SOMEOFTHEM

音楽実感ブログ。主に「サムオブ井戸端話」と「SOMEOFTHEM OF PODCAST書き起こし」を更新。

サムオブ井戸端話 #167『行間を読ませる向井秀徳』

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

前回の話の流れから、ZAZEN BOYSの武道館ワンマン公演の感想を語るサムオブメンバー。向井秀徳の音楽表現やプロモーションの場での立ち振る舞いを通して、自らが説明し過ぎないことや、お客さんやリスナーに行間を読ませることの重要性について語りました。前回記事は下記リンクから。

 

 

カンノ:前回の流れからZAZEN BOYS武道館公演の話をしましょう。私たちは10月27日に行われたZAZEN BOYSの武道館ワンマン公演に行きましたが、向井は武道館を特別視しなかったね。ライブ中、一言も「武道館」と言わなかった。

YOU:「東京~!武道館~!」みたいな地名を流れで言いそうじゃん。言わなかったね。絶対言わないと決めてただろうね。

カンノ:そういう特別性をすべて排したライブにするっていうことなんだろうね。

YOU:選曲は特別だけど。

カンノ:でも自己紹介は連呼する。

YOU:最後に「深刻な話があります」と言ったときに「解散か?」と思ったら「MATSURI STUDIOから来ました~」と普通に自己紹介してたね(笑)

カンノ:会場にいた人たちのほとんどが「解散か?」という雰囲気になってたのがよかったね。冷静に考えれば絶対に自己紹介なんだけど(笑)ちなみに一緒に行ったポッドキャスト仲間のオノウエ君は「カシオマンが脱退するのかと思った」と言ってた(笑)

YOU:アハハハハッ!

カンノ:自己紹介のしつこさと、武道館でやることの特別性には一切触れないということ。そんな人のnoteでの連載がおもしろかった。

YOU:まずあれは文量に圧倒されたけどね(笑)

カンノ:向井のああいったアプローチは珍しいと思う。沖縄公演でのタイミングで「永遠少女」にまつわる戦争の話とか、政治的なことを語る云々についての向井の見解とか。たとえばナタリーみたいな、音楽ジャーナルの場における、僕たちの好きな向井の演技性ってあるじゃないですか。もちろんマジな話はしてるんだけど、ある程度ユーモアで隠してくれてたりするじゃん。そういった隠しは、あのnoteの連載は薄かった気がするんだよね。

YOU:最初に「ギターマガジンのインタビューですよね?」みたいなことを言う感じだよね(笑)

カンノ:ちゃんとシリアスな話をしているのがよかった。あと『META TAXI』という動画コンテンツで、ランジャタイの国崎さんと向井のやり取りしてて、あの動画のなにがよかったかって、国崎さんが完全にインタビュアーに徹していたこと。

カンノ:ランジャタイ的な我を全然出さずに聞き役に回っていたこと。たとえば「CIBICCOさん」や「サイボーグのオバケ」をどうやって作ったのかを聞いていたけど、解散したNUMBER GIRLの楽曲や、ZAZEN BOYSのライブであんまりやらなくなった楽曲の作り方について聞くってなかなかできないことだと思うの。

YOU:それもボケずに聞くわけでしょ。普通に向井ファンなわけだ。

カンノ:向井がボケて、国崎さんがツッコむからね。

YOU:ランジャタイのことをあまり知らないんだけど、それは異様な光景なの?

カンノ:ランジャタイのイメージは壊し屋だからね。そんな人がずっとまともに話を聞くという状態がおもしろいし、それによって向井のおかしい部分と、今まで聞いたことがなかったような話も出てくるという。

YOU:へぇ~。

カンノ:今はSNS等で誰もが発信できるから、説明過多な人が多いと思うんだけど、「この人ってどんなことを思ってるんだろう?」と思わせてくれる人って少ないと思うんだよ。それをいい配分で向井秀徳はやってくれている気がしていて。それは武道館ライブを見ても思ったし、『らんど』を聴いても思った。

YOU:たしかに今は説明されることが当たり前になってしまった感じはするよね。

カンノ:誰もが文章や動画とかで発信できてしまうことによって、いらぬ情報が入ってきてしまうなかでの、向井のあり方はいいバランスな気がする。

YOU:向井がインスタライブで「これはこういう曲で~」とか言わないでほしいもんな(笑)

カンノ:向井は「安眠棒はですね、世界格闘技選手権が~」とか言えばいいと思う。

YOU:アハハハハッ!

カンノ:今はアーティスト自らの説明、解説が多すぎる。

YOU:向井秀徳の言葉って聞きたくなるよね。明らかに意図がわかる曲ってないもんね。

カンノ:曲も説明臭くないからね。歌詞で意図が丸わかりになってるのはダサいからね。

YOU:そのダサいっていう感覚が伝わらなくなってきてるよね。

カンノ:「そういう曲じゃん」っていうのが当たり前になってるよね。行間を読むという行為がないね。

YOU:「これはどういうことなんだろう?」と考えるものはないかもしれない。

カンノ:ちょっと話は変わるけどさ、トリプルファイヤーの新作を聴いて、全体をとおして吉田さんが歌っていることの皮肉めいた目線ってあると思うんだけど、たとえば「スピリチュアルボーイ」っていう曲を油断して聴いていたら「夢は必ず叶う」と歌って、「あっ、夢は叶うんだ」と思っちゃう自分がいて(笑)

YOU:アハハハハッ!

カンノ:この間違ったことを思ってしまうこともトリプルファイヤー的な状況だなと思うんだけど(笑)行間を読み間違える(笑)それもまた一興だなと。真正面に受け取ってしまう馬鹿馬鹿しさを思いましたね。

YOU:行間って意外と難しいよね。

カンノ:デリケートだからね。

YOU:読み取れない人はマジで読み取れないからね。かつて高田渡の「自衛隊に入ろう」を聴いて「自衛隊に入りました」っていう人がいたと言われていて。そんな話は恐ろしいよ。

YOU:だから武道館のZAZEN BOYSのライブに行った人たちは、その行間が読める人たちだったと思うね。

カンノ:「DANBIRA」を始めるまえに、日本刀を持ってきて、それを床に置いて、こっちを見ながら「なんですか?」っていう顔をしながら「DANBIRA」を始めたじゃん。で、あの日本刀は二度と出てこなかったじゃん。

YOU:すごいよね。なんなら演奏中邪魔そうだったもんね。

カンノ:フフッ。

YOU:べつに曲中に振り回すこともしないし。

カンノ:「は?」っていう顔してたよ。

YOU:フフッ。

カンノ:不思議だったな。回収されないし。

YOU:演出のカタルシスは一切なかったね(笑)不思議な武道館ライブでした。

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