SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #137『PERFECT DAYS』と音楽(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

映画『PERFECT DAYS』を観たサムオブメンバー。内容的には大満足の2人が、映画内の音楽にまつわる部分で良かったところと引っかかったところについて語りました。

 

 

YOU:『PERFECT DAYS』という映画を観ました。これはカンノに勧められて、公開されてだいぶ経ってから観たんだけど。俺はこの映画、めちゃくちゃ好きで。

カンノ:僕も好きですね。

YOU:ただ、観る前は「おそらく嫌いな系統の映画だろうな」と思っていました。この映画が役所広司演じる男が一人暮らしを満喫している映画ということは知っていて、「丁寧な暮らし」を礼賛するものかと思っていました。そういうものだけを描いていたら、俺は小さい子どもがいて、日々の暮らしがライオット過ぎるので、「丁寧な暮らし」礼賛なモードには乗れないので、まったく共感できないだろうなと思っていたの。でも観てみたら、そんなこと以上に、この映画の東東京の画が好きだったんだよね。俺もこの近くに住んでいたことがあって、とても東東京が好きだったので、好きな部分が描かれててありがたかった。あと、この「丁寧な暮らし」的な生活も永遠ではない感じが出ていたのがよかった気がする。これまであった建物がなくなったり、行きつけのスナックもママの前の旦那が来て続くのかどうか怪しくなったり。あと主人公の平山の妹がセレブで、平山とお父さんの関係がよくないことが示唆されていたじゃん。ということは、平山はただ単にやりたいからこの生活をしているわけではなくて、どこか追い詰められてこういう生活になったと取れると思ったんだよね。

カンノ:そうならざるを得なかった。

YOU:だから、ただおじさんが都合のいい生活をするだけの映画には見えなかった。で、サムオブ的に音楽にまつわるところでいうと、スナックのママ役の石川さゆりの歌声が映画として今後の世の中に残り続けること、そしてそこにギターで演奏しているのがあがた森魚っていうのがヤバい。「こことここがつながるんだ!」っていう興奮はあったね。石川さゆりという稀代の演歌歌手とあがた森魚というアングラとメジャーの橋渡し的なシンガーが同時に映っているのは興奮しました。

カンノ:あのスナックのシーンね。そこにいるのが役所広司モロ師岡っていうのがいいじゃない(笑)

YOU:キャスティングが素晴らしいよね(笑)平山がお昼を食べる公園にいつも横で座っているOL役の長井短もよかったな。

カンノ:絶妙に不幸そうな顔しているの、天下一品にうまかったよね(笑)あと柄本時生演じるタカシの代わりにトイレ清掃の仕事に来た安藤玉恵もよかったな、5秒くらいしか映ってないけど。

YOU:カッコよかったよね(笑)

カンノ:次のパーフェクトデイズを歩みそうだなって思った。

YOU:たしかに(笑)で、もう一つ音楽の話なんだけど、アオイヤマダ演じるアヤっていう女の子がいたじゃん。

カンノ:どうやらガールズバーで働いているらしい、タカシが好きな女の子。

YOU:アヤが平山の車に入って、パティ・スミスの『Horses』っていう有名なアルバムのカセットを聴くんだよね。それを「好き」って言って口ずさむじゃん。「そんなわけねえだろ」って思ってしまった。

カンノ:フフッ。

YOU:パティ・スミスを口ずさむ女の子、いる?

カンノ:それは物語だからさ(笑)

YOU:たとえば映画でも流れてたけど、金延幸子だったら「この人の言ってること、不思議」とか言うのはまだリアリティあるけどさ。

YOU:パティ・スミスを口ずさむのは嘘じゃん(笑)

カンノ:好きなノリだったんだからいいじゃない(笑)

YOU:パティ・スミスを聴いて口ずさんで、頬にチュッとして帰るのは可愛らしいシーンではあるんだけどさ、あれこそおじさんに対して都合のいいシーンに思えちゃってね。

カンノ:たしかに、あのシーンは結構ファンタジーだよね。

YOU:たしかにこの映画はおじさんの妄想の部分は大きいと思う。ただその一方で、そういうおじさんファンタジー性をすべて排して、超リアルなトイレ清掃員の映画にしたらジャンルが変わっちゃうじゃん。たとえばこの映画は「大資本が入っていて、トイレ清掃員のリアルで惨めな部分が全然扱われていない」みたいな批判もあるみたいだけど、それは別ジャンルのところでそういう映画を観ればいい気がする。もちろん、ケッて思う部分もあの映画にはなくはないけど、それよりも東東京の風景をあのタッチの画で残してくれてありがとうという思いのほうが強いし、音楽のセンスもよかったし、終わりの予感も感じられたし。

カンノ:撮り方がうますぎて批判が集まる部分もあるのかもね。画もきれいで、音楽の使い方もセンスがあるからこその批判というかね。音楽がBGMじゃなくて、平山の車のなかで流れているというギミックもいいじゃん。だから、BGMとしてフェードアウトするんじゃなくて、車を止めたら停止ボタンが押されるという意味でカットアウトされるという。で、そこから仕事に入るというね。

YOU:音楽を流す瞬間も、車を走り出したらではなくて、「この場所で」というのがあるよね。

カンノ:スカイツリーのふもと辺りで流し始めるんだよね。

YOU:あの感覚、わかるんだよな。「この場所から音楽を聴く」っていう感覚は久々に思い出しましたね。

カンノ:その感覚がおもしろいなと思ったのは、駐車場を出るのと同時ではなくて、ある程度走ってスピードに乗ったタイミングでカセットを流し始めるんだよね。走ってるときの音楽なんだよね。音楽を止めるときは、車を停めるときなんだよね。それすらもルーティンになっているという。で、そのルーティンを崩されたら怒っちゃうんだから。「こんなシフトできねえよ!」って。

YOU:アハハハハッ!

f:id:someofthem:20240424142630j:image