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サムオブ井戸端話#011「人生を取りに来たOfficial髭男dism」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週火曜日にアップします。

 

Official髭男dismの新しいアルバムを聴いて「自分の人生を取りに来た」と思ったYOU-SUCKメンバー。アルバムの感想を語りつつ、「髭が似合う年齢になってもワクワクする音楽をメンバーで続けていきたい」というバンド名のコンセプトを聞いて「ヒゲダンがもう"Official髭男dism"を実践しようとしている…!」ということに驚いたりしました。前編は下記リンクから。

 

YOU:ヒゲダンと好対照にいるバンドがスピッツかなと思ったんだよね。スピッツって人生を取られている感じがしない。それは歌詞に具体がそんなに出ないから。直接的じゃなくてなにかに置き換えてたりね。あと出自がオルタナだから、暗くて死の匂いのする歌詞を初期から歌っていたりするから。「チェリー」は日用品っぽいけど(笑)やっぱりヒゲダンの新作はめちゃくちゃ良いアルバムだったけど、「俺の可処分時間を取りやがって!」とは思ったな~(笑)クソデカバンドになってしまったな。

オノウエ:クソデカバンド(笑)

YOU:そしてここから先、どうなるのかが怖いね。

オノウエ:俺は揺り戻しが耐えられなくなって爆発する可能性はあると思う。一度とてつもなく大きいところまで行くと、「この先また大きくするにはどうする?」という問題も発生すると思うんだよ。そのために途中からバンドという体ではなくなっていくとか、たとえばRadioheadが『OK Computer』を出したあとの『Kid A』みたいな(笑)それか今の形を保ったまま、小林武史的なハイパープロデューサーがついて上手く維持されていくのか。

YOU:ヒゲダンって良くも悪くもJ-POPだと思うんだよ。それは彼らも自認してると思うんだよ。

カンノ:ロックバンドではない。

YOU:たとえばロックの良いところが出た曲もあれば、今回のアルバムだと「ペンディング・マシーン」っていう曲は80’sのディスコチューンの良いところを抽出していてとてもカッコよかったんだけど。

YOU:だから打ち手がいくつもあるんだよね、ロックやディスコやみたいなものが。そういうことが人生を取りに来ていることにつながっていると思う。音楽的に尖ったことがやりにくいと思うんだよ。だからそっちの方向に行ったら、もう人生を追い続けるしかないんだよ。だからBUMP OF CHIKENやRADWIMPSよりも苦しい戦いだと思う。バンプやラッドはなにをしてもロックバンドだから。EDMを取り入れてもクラブではかからないじゃん。ディスコチューンはバンドではやらないじゃん。あくまでロックだと思うの。でもヒゲダンはどこへでも行けると思うんだよ。「Laughter」はすごいUKロックっぽいし。ヒゲダンにはいろんな要素があって、音楽的尖りはなくて、人生を取りに来るクソデカ方向に行って(笑)

カンノ:そんなに過剰にロックバンド的なギターの音を聴かせる曲もないもんね。

オノウエ:カンノはどう思ったの?

カンノ:あのアルバムは先行配信で出したシングル曲がいっぱいあるでしょ。その印象が強くて。結局ベストアルバムみたいな印象なんだよね。「アルバムってどういう存在意義なんだっけ?」って思っちゃったかな。シングル的な曲が多いからさ。『爆笑オンエアバトル』に置き換えると、「545KBのネタをいっぱい見たな~」みたいな(笑)

オノウエ:チャンピオン大会みたいな(笑)

カンノ:タイムマシーン3号とか流れ星とかのネタをたくさん見て、めちゃくちゃ面白かったんだけど、なにも覚えてない(笑)

オノウエ:カンノって人生を取りに来る曲でハマったことなさそうだよね。

カンノ:あぁ~、ないね(笑)

オノウエ:そうなると大衆に確実にハマるタイムマシーン3号のネタで自分も周りもみんな笑ってるけど、ネタ自体は結局そんなに覚えていない状態になる。

カンノ:俺も嫌いじゃないし、めちゃくちゃみんな好きなんだけど、あまりにも隙がない良さだから、印象に残る良さじゃないんだよね。なんか、捨て曲って大事だなって思ったんだよね。捨てるところがなさすぎて。全部良い曲だから、引き立つ良い曲がない。「俺、じつはこんなド変態な曲がやりたいんだよ!」という真っ黒な欲が見えなかった。

YOU:今ってシングルでのリリースが成り立たないじゃん。B面やアルバムの半ばでやるような息抜き曲や実験曲がやりにくいよね。全部シングル曲みたいなのは分かるな。

カンノ:天丼のあとにトンカツ来て、そのあとカレーみたいなことだから。

YOU:それで歌詞が人生のあれこれだからね。

カンノ:聴き流せないよ。こっちはもうちょっと適当に聴きたいんだよ。

オノウエ:聴き手の人生を取り続ける戦いか~。

カンノ:「この人とお付き合いしたときにはヒゲダンのこの曲」「この人と結婚したときにはヒゲダンのこの曲」「子育てのときはヒゲダンのこの曲」ってことでしょ。凄まじいよ。

YOU:生活に根ざしてるよね。それはヒゲダンのバランス感覚が優れているところだと思うの。会社員経験やメンバー全員既婚者ということの、地に足ついてる感じとかも今っぽい。生活の匂いとかも結構歌詞に反映されている。所謂ミュージシャンやアーティストの持つギラギラした感じや破天荒な感じとかとは対極かもね。

オノウエ:社会人経験やメンバー全員既婚者っていうのはたしかに大きいかもね。

YOU:だから早くから人生を取りに行ける説得力を持てたと思う。

カンノ:それが音楽をやる理由なのかもね。

YOU:Official髭男dismってコンセプトは一貫してて、バンド名も最初は語感がいいからつけたみたいなんだけど、後付けで「髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けていきたい」っていう意味があるとされてたくらいだから。

カンノ:それはものすごい忠実だね。めちゃくちゃ全うだね。

YOU:でもその「わくわくするような音楽をこのメンバーでずっと続けていく」を楽しく軽々とのらりくらり続けるタイプのバンドかと思いきや、もう人生を取りに来たからすごいなと。

カンノ:もう”Official髭男dism”になろうとしていた!

オノウエ:「”Official髭男dism”をやります!」という宣言がわりと早めに出た(笑)

カンノ:「お前ら、髭を生やす準備はもうできてるか?」(笑)

オノウエ:30歳の時点でもうそこまで考えていることに衝撃だったな。

YOU:でも実際にのちのち人生に後悔するのはのらりくらり過ごしてしまった俺たちだから(笑)

オノウエ:それも分かってるからショックがデカい…(笑)

カンノ:俺もまだもうちょっとバイトしてたいな(笑)

YOU:でもそういった有限性を感じて頑張っていくことや、貴重な時間を大切に過ごす感覚とかはとても大事だと思うんだけど、逆に時代がそう感じさせている部分もあると思っていて。「有限だし、自分の生活をウェルメイドなものにしてこうぜ」的な空気というか。その空気感とも相まって、ヒゲダンは人生を取りに来たなと思いました。

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