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サムオブ井戸端話 #150『ゲスの極み乙女の新譜から考える”ファンが試される多様性”』(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

ゲスの極み乙女の新作『ディスコの卵』がかなり好みだったサムオブメンバー。水商売っ気が感じられる作品をロックバンドから聴けることこそ”多様性”という話から、閉鎖的でしきたりが大好きな日本人ということをロックフェスを通じて語りました。

 

 

カンノ:ゲスの極み乙女のニューアルバム『ディスコの卵』がリリースされて、僕もサブスクで聴きましたが、かなり好きでした。

YOU:めちゃくちゃよかったよね。

カンノ:タイトルがそうだからもあるんだけど、水商売っ気を感じたね。

YOU:「歌舞伎町」ってワードも使われてたしね。

カンノ:高級クラブのイメージ。それをロックバンドがやるっていう。それが素晴らしいなと思って。これを多様性と言わないで、なんと言う。ロックバンドがこういうテイストでアルバムを作ってくれるというね。それはありがたいことだなと思ってね。

YOU:はい。

カンノ:これは僕らがよく話していることですが、J-POPには教科書的な規範があると。お客さんにはこういうニーズがウケるから、それに合わせた曲を作って、そこで商売が成り立つという。まるで生産者と消費者のような関係性で、欲している曲を求め、欲されている曲を作っている。それがロックフェスにまで及んでいます。フェスは市場です。ロックバンドというお魚がピチピチ跳ねていて、お客さんは拳を突き上げることでセリに参加している(笑)

YOU:その例えが果たして合っているかどうかいささか疑問だが(笑)ようするに、「これが良い魚です」という価値とか相場は決まっていて、魚を買い付けに来る人も、それがどういう魚かということがわかっている人たちで、「こういうふうに味わったら美味しくなる」ということが売り手も買い手もわかっているから、オークション的なことが成り立つわけだよね。でも本来は、「一見どう食べればいいかわからない魚も美味しかったりするじゃないですか」って言う人がいたりするのが幅の広い芸術や大衆芸能の領域なんだけど、初セリのマグロに高い値がつく話に収束されるし、聞き手も訓練されていて、「初セリの魚じゃないとダメ」みたいな感じになりつつある。オークションの価値観から外れるものについて、不安になったり、どう受け止めればいいかわからなかったりする感じよね。

カンノ:そういう場所なはずが、この前のビバラロックで星野源が「手を振る動きを一旦やめて、自由に踊ってみましょう」という旨のMCをしたっていうのがあるじゃないですか。

YOU:ありましたね。

カンノ:あれは魚から「また刺身ですか?」と言われるみたいな(笑)

YOU:フフッ。

カンノ:「えっ?生で食うのが一番じゃないの?」みたいな(笑)「そもそものセリという制度も一旦やめませんか?」って言われて、業者もギョッとする。

YOU:たしかにあれは象徴的な話で、個人的には星野源にすごく共感したけどね。

カンノ:でもそれに共感できるのは、それなりにリテラシーがある人だよ。

YOU:ちょっと話は変わるんだけど、地元で友達とベロベロになるまで飲んで、そのまま2次会でカラオケがある居酒屋に入って、そこで酒飲みながらしゃべってたの。で、ほかのお客さんは好き勝手にカラオケで歌ってたりして。で、べつに俺らは知り合いでもなんでもないから、それを無視して普通にしゃべってたの。そうしたら、ひとりでカウンターにいるおじいちゃんから「お前らはほかの客がカラオケで歌ってるのに、拍手もしないでマナーがなっとらん!」と説教されたことがあって(笑)それは単なる飲み屋の面倒臭い客の話なんだが、そういう感覚って日本のファンダムであるよね。たとえば、ヴィジュアル系シーンで「咲く」っていう行為がある。これは以前も話したね。この「咲く」という行為をしないと怒られるバンドと、すると怒られるバンドがいたりするの。

YOU:アイドルとかもそうだよね。最前列にいるなら「うりゃー!おい!」をしなくちゃいけないとか。一体感の楽しみってわからなくもないけど、それだけじゃないじゃん。だから星野源の提言はかなりウェルカムなんだけど。

カンノ:ようは、しきたりが好きなんだよね。ライブハウスのマナーとか、スナック居酒屋のマナーとか。しきたりとかルールが大好きだからさ。「これをしなくちゃいけない」という縛りを設けることで結束する人たちもいるし。逆にそれに乗らないと敵とか。

YOU:これも以前話したけど、「テイラー・スウィフトのライブに行ったら、自分の席の前の外国人がめっちゃ歌って踊ってて、超不愉快だった」みたいなポストがバズってる人がいたけど、海外だとそっちが普通なんじゃないかと思ったりしたんだよね。

カンノ:内か外かを分けるのが根本的に好きだよね。

YOU:そうだよね。

カンノ:もちろん、それによって身を守る意味もあるんだけど。だから幅広い楽しみ方とかなかなかわかりづらい。フェスだと一体感以外の楽しみ方がわからなかったりする。

YOU:日本人は基本的には盆踊り文化ですからね。

カンノ:っていうときに、ゲスのアルバムは聴く側が試されている感じがしていいなと思いましたね。「これをどう楽しむか?」っていう。だってロックバンドがこういうものを提示したときに、提示された側はなにをどう思うか知りたいもんね。個人的にはビルボードとか似合いそうだなと思った。

YOU:そうだね。

カンノ:ビルボードみたいな箱のコンセプトが似合いそう。ゲスのメンバーはきっちり、高級クラブの店員みたいな出で立ちで、飲食できる場所でおもてなしをするイメージのライブとか映えそうだなと思いましたね。

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