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サムオブ井戸端話 #077「もうSyrup16gで笑えなくなった」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

Syrup16gの新譜について語るサムオブメンバー。後編では、Official髭男dismとの対比や"映え"の世界をとおして、今の時代の"良し"とされるもの全てに対して逆張りし続けるSyrup16gの姿勢に「もう笑えなくなった」という話をしました。前編は下記リンクから。

 

 

YOU:Syrup16gの今回の新譜に「Maybe Understood」という曲が入っていまして。

YOU:その歌詞で「シュレッダーかけ 夢の乗車券 上書きした人生を演じ続けても 走馬灯には編集機能無いらしい」というヤバい歌詞があって。「もうやめてくれよ~」っていう(笑)

カンノ:この歌詞も10代のときに聴いたら「もうまたまた。カッコつけちゃって」みたいなことを思うじゃん。でももうこういう歌詞が普通に刺さっちゃうよね。

YOU:「人生って取り返しがつかないよな。うわ~!」っていうね(笑)

カンノ:これは危険だよね。

YOU:歌詞をそのまま読み取ると、上辺だけの人生を送ろうと思えば全然送れるんだけど、「あれ?人生って編集できなくね?」って気が付いてももう遅いみたいなことだと思うんだけど、ちょっと無理矢理話をつなげるんだけど、Official髭男dismの「115万キロのフィルム」っていう曲があるじゃないですか。

YOU:あの曲って自分が監督で主演でカメラマンで、相手の人生を撮っていく曲じゃないですか。あの曲も僕は好きなんだけど、「Maybe Understood」ってそのアンチテーゼに思えたんだよね。これはシロップの新譜の特徴だと思うんだけど、すごく自分が独身者であることを強調してるんだよね。「自分は一人だ」っていうことをずっと言ってて。で、ヒゲダンのほうは結婚ソングだけど、あの曲も人生は編集しようとする曲じゃん。ハッピーエンドの映画を作るように人生を作っていこうとする曲だよね。自分の意志で前向きに人生を作っていこうとするヒゲダンの曲に対して、シロップは過度に受動的で「もう無理っしょ」みたいな姿勢の曲だから、テーマは似てるのに対極になるのは面白いなと思ってね。

カンノ:今は1億総SNS表現時代じゃないですか。食ったものをインスタにアップし、今日過ごした日を映えた写真でもって人様に晒し、その人生を人に評価してもらう。みんな、自分の人生を人に評価してもらう人生になっちゃってるじゃないですか(笑)「115万キロのフィルム」ってその”映え”の世界を肯定的に捉えているような気がしていて、シロップは「そんなもんじゃねえよ」って言ってる気がしますね。

YOU:俺もそうだと思う。ちなみにおそらくSNSのことを歌っている曲がアルバムには入っていて、「うつして」という曲なんだけど。

YOU:「からかわれたら痛い 見過ごされるのは怖い 誰かなんていないのに お互いしかいないのに」という歌詞はSNSの不特定多数の人から見られていないと怖いっていう歌詞とも取れると思うね。

カンノ:なにか写真をSNSにアップするって「そういう演出」が施されていて、それが良しとされている時代が何年間か続いているわけじゃないですか。そんなの当然反動は起こるよね。

YOU:シロップの新譜を聴いた感想が「もうやめてくれ」なんだけど(笑)、そういう思いになるのはつまり「大人になる=演じる」ということだからさ。結局、結婚して子どもができて仕事も大変だけど「やってやろうじゃねえか!」っていう前向きな気持ちになったことも「それは演じているだけじゃない?」という水を差す気持ちが入ってくるからさ(笑)

カンノ:ミュージシャンって基本的には人に見られる仕事じゃん。人前に立ってなにかを発表する仕事を自ら選んでいるわけだし。それとSNSにいろんなものをアップして”演じている自分”というものを表すことのリンク具合ってあるような気がしていて。「お前、人前に立つ仕事してるんだからSNSやれよ」っていう言い分もわかる一方、そういうことを一切しない矜持もわかるよね。どちらかというと僕は後者側が好きなんだけど。客とコミュニケーションしないことの重要性というか。アーティスト側が一方的に曲を出すこと以外は基本なにもしないことって個人的には大事なことだと思うんだけど、そこにロマンを感じることは時代的に遅いのもわかる。たとえばカバー曲が未だに多いというのは、そういうSNSっぽい感じがするんだよね。カバー曲って人の曲だから演技面もあるような気がしていて。やっぱり映えそうなキラキラした曲がカバーされがちだよね。映える曲がどうしても重宝される時代のなかで、全然映えない地味で暗い曲とかの良さとか価値観もちゃんと届けることは大事な気がするんだよね。だから今回のシロップのアルバムは歌詞の話が中心だったけど、普通にサウンド面で僕は好きでしたね。

オノウエ:サウンド面はどんな感じなのかな?

YOU:オーソドックスなオルタナティブロックですよ。

カンノ:馬鹿っぽいことを言うと、「2022年のSyrup16g」という感じがした。

オノウエ:たしかに頭だけ聴いたんだけど、あまりにSyrup16gだったからビックリしたんだよね。

カンノ:あまりにSyrup16gなものが2022年に聴けたことにビックリしたんだよね。

オノウエ:今回はあまりにYOU-SUCKがSyrup16gの歌詞をクリアに喋ってしまったから、俺はそれに喰らっちゃってるわ。

YOU:アハハハハッ!

オノウエ:僕は音楽を聴くときにそもそも歌詞があまり入ってこない人間なので。でもこの話は歌詞が前提になることはわかっていたので、「歌詞を見ながら聴かなきゃな」とは思っていたんだけどなんとなく拒絶してたんだよ。それを明確に喋られてしまったので、今それに喰らってしまっている状態ですね(笑)

カンノ:でも「今のほうが痛感する」っていう話はよくわかるね。もうSyrup16gで笑えなくなっちゃったんだよね。

YOU:じつはシロップってずっと笑えない音楽を作ってたんだよね。

オノウエ:そういうことがわかってしまったよね。

カンノ:ちなみにART-SCHOOLはその辺りはどうなの?ART-SCHOOLとシロップって僕らが10代のときは「また鬱じみたことを言ってるよ~」って失笑しちゃってたじゃん。

YOU:ART-SCHOOLセルフパロディが多いから、同じような暗めの歌詞が散見されるね。でもART-SCHOOLSyrup16gはやっぱり違うんですよ。ART-SCHOOLってじつはサウンド面はいろいろ変わっていて。ほかに聴きどころがいっぱいあるんだよね。あと歌詞は「なんとなく悲しい」とか「なんとなく切ない」みたいな感じで、ぼかして書くことが多いかな。

カンノ:それで言ったら、ART-SCHOOLのほうがちょっとエンタメっぽいね。

YOU:そうだね。「耽美」って言い方がよくされるかな。で、2組ともボーカルがキャラクター消費されがちなんだけど、シロップの今回のアルバムは全然そんなもんじゃなかったってことですね。

カンノ:喰らったわけですね。YOU-SUCKさんは「これから頑張るぞ!」っていうときにシロップに水を差されてしまって、「もう生きるのやめようかな…」と思ったという話ですね。

YOU:はい。

オノウエ:「はい」って(笑)

カンノ:というわけでYOU-SUCKさん、今までありがとうございました!

YOU:ありがとうございました!

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