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サムオブ井戸端話 #078「『ぼっち・ざ・ろっく!』から考える当事者としてのキツさ」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』を見たYOU-SUCKメンバー。下北沢ギターロック界隈にまつわるアニメを見て、街やライブハウス風景の描写の細やかさに驚きつつ、バンドの夢物語だけではなく、ライブハウスでのバイトの接客や路上ライブでのお金のやり取りを通して、暗い主人公が社会性を身につけていくことの健全性について語りました。

 

 

YOU:『ぼっち・ざ・ろっく!』というアニメがありました。

YOU:2022年の10月から12月にかけてTOKYO MX等で放送されていたアニメで、もともとは『まんがタイムきららMAX』という雑誌で連載していた漫画ですね。

カンノ:僕はアマプラでさっき見終わりました。

オノウエ:僕はすみません、3話までしか見れてないです。

YOU:そうですか。俺は結構楽しんで見れましたね。女子高生がキャンプにハマるようなアニメと同じ感じですね。入門系のアニメでよくある、そのジャンルにおける「あるある」の細かい描写がクスっと来るものがけっこうありました。たとえば『ぼっち・ざ・ろっく!』だと主人公の後藤ひとり、通称・ぼっちがライブハウスでバイトすることになって、ライブハウスのバーカンのあの感じとか、初めてのバイトだから色々言われて混乱する感じとかがよかったですね。俺もライブハウスのバイト経験があるので「わかる!」と思って見てたのと、ライブハウス特有のノルマやオーディションの感じとか、バンドをやってる人にしかわからないよね。そういうものが描かれているのが面白いなと思ったし、バンドをやっていた人ほど「そんなこともあったな~」って思うよね。

オノウエ:なるほど。

YOU:それとストーリーも良かった。まぁ、主人公がバンドを通じて成長していくベタな話なんだけど、なにに感心したかというと、俺は高校生や大学生のまだバンドをやっていたころって、ノルマとかオーディションとかが鬱陶しかったんだよね。バイトして金を貯めなきゃいけないとか。そういうことが全部なしでやれたらいいのにって思ってたの。でもあのアニメを見て、今でもバンドを続けている人とか、当時やっていた人もいちいちこういうことをちゃんと乗り越えて、ほかの人と協力しながらやってたんだなと思って感心しちゃったんだよね。ああいうお金のやり取りとかをちゃんと逃げずに描いていることとか、バンドの打ち合わせの雰囲気とか、箱がバンドを推す感じとか。俺はああいうものを避けてしまっていたので。あれを見てて、ちゃんと手続きを踏んでていいなと思ったんだよね。これが主人公のぼっちが暗いまま一人で大成功を収める話になったら嫌だったんだけど、そうじゃなくてバンドを通してちゃんと社会性を持つことの大事さを学べるようなストーリー展開になっていたのは、健全なコンテンツだと思ったんだよね。そういったところに感心したんですが、2人はどう?

オノウエ:僕が描写の細かさで思ったのは下北沢SHELTER。劇中だとSTARRYというライブハウスになっていますが、楽屋まで完璧にシェルターになっててビックリしたね。

カンノ:アニメの後半にFOLTっていう新宿LOFTがモデルのライブハウスが出てくるんだけど、あれも完全にロフトだったね。

YOU:ロフトの再現度はヤバかったね。

オノウエ:そういうのがすごかったね。あと僕が金沢八景のほうの大学に行ってたので、アニメに出てくるコンビニがもう知ってるところで(笑)バンドをやる上でのあるあるもそうだし、その地域のあるあるも詰まってたなと思いましたね。

カンノ:僕は『ぼっち・ざ・ろっく!』を見ていて、「いいぞー!」と「もうやめてくれー!」の両方を思ってましたね。

YOU:「もうやめてくれー!」のほうが聞きたいな(笑)

カンノ:この3人のなかでは僕が一番、今の下北沢の当事者じゃないですか。僕、とあるライブハウスでちょっと働かせてもらってるんですよ。バーカン初日の後藤ひとりは、先月の俺!

YOU・オノウエ:アハハハハッ!

カンノ:「あれ?知ってる人が出てるな~?」って思ってたんだよ(笑)

YOU:初めてだとドリンクはムズいよね(笑)

カンノ:あれは完全に「もうやめてくれー!」事案でしたね(笑)さっき「全話見た」って言ったけど、「やめてくれー!」と思ったところは15秒スキップですよ。

YOU:やっぱりカンノはまだ当事者っていうのがウケるな。

オノウエ:フフッ。

YOU:ぼっちがドリンクを渡すシーンあるじゃん。最初はバーカンから顔も出せなかったのに、ちゃんと決意して社会性を持ってお客さんに誠心誠意ドリンクを渡そうとするところ。ちょっと成長するシーン。ああいう成長がバンドのなかじゃなくて、ドリンクを渡すところで描かれているのがいいなと思って。やっぱり俺も昔は「なんでライブハウスのドリンク、こんな高いんだよ?」みたいなことを思ってたんだよ。でももちろん、いろんな必要な事情とかわかるじゃん。

カンノ:ドリンクがいっぱい出ることで経営できているとかね。

YOU:それがいいなと思ったんだよね。ようは、今あるものからちゃんと逃げずにちゃんと乗っかってみることの大事さが描かれていて、「俺はそういうことをやってこなかったな~」と反省したんだよね。

カンノ:「ライブハウスなんだから、良い演奏が一番っしょ!」みたいな精神性だったってことかな?

YOU:まぁ、そうだね。『ぼっち・ざ・ろっく!』はバンドだけでなく、ほかのところでも成長を描いているのがいいなと思ったんだよね。あと路上ライブのシーンで、自分でチケットを手売りするシーン。あれもすごいなって。「社会に出てちゃんと商売をしてお金を得たうえで演奏をする」ということを描くってさ。

カンノ:これは音楽をやっていて「現場と経営」みたいなことを最近思ってて。バンドマンとして現場感が強めで居てしまったり、バンドのロマンが強い人であればあるほど、お金のああだこうだとかが面倒に思ってしまうし、「ギターだけ弾ければ良いでしょ」とか「演奏さえ良ければいいでしょ」とかって思いたくなるじゃん。でも「経営」とか「運営」とかの視点をインストールすると、「誰と飲みに行くことが大事だ」とかさ。

オノウエ:なるほどね。

カンノ:後藤ひとりがどれだけギターが上手かろうが、後藤ひとりが持ち合わせていない能力ほど大事なものはないということがわかってきちゃうんだよ。それは痛感する。やっぱりコミュ障過ぎるとバンドの世界でもキツいんだよね。

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