SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
Syrup16gの約5年ぶりの新譜を聴いて喰らってしまったYOU-SUCKメンバー。結婚して奥さんと子どもがいて一生懸命仕事を頑張ろうとしている矢先に、資本主義リアリズムについて歌うSyrup16gに引っ張られてしまうという話をしました。
YOU:Syrup16gが約5年ぶりの新譜を出しました。
カンノ:おめでとうございます!
YOU:ありがとうございます(笑)
オノウエ:YOU-SUCKさんと僕はSyrup16g好きですからね(笑)
YOU:とは言っても最近のシロップを熱心に追っていたわけではありません。「昔よく聴いていたバンドが久々に新譜を出したな」くらいだったんですよ。その感じでいうと、今年はART-SCHOOLの復活のほうが嬉しかったんですよね。
オノウエ:Syrup16gはじつは活動再開してから結構経ってるからね。
カンノ:2014年から活動再開してるよね。
YOU:活動再開してから今回の新譜で4枚目なのでまあまあ動いてるんだよね。僕とオノウエは2008年に行われた武道館解散ライブにも行ってて。
オノウエ:高校生のころに行きました。
YOU:そうそう。「解散しちゃったね~」と言いながら帰ったわけですが。まぁ、思い入れはあるんだけどかなり薄れてはいました。好きだけどなんとなく距離ができていたバンドなんですけど、なんとなく新譜を聴いたんですよ。「久々に出たな、聴くか~」くらいの心持ちで聴いたらですね、ちょっと喰らっちゃいまして。僕は今年子どもが生まれて、仕事も大変なんだけど一生懸命やってるし、「これから頑張るしかないよな」という前向きな気持ちで日々を生きていこうとしているんですよ。
カンノ:良いことじゃないですか。
YOU:かつてはSyrup16gやART-SCHOOLを聴いてうなだれていた日々を過ごしてましたよ。鬱々とした気持ちを抱えていた自分も昔はいましたが、今は奥さんと子どもがいて仕事もすごく頑張ろうと思っているんですよ。でもSyrup16gの新譜はそんな気持ちの僕をすごく邪魔してくるんですよ!
オノウエ:なるほどね。
YOU:まずは歌詞がかなりキツイですね。たとえば「診断書」っていう曲があるんですが。
YOU:曲はすごくかっこいいんですけど、歌詞がめっちゃ辛いんだよ(笑)
カンノ:この出だしの歌詞がいいよね。「悩みが無いのが悩みで 引き受ける勇気が無いだけで 悩み疲れたその場所で 諦めに逃げ込みたいだけで」
YOU:この歌詞が僕、最初に喰らいましたね。「もう俺はやるしかないんだ!」という気持ちになったのに水を差された気分ですよ(笑)
カンノ:この歌詞は前向きになった人の気持ちを邪魔するよね(笑)
YOU:「やっと辿り着いたその答えすら怪しいもんで 無意識に乗っ取られた芝居じみた独白も」とかさ、マジやめてくれよ(笑)そんで、この曲のサビが「診断書待ってる 死んだっしょ 埋まってる」っていう駄洒落ですよ(笑)
カンノ:暗いねずっちみたいなことになってるもんね(笑)
YOU:でもめちゃくちゃ良い曲なんだよね。
カンノ:この曲かっこいいよね。
YOU:音的なことでいうと、今回のシロップのアルバムはかなりシンプルなオルタナティブロックなんですよ。まぁ、これまでもキャッチーなオルタナティブロックで鬱々とした歌詞を歌うバンドだったんだけど。
カンノ:今回のアルバムはかなりSyrup16g的だったよね。僕はそんなに詳しいわけじゃないんだけど、こういうバンドなのはわかる。シロップのベタな感じはした。
YOU:それで特にそのシロップのベタ感が今回のアルバムは洗練された形で出てきたね。サウンドに変な引っかかりがない分、歌詞が異様に入ってくるんだよね。
カンノ:だからこそ、五十嵐さんのちょっと上ずった声もかなり入ってくるよね。
YOU:そうそう。歌詞も声も入ってくるよね。で、「あれ?シロップってこんなに切れ味鋭かったっけ?」と思って過去作とかも振り返りながら聴いてたのね。それで思ったのが、シロップって今聴くと刺さっちゃう音楽だったっていうことですね。僕とオノウエは高校生のころに武道館の解散ライブを見に行ってなにかをわかった気になっていたけど、あのときはなにもわかってなかったね。
カンノ:今になってわかるのね。
YOU:年取ったら聴き方が変わってくるというのは月並みな話だけどね。
オノウエ:俺はそれで言うと、シロップの新譜はなんか聴けなかったんだよね。
YOU:それはどういう意味で?
