです!

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

カンノ:最初に『ファンファーレ』を聴いたときビックリしたんですから。「なんで?」って。「渚のシンデレラ」のあとに「twilight race」が流れてきて。「おかしいじゃん!」って(笑)

YOU:たしかに(笑)

カンノ:たとえば『everyday is a symphony』というアルバムはフィールドレコーディングという型で作ったりして、ルールを設けたよね。

YOU:それ以降はコンセプトアルバム化していったよね。

カンノ:やってることは変だけど理解はできるじゃん。それに対して体感的には楽しいのに、頭の理解が追いつかないのがじつは『ファンファーレ』というアルバムだと思ったんだよね。

YOU:「今は作れないアルバム」っていう考え方は面白いね。たしかにそうかもしれない。なんか、「このバンドはこの手の音楽をやる」ということが演奏側も聴く側も暗黙のルールになっちゃって、そこから外れた音楽をやるなら別プロジェクトになっちゃうよね、今の時代は。川谷絵音とか。

カンノ:そういう見せ方が本当に増えたよね。で、それは僕はその人たちの戦略性が見えてちょっと冷めますね(笑)「あっ、考えてやってるんだ」って思っちゃう(笑)

YOU:そりゃそうだよ(笑)でも見えちゃうと冷める気持ちはわかる。

カンノ:あと見えることがOKになった時代だなとも思う。

YOU:舞台裏とかミュージシャン同士の横のつながりみたいな関係性を欲しがりすぎだよね。

カンノ:裏話が表になることとか、自分の思っている意図が大っぴらに言ったほうがいい時代になってたり。

YOU:かっこつけて「偶然できました」っていう人があんまりいないよね。

カンノ:もう通用しなくなっちゃったよね。

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