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サムオブ井戸端話#014「たりない技術のエモさ」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週水曜日にアップします。

 

上手いラップが苦手なカンノメンバー。技術論が絶対的な評価につながることで、そこから零れてしまうものが評価されないことへの苦手意識や、技術が届かないことで生まれるエモさについて語り合いました。

 

カンノ:僕はクチロロというグループが大好きなんです。サブスクにクチロロしかなくても僕は最悪大丈夫です(笑)

YOU:まぁ、みんな困るけどな(笑)

カンノ:で、クチロロのなかでも「twilight race」というサブスクにない曲が大好きなんですけど(笑)

カンノ:特に元メンバーの南波一海さんのラップがすごい好きなんです。でもなんであのラップが好きなのか、いまいちよく分からなかったんです。「素人臭いのがいいんだよね~」って適当にお茶濁してたんだけど、それはなんか芯食ってないんだよね。

オノウエ:たしかにカンノはそう言ってたね。

カンノ:それをずっとどう説明していいか分からなくて。で、今ってラップブームじゃないですか。ラッパーという肩書の人たちってみんなラップ上手いじゃん。

オノウエ:下手なラッパーっていないよね。

カンノ:それが辛くてさ。

オノウエ:そんなことを俺たちに訴えかけられても…(笑)

YOU:でもずっとそうなんじゃないの?日本にヒップホップが根付いたときから、ずっと上手い人が上にいる状態じゃないの?

カンノ:そうなんだけど、それがブームになるとどんどん技術論が広まるじゃん。で、その技術論を聞くためにラップを聴いてる感じになっちゃうというか。それが苦手なんですよ。テクニック原理主義が苦手というか。テクニック論自体はべつに良いんだけど、それが絶対的な評価になっちゃうことが嫌なんだよね。「これこそスタンダードである」とか「このラインを超えてないとナシだよね」とかが苦手ですね。

YOU:でも「これがスタンダードである」っていう層はどのジャンルにもいるよね。それが集団を形成していって権威になったりするのは。

オノウエ:それってどのジャンルにもあるんだけど、日本語ラップがそこまで成熟してきたから、そのフェーズに最近乗っかってきたよねってことだと思う。

YOU:『フリースタイルダンジョン』が決定打だったよねってことか。

カンノ:そうそう。「ラップを聴く」ということが、「ラップの上手さを聴く」ことに取って代えられた感じがしてるから、俺が「クチロロが好き」ってなんか言いにくいなって思ったりしてるんだけど。もっというと「クチロロのラップが好き」っていうことが。

YOU:もうちょっと「ラップの上手さ」という言葉を因数分解したほうがいいかもね。「ラップの上手さとはなにか?」を考えたときに、大多数の人が思い浮かぶのは『フリースタイルダンジョン』的な上手さだと思うの。

オノウエ:フローや言葉数の多さ。

YOU:見た目のカッコよさとかそれだけ客をアジれるかとか。

オノウエ:韻が固いとか。

カンノ:そこにどれだけメッセージを込められるかとか。しかも引用していて。

YOU:そういうことがストリートの不文律としてあって、それぞれでコンテストとして存在して、それで優勝するKREVAみたいな人が出てきてデビューする流れがあって。そのストリートの不文律がテレビで放送されることで形式が広まって、そこに追従する人が出てくる。だからシーンは広くなったけど、そういう人だらけになったってことだよね。そういう人が増えたし、そういう人以外認めないっていう。

カンノ:俺はそのシーンが広まる以前からクチロロが好きだからさ。

YOU:お前、クチロロの話しかしねえな(笑)でもたしかにクチロロはストリート的じゃないよね。

オノウエ:早稲田大学だから(笑)

カンノ:まぁクチロロって明らかにラップシーンという土壌から零れてる存在だから。零れてるものって評価されないじゃん。零れたものが評価されないことが苦手だなという意識はあるね。じゃあなぜ元クチロロの南波さんのラップが好きかを考えたときに、ラッパーの人ってラップの身体性を持ってるなと思ったんですよ。リズム感とか韻の固さとかフローの乗りこなし方とか。その技術論がどんどん突き進んで、どんどん科学されていくじゃん。で、やっぱりアスリートになっていくんだよ。ラップの筋肉の付け方とかそういう身体になっていくこととか。

YOU:アスリート化しているのはそうだよね。

カンノ:ビートの上でどこにでも飛べるし走れるしボールもキャッチできるし。それに比べると南波さんのラップはずっとカクカクしてるんだよね。

オノウエ:運動が下手な人の感じというかね。

カンノ:無理矢理バスケットボールしてる感じかもね。そっちのほうが好きなんだよね。

YOU:それってアイドルがラップしていることとか、ヘタウマとは違うの?

カンノ:違う、違う。

YOU:違うんだ。

カンノ:アイドルのラップもラッパーに教わってるからさ。

YOU:でもそれは結局劣化コピーだったりするじゃん。ちゃんとガチでやってるアイドルもいるけど。

カンノ:でももうアイドルのラップはラップの身体性を獲得しちゃってる気はするけどな。

オノウエ:多分ライドルラップはYOU-SUCKが出した一例に過ぎなくて、結局のところヘタウマが好きなんじゃないの?