オノウエ:聴こうとしたんだけど、「ちょっとこっちに来ないでくれ!」っていう気持ちになっちゃって。
YOU:アハハハハッ!
カンノ:でもそれって感じ方はYOU-SUCKと一緒なんじゃないの?
オノウエ:いや、俺の場合は「刺さるから来ないでくれ」っていうことではなかったんだよね。
カンノ:もう生理的に受け付けない感じ?
オノウエ:正直言うと、高校生のころとシロップへの感じ方が違い過ぎてね。ちょっと聴けなかった。ざっくり言うと苦手なのかもしれない。でも今のYOU-SUCKの話を聞くと、また俺の人生のステージが変わったりすると聴き方が変わるのかもしれないと思ったかな。
YOU:いや、俺もオノウエと同じで「こっちに来るな」ですよ。たとえば当時「負け犬」の歌詞とかよくわからなかったもん。
YOU:『痙攣』というZINEで李氏さんという人が書いたSyrup16gの文章があるんだけど、そこでは要するに「負け犬」の2番の歌詞で「お金を集めろ それしかもう 言われなくなった 頭ダメにする までがんばったり する必要なんてない それを早く言ってくれよ」というのがあるんだけど、これのテーマって資本主義リアリズムだよねっていう話をしていて。マークフィッシャーの言った資本主義リアリズムの世界観だと。僕らは当時、五十嵐のキャラクターとかで紛れてあまり理解していなかったけど、彼はずっと一貫して資本主義にキリキリと巻き取られて汲々とする人間の悲哀を歌った人だということを言ってるんですよね。で、聴き直すとたしかにずっとそうなんだよね。そしてなぜ僕が今それが刺さるのかというと、その自覚があるからなんですよね。悲しくなってくるんですよ。
オノウエ:なるほど、そういうことね。
YOU:シロップはもう円熟味が増してるから、正しい位置にナイフを刺してくるんだよ。そしてこっちもこっちで正しくナイフが刺されるように準備がされてある状態なんだよね。もうそういうことが合致しちゃってるのでまたCD買っちゃいましたね(笑)
カンノ:僕ら世代だと、シロップってネタ消費されるバンドの筆頭でもあったじゃん。それがマジでなくなったってことだよね。
YOU:そう。それは本当にそうなの。
カンノ:この手のバンドってどうしてもそうなりがちだったじゃん。とくにシロップとかART-SCHOOLとかって僕ら高校生のときに「またなんか鬱っぽいこと言っちゃって。太宰治みたいなこと言っちゃって」みたいなニュアンスってあったじゃない。それがこちらの斜め目線もどんどん年を取るにつれて薄くなってさ、バンド側もそういう見せ方や聴かせ方が上手くなってね。
オノウエ:今、太宰治っていう名前が出たけどさ、これは例えとしては極端だけど、当時高校生のときは「太宰の真似事とかしちゃって」と思ってるけど、年を取っていったら俺たちも太宰の気持ちもわかってきたということだよね(笑)
YOU:シロップのフロントマンの五十嵐って同時期の作家でいうと坂口安吾が好きらしく、『堕落論』をもじった「落堕」って曲がある。で、太宰も坂口安吾も取扱注意なところがあるじゃん。かぶれちゃう感じというか。そういうことをかぶれるとかじゃなくて、五十嵐は本当に正しくやっていたんだよね。
オノウエ:今のYOU-SUCKの言葉を聞いて自分でも腑に落ちたんだけど、資本主義リアリズムみたいなことを俺は直視したくなかったんだよね。
カンノ・YOU:アハハハハッ!
YOU:今回のアルバムはそれをまざまざと感じさせるからね。
オノウエ:「俺は今、そういうことを考えたくない」という深層心理が浮き彫りになった気分ですね(笑)