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サムオブ井戸端話 #060「令和4年にクチロロ『ファンファーレ』の話をしよう」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

クチロロが2005年にリリースしたアルバム『ファンファーレ』の話を令和4年にするサムオブメンバー。後編では良曲と捨て曲の差が激しいことを「爆笑オンエアバトル」の計量システムで例えたり、ごった煮のJ-POPアルバムがプレイリストによって通用しなくなったのではないかという話をしました。前編は下記リンクから。

 

カンノ:あと『ファンファーレ』が面白いのは、1~3曲目とラストの「朝の光」の計4曲はめっちゃいい曲。で、ほかの曲はあんまり覚えてない(笑)

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

YOU:たしかに地味な曲も多いんだよね。

カンノ:本当に覚えてない(笑)なに、この作り方?

YOU:俺も「渚のシンデレラ」ばっかり聴いてたな。

カンノ:で、これはマキタさんのYouTubeに最近出たときにも喋ったんだけど、『爆笑オンエアバトル』に例えるとわかりやすくて。『ファンファーレ』は頭の3曲とラスト1曲はオーバー500KBなんですよ。でもほかの曲は200KB台でオフエアです(笑)オンエアとオフエアの差が激しいアルバムだなと。で、今の時代は400KB台を着実に出すアーティストばかりが求められてるなと。

オノウエ:アルバムという形態がもう通用しない時代だから、みんな500KB以上のシングルを出そうとしてる感じだよね。

カンノ:でも500KBって量は出せないんだよ。だから400KB台の音楽、ようはそれぐらいがそのミュージシャンの安心安定の曲ですよ。「いつもの感じで来た」っていう。で、それがその都度に適したプレイリストに入るから。その象徴が平井大っていう話をマキタさんとしたんだけど(笑)

(該当箇所は1:36:40~)

YOU:そもそもそこに当て込むために曲が作られている感じはあるよね。

オノウエ:『ファンファーレ』が500KBと200KBが混在してるとして。

カンノ:失礼な話だけどね(笑)

オノウエ:でもその200KBがあること込みで『ファンファーレ』が好きってことだよね。

カンノ:そうだね。あのさ、捨て曲の話しようよ!

YOU:なんでニコニコしてるんだよ(笑)

カンノ:今って絶対認められないよね、捨て曲って。

オノウエ:アルバムって必ず捨て曲って存在してたもんね。

カンノ:『ZAZEN BOYS2』がすごく好きなんだけどさ、ほぼ捨て曲なんだよね(笑)

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

ZAZEN BOYS II

ZAZEN BOYS II

カンノ:捨て曲というか、ライブでほぼやらなくなった。

オノウエ:その曲も含めてアルバム通して好きだったりするよね。

カンノ:そうそう。だって全曲が400KB台のアルバムは、もうそれはベストアルバムじゃん。

YOU:そうそう。

オノウエ:ヒゲダンってアルバム全部400KB超えてきてるよね。

カンノ:いや、ヒゲダンは全部500KB超えだと思うな。400KBどころじゃないよ。全曲500KB超えてくる気迫のアルバムだよ。ヒゲダンはますだおかだだよ(笑)

YOU:たしかに俺も『ZAZEN BOYS2』好きだな。でもいい曲も多いじゃん。

カンノ:え?スタジオ録音版の「COLD BEAT」を聴く意味ある?

YOU:ない(笑)

オノウエ:アハハハハッ!

YOU:まあ難しいよね。捨て曲だらけになっちゃうと聴いてられないし。

カンノ:愛着の話になっちゃうんだけどね。

オノウエ:今の試聴環境がプレイリストになっていると仮定して、プレイリストに入ってくるような曲って500KB以上のものが多いってこと?

カンノ:いや、400KBだね。

オノウエ:ここは明確に差があるんだね(笑)

カンノ:ヒゲダンは毎回500KBを超えてくる気迫がある。でも短いスパンで曲をリリースしなきゃいけない人は400KBなんだよね。あとたとえばシティポップの括り方をされるバンド系は400KBな気がするな。

オノウエ:シティポップ系の500KB以上ってイメージしづらいよね。

カンノ:もうはっぴいえんど山下達郎とかを超えることはできないことが本人たちもどうせわかってるからさ。ある種のインスタント達郎じゃん。

YOU:達郎の作った市場のなかでご飯を食べる人たち(笑)

カンノ:それを「肩肘張らずゆるりと聴ける音楽です」という提示をするわけでしょ。それは500KBじゃなくて400KBだよ。で、それを短中期のスパンでリリースし続けなきゃいけないでしょ。「3ヶ月に1回はデジタルシングルお願いしますね」っていう契約で400KB台の音楽を出し続けてるんだよ。

オノウエ:なんだよその話、もうやってられねよ(笑)

YOU:アハハハハッ!

カンノ:平井大は毎週ペースでリリースしてるから、ショートコントペースとして江戸むらさきだなって思うの(笑)

オノウエ:なるほどね(笑)

カンノ:バナナマンおぎやはぎって500KB超えることもあれば、200KB台のときもあったじゃん。本当に面白人たちってそういう波があったと思うんだよ。

YOU:それでいうと、ヤマタツも捨て曲多いからね。本人が「これはちょっと古いですね」って言ってる曲もあるし。もちろん当時は捨て曲のつもりで作ってないけどさ。

オノウエ:なんで捨て曲も含めて好きになる気持ちになっちゃうんだろうね。

カンノ:不思議な話だよね。ちょっと話を戻すと、『ファンファーレ』で思うのが、「twilight race」だけラップ曲じゃん。しかも2人ともロングバースじゃん。簡単なラップ曲じゃないんだよ。5分尺のラップ曲じゃん。その発想はずっと意味がわからないんだよ。1曲だけだよ(笑)普通何曲か入れるよね。これ、1曲しか入ってないから名曲に思えるんだよね。

オノウエ:そもそもクチロロって理論派というか、理屈先行で楽曲とかアルバムを作っていくじゃん。理屈で作る人が素人を集めて天然でなにか起きるかどうかを確かめる意味での実験としてるアルバムが『ファンファーレ』だったと思うの。その前後の時期になんかできてたラップ曲をとりあえず入れた、みたいな感じじゃないかな。その結果ごった煮になったという。

カンノ:それで「twilight race」がすごくいい曲として映えるのが面白いなって。

オノウエ:それが前作の『クチロロ』に入っていたらどうなんだろうね。

カンノ:そのあとの『GOLDEN LOVE』に入っていたら埋もれてた気がする。

オノウエ:それは面白いね。たしかに『GOLDEN LOVE』に入っていたらただのアルバムの1曲で終わっていた気がするね。

カンノ:あれは『ファンファーレ』に収録されていることが重要だと思う。

YOU:ごった煮感を良しとする感じは今はもうないね。

カンノ:もう終わっちゃったよね。

YOU:そのごった煮というのは、アーティストやアルバムということじゃなくて、プレイリストという軸が持っているから、無効になったという話は面白いよね。で、逆に言うとそういうアルバムの価値がすごく高まっている気もする。

カンノ:これはJ-POPっぽい曲のあとにヒップホップの曲が来たからごった煮である、ということではなくて、地続き感が感じられるかどうかなんだよ。地続き感が見えたら普通だから。でも『ファンファーレ』はその地続き感が急に途切れるんだよ。「twilight race」ですごくびっくりしちゃうの。そのことが大事。あれは今無理だと思うね。で、それに憧れて音楽を始めちゃったんだよね、僕。で、すごく後悔してます。

オノウエ・YOU:アハハハハッ!

カンノ:「お前らのせいだ~!」と言って終わりにします(笑)

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