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ZAZEN BOYSと即時性 ー インスタント多幸感について ー

先日、とある音楽イベントに行った。
どのバンドもMacが一台置いてあって、4つ打ちのドラムが鳴る。ギターが小粋なカッティングを聴かせ、ベースは動きの幅がやけに広く表立とうとしている。ボーカルは可愛らしい女の子であれば「踊ろうよ、ベイベー」と歌い、かっこいい男の子であれば本格的らしさを醸し出す振る舞いで歌う。煌びやかな同期の音がライブの空間を包み、メンバーの誰かの所に小さい鍵盤が置いてある。
周りのお客は、皆小刻みにノリながら、お酒を飲みながら、友達と談笑しながら、スマホをいじりながら見ている。皆、とりあえずは楽しそうである。僕も「楽しい空間だ」と思って過ごしていた。
でも、ずっとバツが悪かった。なんだかモヤモヤしていた。楽しい空間だと感じる一般論を思いつつ、個人的には「この時間、早く終わんねぇかな」と思っていた。

楽しげな音楽が鳴っていて文句が出ないのは当然だ。僕はずっと「楽しげ」というものに引っ掛かっていた。そこから僕は“インスタント多幸感”という言葉を反芻していた。

インスタント多幸感。即席な幸せ。味の濃い大盛り無料の料理。激安スーパー。1発で分かる動画・画像だらけのTwitter。その濃縮版のインスタやTik Tok。地下アイドル、SSW、女芸人への熱狂。60分3000円のマッサージ。60分3000円の風俗。「思考して、理解する」という流れが野暮ったい時代なのかなと思う。即時性の価値が上がっている気がする。噛みしめる幸せよりも、のどごしが良い幸せ。


中学2年生の頃、野球部にシカトされていた過去がある。そんな人間は音楽やお笑いや小説にハマっていくものだと、未だに信じたい。その時の僕はZAZEN BOYS「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」を聴き狂っていた。

Crazy Days Crazy Feeling

Crazy Days Crazy Feeling

  • provided courtesy of iTunes

 



「こんな音楽、聴いたことがない」という刺激が僕を、スぺシャを映すテレビから離さなかった。バンドでラップをするという表現はDragon Ashをはじめとしたミクスチャーロック勢しか知らない時期だ。こんな表現があるなんて全く知らなかった。知らないことを知る幸せは、噛みしめないと分からない。すぐに『ZAZEN BOYSⅡ』のCDを近所の新星堂に買いに行った。



「こんな音楽、音楽じゃない」という絶望が僕を、ポータブルCDプレイヤーからすぐに離した。疾走感のあるバンドサウンド向井秀徳の念仏ラップが乗りまくった曲が沢山聴けるものだと思っていた。大間違いだった。喉から血を吹き出す勢いで絶唱する「NO TIME」

No Time

No Time

  • provided courtesy of iTunes

 


訳の分からない拍子で空想をのたまい続ける「安眠棒」

安眠棒

安眠棒

  • provided courtesy of iTunes

 



ラップ曲であるが、求めていた疾走感的な快楽は皆無だった「MY CRAZY FEELING」

My Crazy Feeling

My Crazy Feeling

  • provided courtesy of iTunes

 



「2500円払ってこれかよ。マジか。ヤバいぞ。」中学2年生の頃の2500円は大金だ。そして僕はこのCDを聴き込み続けた。理由は単純で、聴き込まないと2500円が「もったいない」からだ。そうしたら、このCDに愛着が湧いてくる。歌詞カードがボロボロになるまで聴き込んだ。
2004年の終わりに盟友であるドラムのアヒト・イナザワZAZEN BOYSを脱退して、松下敦が加入。2005年から向井秀徳の前バンドであるNUMBER GIRLが「Omoide In My Head Project」を始動させて関連作品を発表。その年の中ごろにオフィシャルサイトでZAZEN BOYSのライブ音源が無料配信。『HIMITSU GIRL’S TOP SECRET』のシングルも発売され、僕自身も前作の『ZAZEN BOYS』を購入した。『僕らの音楽』で椎名林檎と共演したのもこの頃と記憶する。
僕がZAZEN BOYSを聴き出したタイミングで、たまたま向井秀徳の過去と現在を繋ぐような出来事が多く起こり、それをディグする日々だった。毎日「狂う目」や「向井秀徳情報」といったオフィシャルサイトが更新されていないかを確認した。いつの間にか絶望していたCDが大好きになっていた。最初に感じた「違和感」に理解を深めることが出来ていた。


今は時間、お金、熱量をかけることが難しい。時短で、ローコストで、なんとなくで済ませたい。各種サブスクリプションYoutubeなどで一発で分かってしまう。ファーストインプレッションで好きか嫌いかを判断出来てしまう時代だ。理解は野暮ったい。即時性の高い判断を自分に求めている。しかも「いいね」「RT」「再生回数」の数で何が人気なのかすぐに分かってしまうのもしんどい。数字だけ見て「あんまり良くないんだろうなぁ」と判断されてしまう。そういう所に面白味があるという思考に辿り着かなくなる。

ファーストインプレッションの先にある「思考して、理解する」流れに面白さがあると思っている。“インスタント多幸感”すなわち“目先にある感じの良いもの”にあんまり惑わされたくない。

 

4×4=16 カンノアキオ