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サムオブ井戸端話 #084「音楽の場でも”おもしろ”が強すぎる問題」

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

スペースカンフーマンの回で出た「音楽とお笑い」についてもっと話したいと思ったカンノメンバー。お笑いがどの芸能ジャンルよりも群を抜いて強くなった結果、音楽の場でも"おもしろい"ことが求められてしまっていることについて語りました。スペースカンフーマンの回は下記リンクから。

 

 

カンノ:もうちょっと音楽とお笑いにまつわる話をしたいかな。

オノウエ:たしかに、この辺の話はもうちょっと言語化したいね。

カンノ:最近、芸人とミュージシャンの2マンライブとかよく見かけるけど、ああいうの好きじゃないんだよね。べつに何の関係もない異種格闘技的なイベントって。ただの数取りゲームなんだもん。

YOU:フフッ。

カンノ:だって本来、芸能的な意味で言ったらお笑いと音楽ってめっちゃ関係あるんだよ。戦後のジャズマンたちが芸能事務所を立ち上げてたり、そこからドリフやクレイジーキャッツが出てきたりとか。そういう認識がない人がそれをやると結構キツいなって。

YOU:本来、音楽とお笑いは関係があるんだけど、それを知らずに「分断されているものをつなげます!」みたいな感じで来られるとキツいっていう話だね。

カンノ:それが結果的に数取りゲームになってるなと。

YOU:ナチュラルじゃないんだね。

カンノ:経済が見えすぎてるよね。昔はもっと行間が読めたんだよ。GEISHA GIRLSがやってたこととか最高じゃん。

YOU:そうだね。

カンノ:ダウンタウンが地元・尼崎の言葉を使ってまくしたてるようにラップすることと、ヒップホップという文化がダブっていく感じとかさ。あと、当時の環境だからできたことってあると思うんだけど、たとえば芸人がニューヨークに行ってレコーディングをするとかはもうできないじゃん。

YOU:予算の問題もあるしね。

カンノ:やっぱり業界に金がないから数取りゲームになっちゃうんだろうし。

YOU:カンノの言いたいことがわかってきたぞ。これから音楽と芸人にまつわることで、どんどんキツい事例は起こる気がするな。しかもお笑い側からね。

カンノ:そうそう。吉本一強だし。で、吉本以外の地下芸人が音楽ネタっぽいものに手を出した瞬間、なんかキツいことになっていったりさ。

オノウエ:ありそうだな~。

カンノ:またべつの話だけど、ラランドのサーヤ川谷絵音とマジなバンドをやっているのを見て、めちゃくちゃ最強のビジネスマン2人が手を組んだなって感じたの。

カンノ:だからキツくてイタい人と、数取りが上手い人の2つに分かれていくんだろうね。で、「面白い」とか「良い曲だ」っていう感想はあまり出てこないと思う。

YOU:もうブラックビスケッツとか野猿みたいな奇跡は起こらなそうだよね。

オノウエ:「こいつ実業家っぽいな。数取って稼ぎに来たな」っていう裏が見えてしまうという目線もあるし、あと俺が思ってるのは、お笑いの人が音楽アプローチをするとどうしたって”音楽ネタ”になってしまうから、ここの主従関係が絶対に変らないんだよね。そもそも芸人は”ウケたい”という精神性が第一の人たちだから、その目線で音楽に手を出してしまう。音楽がウケのために”使われる”という感覚が嫌なんだよね。

カンノ:今の時代、”おもしろい”という価値観がちょっと強すぎるね。人前に立つことを職業にしている人たちは今、”おもしろい”ということがデフォルトになってしまっている。ちょっと面白いことが言える人が今の時代は強い。そんな空気感が僕は嫌かもしれない。

オノウエ:音楽を使いながら面白いことを言うことで笑わせるやつじゃないパターンとして、芸人がマジで歌って超上手かったら笑っちゃうみたいなやつってあるじゃん。

カンノ:『ゴッドタン』における、昔の「芸人マジ歌選手権」だね。

オノウエ:ああいうのは音楽だからこそ生まれる笑いじゃん。でも、音楽ネタって「〇〇ネタ」の〇〇の部分と置き換え可能だから、極論音楽じゃなくたっていいんだよ。それが辛いんだよね。

カンノ:あと昔の音楽ネタをやってる人たちってどこかミュージシャン気質があるんだよ。演芸場の人たちとかさ。

YOU:内海桂子師匠とか。

カンノ:浪曲とかって三味線に言葉を乗せていくわけだし。

YOU:ビートたけしだってタップダンスやるわけだしね。

カンノ:ドリフやクレイジーだってバンドマンなんだから。そういう素養は今の芸人にはないじゃん。それなのに音楽ネタができてしまうことがなんか嫌でね。しかも今は”おもしろい”の価値が強すぎるから、音楽側がお笑いにすり寄って行っちゃう現状とか。音楽がお笑いへ媚売ってるんだもん。

YOU:これはめちゃくちゃ良い話だよ(笑)

カンノ:今の時代、お笑いが強すぎる。本当はそんなに面白くなくたっていいんだよ。で、”おもしろくない”という価値があまりに認められてなさすぎる。面白くないことから”おもしろ”を見出すことがリスナーを育てることだったりするのに。

YOU:「お笑いが強すぎる」は本当そうだね。

カンノ:だから今のお笑い、全然好きじゃないんだよね。

YOU:これをスペースカンフーマンの話に戻すと、彼らのやってることってそういうサービス性ではないよね。

カンノ:そうそう。あれって見てる側に判断を委ねていると思う。変な話、全然笑わないでいいと思う。「笑ってもいいし、笑わなくてもいい」という判断って結構大事なはずなんだよね。トリプルファイヤーも「良い演奏だな」でも「やってること同じで退屈だな」でも「面白いこと言ってるな」でも「よくわからないや」でも良いと思うんだよ。もうこの時点で何個か感想の選択肢があるじゃん。それでよかったはずが、「面白くなきゃいけない」とか「良い曲と思われなきゃいけない」とかってすごく窮屈でマズいなと思うんだよね。

オノウエ:すごくわかるな。

YOU:「お笑いが強すぎる問題」だね。

カンノ:それでどの業界、どの現場でも「面白くなきゃいけない」っていうのはお笑いが作った価値観によってなにかが破壊されていると思うんだよね。”つまらない”って大事だと思うんだよ。

オノウエ:”つまらない”は大事です。絶対に大事。

YOU:言ってしまえばスペースカンフーマンのやってることもつまらないからね。

カンノ:そうだよ。だって大人がふざけてるだけだもん。つまらないよ(笑)それをちゃんと感じるってすごく大事なことだと思うよ。

YOU:これはかなりハイコンテクストだな(笑)

オノウエ:スペースカンフーマンのやってることは広い意味の内輪ネタだから、それが求められる環境でもあるって話だしね。で、その内輪感がわからなければ、そりゃわからないし。でも「誰が見ても面白いものばかりが求められるのは、果たしてどうなんだ?」ということだよね。

カンノ:それがお笑いだけでなく音楽にも求められているって相当ヤバいと思ったんですよね。

オノウエ:なんか期せずして広がりを持った話をしましたね。

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