前回の記事 で、ポルノグラフィティ のキャリアを3枚組ベストアルバム『PORNOGRAFFITTI 15th Anniversary "ALL TIME SINGLES"』の分け方をもとに、ポルノグラフィティ の楽曲の多様さは作詞・作曲の多様さに重なることと、時期ごとにその組み合わせの変遷が伺えることを指摘した。
今回からは、Episodeごとに細かくポルノグラフィティ の作詞・作曲体制の組み合わせの妙を観ていきたい。
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1stアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』
リリース日:2000/3/8
オリコン アルバムランキング最高順位:4位
シングル曲『アポロ』『ヒトリノ夜 』『ミュージック・アワー 』はすべて作曲 ak.homma 、作詞 新藤晴一 の黄金コンビ(本当にこんな呼び方している人がいるかどうかはよく知らない)によって手がけられている。2000年代にJ-POPを聴き始めた人であれば、まず知らない人はいない超有名曲ばかりで、デビューからいきなり売れっ子であったことがわかる。
また、ak.homma の作曲の依存度は高く、アルバム収録曲13曲のうち7曲の作曲を彼がおこなっている。Tama の作曲も5曲あるが、そのことについて、当時のインタビューでは以下のように記載されている。
ハルイチ 「今回の5曲が少ないか多いかはわかりませんけど、本間サンの曲が嫌いとかいう話ではなく、タマの曲を増やしていきたいという気持ちはもちろんあります。それが出来るようになるために今、本間さんとやってるんですよ。ゆくゆくは全部にしていきたいですし、本来の僕らの形に戻っていきたいとは思ってるし……その時も、本間さんとプロデューサーという形で一緒にやっていきたいですし」
(『B-PASS SPECIAL EDITION ポルノグラフィティ ワイラノ クロニクル』シンコーミュージック 2004.4.9 187ページ)
(2021年のいまこの記事を読むと、Tama が去り、完全に岡野と新藤の2人の作詞・作曲体制になったことは、目標を達成したのか、していないのか、色々と複雑な気持ちになる。)
ポルノグラフィティ は、デビューから数年間はアイドルグループのような扱いだった。デビュー当時の映像や、プロモーションの仕方、ファンの受容の仕方といい、アイドル的な売り出し方であったことは一目瞭然であるが、個人的に一番アイドル的なのは、メンバーの名義であったと思う。デビュー当時のメンバーの名義は、岡野がアキヒト、新藤がハルイチ 、Tama がシラタマ であった。この名義で活動していたのは、オリジナルアルバムでいうと、『ロマンチスト・エゴイスト』『foo?』、シングルでは『アポロ』から『アゲハ蝶』までのごく短い期間である。
アイドル的なラベリングをされた3人が、1stアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』の辞典では、まだアイドルとして売り出すのか、アーティストとして売り出すのかの方向性が定まっていない様子が、作詞・作曲の体制や、先に引用した新藤のインタビューでの発言からのうかがえる。
当時のメンバーの予想通り、ak.homma はプロデューサーとして長くポルノグラフィティ に関わっていくこととなるが、この頃は特に依存度が高い。『ロマンチスト・エゴイスト』の収録曲13曲のうち7曲の作曲を担当していることは先にも述べたが、『Heart Beat』と『マシンガントーク 』にいたっては作詞も担当している。この2曲はいま聴くと少し気恥ずかしい歌詞だが、アイドルが歌う曲としてはぴったりのアップテンポで明るいラブソングである。
また、おなじみのak.homma に加え、音楽プロデューサーの吉俣 良がRyo名義でタイトル曲の楽曲提供をしている。吉俣は複数曲をポルノグラフィティ のために提供したらしいが、音源化されているのは『ロマンチスト・エゴイスト』1曲のみである。『ロマンチスト・エゴイスト』は、YELLOW MONKEYの『真珠色の革命時代』そっくりなアレンジのロックバラードであり、後にも先にもポルノグラフィティ のキャリアではあまり存在しないタイプの楽曲である。
『ロマンチスト・エゴイスト』でTama の作曲した楽曲は、非常に多様である。
インディーズ時代から演奏されていたロックナンバー『ジレンマ』、『ライオン』の他に、1曲目のホーンのアレンジと卑猥な歌詞がマッチするアップテンポナンバー『Jazz up』、岡野のハイトーンヴォイスが映えるロックバラード『デッサン #1』(岡野曰く「”あ、僕このまま死ぬんかな?”って思うくらい喉が熱くなった」とのこと)、渋谷系 のようなおしゃれなアレンジのポップス『ラビュー・ラビュー』。『ジレンマ』と『ラビュー・ラビュー』は最初のベスト盤にも収録されている人気曲である。
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作詞の面でも、この頃から新藤と岡野の個性が伺える。
新藤は今後のキャリアで、シングル曲で印象的な歌詞をいくつも残しているが、やはり『アポロ』の「僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもうアポロ11号 は月に行ったっていうのに」という歌い出しは、デビューとしては100点満点のつかみではないかと思う。アルバム曲でいうと、1曲めの『Jazz Up』の男同士で下ネタを開陳するようなバンド名にぴったりの歌詞に、J-POPでは初ではないかと思われる「大脳新皮質 」という単語が使われている。バラエティ豊かなアルバムのはじめを飾るナンバーを、言葉の面で大きく貢献している。
岡野も負けていない。『リビドー』で岡野の歌詞には「ジャニス・ジョプリン のような声で本能へと蹴り込んでくれないか」といったフレーズがあり、激しいハードロック調の曲と相まって、強く印象に残る。
『ロマンチスト・エゴイスト』はak.homma というアレンジャーがいてこその面もあるが、メンバー自らでやっていく、という思いと、多様な楽曲をやりたいという思いが拮抗しており、バンドとしての輪郭が見えないものの、全体的に聴き応えのあるアルバムになっているように思う。