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年が明けてもM-1の話をする

M-1が面白かった。あ~、面白かった。放送して1ヶ月以上経った今でも、普通に友達とM-1の話をしている。「和牛がもうラスボス感満載だから、主人公感のある霜降り明星勝たせたくなるよね。」とか。「上沼さんの『ミキおいで~!』は腹立っちゃってもしょうがないよね。」とか。「塙さんの内海恵子師匠訃報くだりの時の上戸彩の呆れた声で言う『もぉ~』が超可愛かったよね。」とか。皆さんも僕と会ったらミーハーM-1の話しましょうね。

 

音楽と無理矢理結び付けたいので、かまいたちの漫才の話。タイムマシンに乗って過去に戻れるとしたら何をするかという設定で、山内さんがポイントカードを作りたいという話に濱家さんがツッコんでいき、学生時代の好きな女の子に告白したいという濱家さんに山内さんが屁理屈と熱量で突っかかっていく漫才。超絶面白かったのは前提とした上で、濱家さんのツッコミがなんか引っ掛かった。

 

「過去に戻ったからって確実にポイントカード作れるとは限らんやんか。」

「ポイントカード作った影響で出会わなくなる人もおるかもしれへんやないか。」

 

絶対にそんなことはないという台詞をツッコミ側が言うことに違和感を覚えていた。これは屁理屈と熱量で山内さんが追い詰めた末に濱家さんが吐く言葉だ。その揚げ足を山内さんが取ってまた漫才が加速していく。その加速装置として置かれた「ツッコミのツッコまれるための台詞」に「あっ、加速装置が置かれた」と思って多少冷めてしまった。

 

審査員の志らく師匠は「上手さを感じすぎてしまって。本当に面白い漫才師は上手いとか感じないんですよね。とにかく『うお~、おもしれ~、すごい!』だけで、上手さの前に魅力が現れると太刀打ちできないんですよ。」と述べていた。

 

ツッコまれるための加速装置としての台詞は、高等技術の裏付けとも言える。屁理屈とそれに対するヤバいぐらいの熱量と振り回され方の上手さと二人が醸し出す顔の可愛げ。その素養があると分かった上でツッコまれるための台詞を聞くと、「可愛い女の子のぶりっ子ポーズ」的な行き過ぎたセルフブランディングに見えてしまった。技術が乗っかり過ぎていると思った。

 

 

 

僕はいつからか、人々を楽しませる表現に関して台本があることを意識してしまっていた。

 

 

 

中学の頃はASIAN KUNG-FU GENERATIONが大好きだった。長袖トレーナーにジーパンを着て、眼鏡を掛けた少し小柄な冴えないボーカルが「僕と君」について、ファイブエムという適度な距離感で歌っていることに、微塵も嘘偽りがないと思っていた。そこには台本なんて無くて、ゴッチの本当に気持ちが歌われていると無意識の内に信じ込んでいた。

 

『サイレン』というシングルがある。

 

表題曲は「サイレン」カップリング曲が「サイレン#」と題されており、表題の方は女を掴もうとする男の目線で、カップリングは掴まれる女の目線で書かれた歌詞になっている。男は「存在証明を鳴らせ」と言い、女は「分からないまま世界が終わる」と言う。

 

シングルCDという形態を使ってアジカンは、(というよりゴッチは)作家性をいかんなく発揮していた。もっというと、シングルCDで遊んでいた。長袖トレーナーにジーパンを着て、眼鏡を掛けた少し小柄な冴えないボーカルが「僕と君」について、ファイブエムという適度な距離感で歌っていることを逆手にとって、(勿論、そんな意地悪な意識ではないと思うけど)『サイレン』というシングルでゴリッゴリに嘘偽りの台本を作り、見事に自分で演じ切っていた。

 

現在、音楽をやっている身としては(超ギリギリですが。明日やめちゃってもおかしくはないですが。)アジカンに対して、「多分、周りの大人からあの格好で冴えないキャラでいこうとか会議があったのかもなぁ。」とか、「今はアーティスト然なスタイルで説得力出す方向でいこうとかあるのかなぁ。」とか、超絶野暮なことを思っていて申し訳ない気持ちです。でも、確かに無垢だった頃の自分はあの姿のアジカンをはじめとしたミュージシャンの曲や歌や格好やジャケやアー写やインタビューやMVや人前に立った時の全ての振る舞いがその人本心のものと思っていた。勿論、そういう人もいたと思う。

 

でも僕自身が、曲や歌や格好やジャケやアー写やインタビューやMVや人前に立った時の全ての振る舞いが「人前に立っている」という前提で行われている事を思った時点で、「どう見られたい」という思考が働くブランディングがあるんだということに気が付いてしまった。人前に立つということは、嘘偽りがそこにはあるということなんだよな。そしてそれを人は演出と呼ぶんだよな。

 

ある程度人前に立ってからアジカンの『サイレン』を聴くと、自分自身をひっくるめたメタ遊びをゴッチは楽しくやってたんだなと思う。まぁ、妄想なんですが。

 

4×4=16 カンノアキオ