SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
年末なので年間ベスト企画をやることになったサムオブメンバー。前編の今回は、崎山蒼志がラップで参加したDos Monosの楽曲を「プレイリストからはみ出たもの」、氷川きよしの映画主題歌を「プレイリストを総取りするもの」としてカンノメンバーが熱く語りました。
カンノ:年末なので年間ベストソング企画やりましょうか。
YOU:そうだね。
カンノ:それぞれ今年よかったと思う曲を選んできてもらいました。じゃあまず僕からいきますね。僕は今年、特に下半期は「プレイリスト」という額縁を中心に音楽を聴いていました。プレイリストってジャンル等で音楽を括るわけです。分類するんです。たとえば「エモい音楽」「チルになれる」「夏フェスでアガる!」みたいな分類をするわけです。だから「そういう風に聴いてほしい」という意図がある。で、プレイリストで音楽が聴かれることが増えましたね。つまり「そういう風に聴いてほしい」という意図が、それで括ったプレイリストからだけではなく、括られる曲からも感じられることが多くなった。楽曲自身から「この市場に当てに行ってます」という意図を感じ取ることが多くなったんですね。で、「そういう曲を聴くことに疲れた」という話をさっきしました(笑)
オノウエ:カンノはずっとその話をしてるよね(笑)
カンノ:「ねえねえ!僕はシティポップ文脈で語られるような楽曲になりたいんだ!」って言っているかのような曲ってあるじゃん?(笑)
YOU:そういうスケベな曲ってあるよね。スケベなバンドもたくさんいる(笑)
カンノ:そうそう。「語られたいんだな~」と思う曲。「『夜に駆ける』みたいなセンスのタイトルでZ世代枠で括られたいんです~!」と言ってる曲とかさ(笑)そういう曲ばっか聴いてたら疲れてきちゃったよという話を散々してきました。で、そういう曲ってそういう曲が集まったプレイリストに入って、そういう曲ばかりを聴くリスナーに当ててきてるから、すべてが想像の範囲内で収まっちゃうと思うんだよね。で、それを感じちゃう曲にガッカリするような2021年だったなと。逆に言うと、今年好きだった曲というのはプレイリスト入りを感じさせない曲なの。これって2種類のパターンがあって、「どのプレイリストにも引っ掛からなそうな曲」か、「全部かっさらう曲」なんですよ。
YOU:あ~、なるほどね。
カンノ:だから今年のベストは僕、2曲あります。まず「どのプレイリストにも引っ掛からなそうな曲」でいうとDos Monosの「A Spring Monkey Song(feat. 崎山蒼志、SMTK、小田朋美)」です。
YOU:この曲はプレイリストに入らなそうなんだ。
カンノ:厳密にはなにかしらには入るんだろうけどね。ただどんな括りなのかはさっぱりわからない。
YOU:たしかに。「邦楽HITS 100」とかなわけないもんね(笑)
カンノ:「J-HIP HOP」でもないし「J-ROCK」でもないし「Z世代の~」とかでもないし。
YOU:でも曲はめっちゃかっこいいよね。
カンノ:SMTKが演奏で小田朋美がコーラスで参加しています。もともとはDos Monosのアルバムのリメイク作品なんだよね。
カンノ:ここで注目したいのは、崎山蒼志の扱い方なんだよね。この曲では全編で崎山蒼志がラップしています。で、Dos Monosは参加していません。リメイク作品だからなんですが。
オノウエ:なるほど。
カンノ:崎山蒼志ってメジャーから出している曲が全部良曲すぎてあんまり好きじゃないんだよね。「ちゃんと商品として成立している曲を歌っている」というところがあんまり好きじゃなくて。崎山蒼志の良さってそんなところにはないと思うんだよね。本来はもっと異物感があるはずというか。
オノウエ:崎山蒼志は異物感というか、あの年齢特有のひりつきみたいなものな気がするな。
カンノ:たしかにそうだね。で、それがすごく丸まっちゃったじゃん。メジャー以降、「良い曲を歌う人」な扱いというか。そういう商品の在り方になっちゃったなと。で、この曲は全然そうじゃないところをやってるというか、一言でいうと邪悪(笑)崎山蒼志を邪悪なものとして見せている感じがしてとても好きなんだよね。
