カンノアキオとオノウエソウによる、SOMEOFTHEMのポッドキャスト番組『SOMEOFTHEM OF PODCAST』を配信しています。こちらではその書き起こしを前編、後編に分けて掲載します。第13回は映画『PERFECT DAYS』で役所広司演じるトイレ清掃員の主人公・平山にオススメしたい邦ロックをカンノが紹介する「映画『PERFECT DAYS』の平山さんにオススメしたい邦ロック」特集の書き起こし(前編)を掲載します。ポッドキャストは下記リンクから。
カンノ:今回は映画を取り上げたいと思います。映画『PERFECT DAYS』です。2023年末に公開されて、今も都内では少し上映してますかね。オノウエ君は観てない?
オノウエ:観てないです。
カンノ:観てない人でも楽しめる回にはしたいと思います。ざっくり映画の説明をします。日本とドイツの合作で、ヴィム・ヴェンダース監督。主演は役所広司。ほかに柄本時生、中野有紗、田中泯、三浦友和などが出演。役所広司がトイレ清掃のおじさんを演じていて、その人の生活がルーティンなんです。朝はほうきで掃除するおばあさんの音で目が覚めて、家を出るまでの準備もすべて動線が決まっていて、家出たらその横にある自販機で同じ缶コーヒーを買って、清掃用にカスタムされた軽自動車に乗り、首都高に乗り、渋谷区の公衆トイレを何軒か回って清掃する。午後2時くらいには仕事が終わって、帰ってきて、自転車に乗って近くの銭湯に行って、おそらく午後3時とかの開店と同時に着いて一番風呂。その後、ガード下の飲み屋で一杯引っかけて、最後は家で古本屋で100円で買った文庫本を読みながら、眠くなったらそのまま寝落ちするという生活。そういう一日を過ごす話なんです。で、この役所広司が演じる平山さんという男は音楽が好きなんです。
オノウエ:主人公ですね。
カンノ:家を出て、首都高に乗る前、ちょうどスカイツリーの手前あたりでカセットテープを再生し出すんです。で、トイレ清掃の現場に着くまで、そのカセットを聴き続けるんです。そこで流れるのが、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ルー・リード、パティ・スミスなど。
オノウエ:結構ロック好きですね。
カンノ:ロック好きのおじさん。趣味がいいものを聴いてる感じ。こういう音像も生活のループ感を担ってるのかなと思うんです。今日やりたいのは、そんな平山さんにオススメの邦ロックを紹介したいなと。
オノウエ:なるほど。
カンノ:僕も映画を観たので、「平山さんはこういうのが好きなんじゃないかな?」ということで、今回は「映画『PERFECT DAYS』の平山さんにオススメしたい邦ロック」特集!
オノウエ:なるほど(笑)
カンノ:生活が固定されることを望む平山さんだからこそ、邦ロックにも良い作品がたくさんありますよと。生活のループを崩されたくない男に新しい提案をするので、完全に余計なお世話企画なんですが(笑)
オノウエ:そうですね(笑)
カンノ:というわけで余計なお世話をしていきます、まずはこちらの曲です。ZAZEN BOYSで「バラクーダ」
カンノ:『PERFECT DAYS』を観たときに、もしかしたら想起した人もいるかもしれませんが、桐島聡。
オノウエ:おぉ。
カンノ:「俺が桐島聡だ」と名乗り、癌が末期状態で、4日後とかに亡くなったというニュースがありました。
カンノ:いわゆる「逃げ切った」という言われ方をされていますが、どうやらこの男は音楽が好きだったと。音楽バーに行って、レコードを聴いていたというニュースがありました。このように音楽好きで、独り身で、質素な暮らしのなかでたまに楽しむところがあるというのは、平山さんと関連付けて観た人もいるんじゃないでしょうか。
オノウエ:なるほど。
カンノ:お金はないけど、ある程度ご機嫌に生きれる人として。で、この「バラクーダ」という曲、「Are you bommer? 爆弾魔 爆弾魔」って歌ってるんですね。
オノウエ:あ~。
カンノ:その爆弾魔が「今日もロンリーナイト イエイエイエー」と過ごす歌なんですね。この「桐島-平山-バラクーダ」ライン(笑)これは桐島聡の歌でもあるし、平山の歌でもあるという。
オノウエ:なるほどね(笑)
カンノ:まぁ、「ピンクタイガー」はよくわからないですが(笑)
オノウエ:そうですね(笑)
カンノ:そしてZAZEN BOYS楽曲のループ感含め、なにか思い当たる節はあるのではないか。この押上という冷凍都市で過ごす平山さん。
オノウエ:そっか、スカイツリーがあるもんね。
カンノ:では次にこの曲をお聴きください。くるりで「ハイウェイ」
カンノ:これはマジで聴いてるんじゃない?
オノウエ:でも旅とか出ないでしょ?
カンノ:でも旅に出る高揚感の音像ではないでしょ?
オノウエ:曲のテンションはそうだね。
カンノ:この曲のテンションのような生活を平山さんは送ってると思うの。
オノウエ:なるほど。穏やかなね。
カンノ:だから、平山さんの持つカセットたちのなかに、『ジョゼと虎と魚たち』のサントラが入っていてもおかしくない。映画メタだけど(笑)
オノウエ:なるほど。映画の主人公である平山さんがジョゼを観ている可能性がある(笑)
カンノ:あとね、平山さんって映画を観る描写がないんだよ。文庫本は読むし音楽は好きだし、文化に対する知的好奇心は高い気がするんだけど、映画に関してはそういう背景がなくて。
オノウエ:たしかに、観ててもおかしくはないのにね。
カンノ:生活のルーティンに入っていない。むしろ入れないようにもしている可能性がある。まぁ、映画内で映画を観ないようにしているのは、そのメタ感を排除しているようにも思えるしね。
オノウエ:なるほど。
カンノ:「ハイウェイ」を聴きながら早朝の首都高を平山さんが少し笑顔で走っている画が見えますね。車で走ってる平山さん、笑顔なんだけど目はバキバキなんだよね(笑)
オノウエ:バキバキなんだ(笑)
カンノ:改めて思ったけど、役所広司って顔がすごいね。あれ、顔を見る映画だよ。
オノウエ:台詞も少ないんだよね。
カンノ:寡黙な役ですからね。行動とか、行動に移す間とかで、どんなことを考えているかを表しているし、あと顔がデカい。
オノウエ:実際の大きさという意味よりも、圧みたいな話だよね?
カンノ:すごいよ。あの顔、民間のものじゃないよ。国民の税金で守らないといけない顔ですね。少し笑顔なんだけど、その奥にある”何か”を出せる俳優さんってすごいなと思いましたね。
オノウエ:それで直接的になにか腹に据えているということもないわけでしょ。
カンノ:背景はありそうなんだけど、そこまで直接的に「アイツが憎い!」ってことはない。で、くるりの「ハイウェイ」って「旅に出ようぜ」と歌っているけど、音は旅に出るような音像ではないところが、平山さんのあり方にも通じるかなと思いました。
『SOMEOFTHEM OF PODCAST』はパーソナリティーのカンノアキオと聞き手のオノウエソウが、最新J-POPやちょっと懐かしい曲をクイズやゲーム、時には曲同士を戦わせつつ(?)、今までになかった音楽の切り口を発見しようとする音楽バラエティ番組です。感想は是非「#サムオブ」をつけてツイートしてください!ポッドキャスト版では番組の最後に4択のJ-POPクイズを出題していますので、是非そちらもお聞きください!