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サムオブ井戸端話 #063「前提なき時代におけるコミュニケーションの加害性」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

くるり岸田繁の書いた「長くミュージシャンを続けるための秘訣」のブログが面白かったとオノウエメンバー。「流行の少し先を意識すること」と「古典を多く知ること」を踏まえて新しさを考えることの話から、「そもそもそんなに古典を知らないのに、ちゃんとした老害に自分たちはなれるのか?」という話をしました。

 

 

オノウエ:くるりの岸田さんが書いたブログが面白かったので紹介したいなと思ってね。

オノウエ:そこでポップミュージシャンを志す者にとって重要なことが2つあると言っていて。ひとつは流行の少し先を意識すること、もうひとつは古典を多く知ることです。」と。「流行の先を少し意識する」というのは、流行の音楽をとにかく聴くっていうことじゃなくて、社会的なムードとかカルチャーとかを広い意味で吸収するっていう。例えで出てたのはスプラトゥーンに夢中になっているあなたが作った音楽は、無意識のうちに何らかの現代性を帯びていくことでしょう。」とあって、こういう直接的な影響ではなくて広い意味で影響が出てくるという。

オノウエ:あと「古典を多く知ること」っていうのは、結局ポップミュージックというのは根本的に保守的なものだから、古典から変わりようがない。根本的に中身の更新はされようがない。

カンノ:定番のコード進行が変わらなかったりね。

オノウエ:そうだね。でもポップミュージックの定義がそういうものだから。だから古典をたくさん知っておくことは大事だと。それはすごく真理っぽいなと。で、この話を踏まえたうえで”新しさ”をどう考える?

カンノ:これは身につまされる話だな…。

オノウエ:それはどういう意味?

カンノ:僕は一応表立って音楽をやっている側だからさ、今言ったことが真理であるのであれば、僕は今まで言っていたことを何もやっていないという(笑)

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

カンノ:保守もやってなければ、革新もやってない(笑)

YOU:俺は今の話を聞いて、『ウルトラセブン』の音楽を作った冬木透のことを思い出した。

YOU:『ウルトラセブン』の音楽って話題に上ることが多くて。かっこよくて印象に残るから。で、冬木透のルーツは何かと言うとクラシック音楽、特に教会音楽なんですよ。もともとオルガンで聖歌とかを作曲する人です。要するにめちゃくちゃクラシック音楽に関しては教養人。俺もウルトラセブンの曲は好きだけど、冬樹透の本を読んで、なるほど、だから強いのかって思ったんだよね。80年代から2000年代くらいまでは、そういう重厚な教養に対する忌避感って若者には薄~くあったと思うの。つまり、クラシックとかジャズみたいな重厚なものが基盤になることは「教養主義だ、金のあるやつにしかできない」みたいな感覚が薄く共有されてたんじゃないかな。だからこそパンクとかノイズとかもそうかもしれないけど。

カンノ:サブカルチャーとかね。

YOU:鬼畜系のカルチャーもそうだと思うんだよね。ただ実際はそういうカルチャーに身を寄せていた人っていうのはとても教養があったという。でも表面上は「権威とかぶっ潰せ!」みたいな感覚があるわけだが。そういうことを悟って岸田さんはブログを書いたのかもしれない(笑)最近自分が影響を受けたものとか好きなものとかについて考えた結果、「結局ここなのか」と思うことが多いね。「実家が太い」とか「めちゃくちゃ勉強してる」とかね。

オノウエ:パンクとかノイズとか鬼畜系とか、そういうトラッシュカルチャーの人たちって反権力や反メインカルチャーを掲げていたけど、めちゃくちゃそっちに詳しかったじゃん。それはちゃんと教養を知ってるからこそ逆張りができるという。

カンノ:型があるから、型を外すことができる。

オノウエ:そうそう。以前『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』っていう番組がNHKであったじゃん。

オノウエ:当時、あの番組に対して若干批判があって。「若いころはYMOみたいな先進的な音楽をやっていたのに、年取ったら結局クラシックですか」みたいな。でも逆に言うとある程度年齢を重ねると、今までその人がやっていたことって古典が前提だったわけじゃん。その前提があったうえで反動としての表現をやっていたと思うんだけど。でも「もう本当に若い人は古典を知らないんじゃないか?」という危機感に年齢を重ねると誰もがなるのかもしれないよね。

カンノ:これは音楽に限らず、どのジャンルにも起こる話だね。

YOU:世代間で「そこ説明しなきゃダメなの?」っていうことが起きてる。

カンノ:多分僕なんて上の人からすると「これ読んでないの?見てないの?聞いてないの?」って言われるものばかりですよ。そして逆にたとえば今のヒップホップでいうと、バトルの動画とかはめっちゃ見てる若い子に対して、「スチャダラ聴いてないの?」「いとうせいこう知らないの?」みたいなことを思っちゃう可能性は全然あるもんね。っていうかもっと洋楽のほうか。

オノウエ:「Nas聴いてないの?」とかね。

カンノ:で、僕は全然聴いてないし(笑)

オノウエ:このサムオブでしている話ってはっきり言って老害じゃん(笑)この折り合いはどうなんだろうって思うの。上の世代からしたら俺たちなんて全然ものを知らないわけじゃん。で、俺たちからしたら下の世代ってもの知らないわけじゃん。この世代間の断絶はどう捉えればいいのかな。

YOU:これも千葉雅也がTwitterで言ってたことだけどさ、老害にならなきゃいけないんだよ。ある種の権威になることを恐れてはならないと思う。そうじゃないとずっと対象を消費し続ける人だよ。流行りのものとかを。

オノウエ:言ってることはわかるよ。その一方で「俺はちゃんと老害になれるほど物事を知っているのか?」っていうさ。

YOU:その問題はあるね。間違いない。

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