YOU:この曲は崎山蒼志ファンに全然知られてなさそうだもんね。
カンノ:あとこの曲の市場もよくわからない。
YOU:大友良英とかかな。
オノウエ:大友良英、菊地成孔圏だよね。Dos Monosだし小田朋美だから確実にそこだと思うんだけど、そこに崎山蒼志が参加しているのは面白いよね。
カンノ:崎山蒼志のひりつきって、ある種商品とは反対のものというか。生々しいものってなかなか商品になりえないと思うんだよ。そういうことを再確認させられるというか。
オノウエ:メジャーっぽさが見えると引いちゃうんだよね。
カンノ:やっぱり冷めちゃうよね。崎山蒼志って「五月雨」のときは変だったもん(笑)
YOU:「この人には才能がある」とわかった瞬間にエスタブリッシュなものになっていく流れって残酷だよね。
カンノ:しかも崎山蒼志はそれが速攻だった。もう5年くらいメジャーにいる感じがするじゃん。そのつまらなさっていうか。でもこういう曲を聴くと「扱い方がいいな~」と思ったんですね。レーベルとか企業とかが扱うと、その感じの一辺倒になっちゃうからさ。そこからどうはみ出ているのかが僕の好きな感じなんですよね。
YOU:たしかにこの曲は「はみ出ている曲」だね。
カンノ:この曲が「なにに括ればいいかさっぱりわからない曲」なんですが、次は「全部かっさらう曲」を紹介したいなと。それは氷川きよしの「Happy!」という曲です。
YOU:氷川きよしの「Happy!」は本当に素晴らしいよね!
カンノ:これは最高だよね!僕はラジオで最初聴いたんですけど。
YOU:イントロがJ-ラテンでね。このイントロだけで掴める年齢層はあるよね。
カンノ:歌詞も全パイを取りに来てるよね。SMAPの「がんばりましょう」とかを思い出すよな。
オノウエ:あ~、なるほどね。
YOU:マジでこういう曲、減ったよね。
カンノ:わかる!久々にこういうの聴いたよね。さっきから言ってる「プレイリスト」という額縁って、つまり細分化だから「この層に当てれば売れる」という曲だらけになっちゃったんだよ。だから1曲1曲が小粒なんだよね、当てるパイが小さいから。その細分化された小さいパイだらけのものをすべて総取りできるのが氷川きよしの「Happy!」だと思ったんですね。
オノウエ:この曲を聴いて思い浮かべるのは、歌番組だね(笑)
YOU:多幸感がすごいよね。
オノウエ:曲がちゃんといい。
カンノ:で、過去の氷川きよしも調べたんだけど、脱演歌をして何年か経ったけど、それも歌謡曲かアニソンかビジュアル系っぽいことをやっていて、それも実は当てる層は決まってるんだよね。だからそんなにノレなかった。でもこの曲は全然関係ないじゃん。もっというと、SMAP→嵐の流れのことをやってると思うの。っていうか、SMAPや嵐みたいな曲を最近全然新譜で聴いてなかったことが問題というか。超歌のうまい人が老若男女全員をちゃんと沸かせる曲を作ってきたことがとても素晴らしいと思う。
YOU:夢があるよね~。
オノウエ:SMAPと嵐がいなくなったら、そこを氷川きよしが取りに来たなんて、一体誰が想像した未来なんだ(笑)
カンノ:グッと来るよね~。
YOU:この曲は意義が大きすぎるよ。
オノウエ:もっと気付かれていい曲だよね。
カンノ:あと思ったのが、『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』がJ-POP DJを流行らせた一翼を担った部分はあると思うんだけど、今タマフルがあったらこの曲はアンセムになってたなと。
オノウエ:J-POP DJでは絶対に流れるね。
YOU:クラブで聴いても気持ちいいよね。
カンノ:そういう曲がしばらくなかったと思うの、細分化された曲ばかりだったから。
YOU:シティポップなんてマジクソ喰らえですよ!
カンノ:それは言いすぎだけど(笑)でもそういうジャンル史観をすべて投げ飛ばす曲ではあると思う。
YOU:こんな真正面から幸福なものを投げ込まれるとなにも言えないよ。
カンノ:やっぱり「分類という意図からはみ出たもの」という目線で音楽に触れるとすごく楽しいなと思いましたね。今紹介した2曲は両方ともそういう目線なんだけど、真反対の位置にあるという。
YOU:いや~、カンノが渾身の1発を投げてきて、これからなにを話したらいいのか全然わからなくなりましたね(笑)