YOU:南波さんのラップはヘタウマと何が違うの?ヘタウマを愛好する人っているじゃん。

オノウエ:「下手だから良い!」っていう。

カンノ:う~ん、やっぱり違う気がする。これがヘタウマなのかは分からないんだけど、頑張ってどうにもこうにも乗りこなそうとするけど乗りこなせていない様子が俺は好きなんだよ。これは以前T.V.O.D.のコメカさんと「たりない音楽」について出た話だけど、俺はデビュー初期のアジカンが好きなんだよ。

カンノ:たとえば「遥か彼方」という曲で、ゴッチのシャウトが到達させようとしてる音域までに到達していない地点とかってあるじゃん。あれが良いって話したと思うんだけど、そういうことに南波さんのラップは近い。

YOU:なるほど、たしかにヘタウマではないな。

オノウエ:俺も思ってるのが、パンクバンドが「ワー!」ってシャウトしてるんだけど、ここの音域まで出したいけどそこまで達せてない、そしてその差にエモーショナルがあると思っていて。

カンノ:で、ちゃんと上手く乗りこなせたラップを聴くと「あー、ラップだな…」と思ってガッカリしちゃうんだよ。

YOU:なんか分かってきた気がするな。

カンノ:で、ラッパーになりたい人ってみんなその身体性を獲得しちゃってるから嫌なんだよね。

オノウエ:めちゃくちゃ安直な例を言うと、達するべき音域に達していないその差が好きなカンノが、ワンオクのシャウトを聴いて「歌えちゃってるな…」って思っちゃうみたいな。

カンノ:「上手いよね~」しか思えないんだよ。

YOU:「すごく発声練習してるんだろうな~」(笑)

オノウエ:広い意味での不完全さなんだろうね。でもこれが難しいのは、人って練習するとある程度は上手くなってしまう。だから一瞬の輝きっていうかさ(笑)

YOU:俺はデヴィッド・バーンを見ててそれを思うかも。

カンノ:分かる!『アメリカン・ユートピア』を観てそれを感じたね。

YOU:デヴィッド・バーンがやってたトーキング・ヘッズは曲がりなりにもバンドだからバンドの制約があったんだけど、その垣根も取り除いてどんどんエスタブリッシュな方向に行って、一般の人が騙されてあの映画を観に行くようになっちゃった(笑)

カンノ:で、デヴィッド・バーンはダンサーの動きじゃないんだよね。それが好きなんだよな。だから「何がなんだか」な気持ちになる。

YOU:俺はその前の映画の『ストップ・メイキング・センス』のほうが好きかな。そっちのほうがダンサーじゃない動きをしていると思う。

YOU:今日たまたまTwitterを見てて知ったんだけど、デイビッド・バーンのあの動きって竹の子族の踊りのビデオを送ってもらって練習したんだって。

カンノ:面白いな~。

YOU:竹の子族って80年代だから。で、そのビデオを送ってもらって研究した結果、「Once in a Lifetime」のダンスにつながるんだって。

オノウエ:面白いね~。

YOU:でもそれも全部到達してないんだよね。そもそも素人のダンスを参考にして、それをデヴィッド・バーンがカクカクやって、それで圧倒的な存在感を出してるんだから。それが『アメリカン・ユートピア』だとブロードウェイになっちゃったんだよ。だからあれは訓練されたものなんだよね。でも『ストップ・メイキング・センス』のほうがエモくてカッコいい(笑)

カンノ:目で見てバンドって分かるのが『ストップ・メイキング・センス』で、もうちょっとよく分からないのが『アメリカン・ユートピア』かな。俺は『アメリカン・ユートピア』もなかなか惹き付けられたよ。

YOU:でも訓練された動きなのが分かるじゃん。規律や統制があるのは一目見て分かる。

カンノ:まぁ、たしかにね。リハしてるのは一目瞭然だね。

YOU:それで多分、デヴィッド・バーンは身体能力が確実に向上してる。で、本当はずっとあれがやりたかったんだと思う。でもそこに至らないときに、バンドという制約があって自分もギターを弾いているときというのが『ストップ・メイキング・センス』だったと思うの。

カンノ:なるほどね。俺、『ストップ・メイキング・センス』だとデヴィッド・バーンがバンドの周りをグルグル走り回るシーンが好きだったなぁ(笑)

YOU:だからやっぱりあの当時はやりたい動きはあるんだけど、到達しなかったと思うんだよね。

オノウエ:YOU-SUCKは『ストップ・メイキング・センス』のほうが自分の身体能力が身に付いてないから変な動きになっていて、『アメリカン・ユートピア』は訓練されてるからちゃんと動けるようになっているという話だよね。一方カンノは、逆に捉えてるのかな。

カンノ:でも『アメリカン・ユートピア』のほうがリハの動きっていうのは分かるよ。

オノウエ:あ~、分かった。「訓練してるけど、やっぱできてない」って思ってるのか(笑)

カンノ:それに近いかも。「訓練して動けてるようになってるけど、やっぱ変」っていう(笑)

オノウエ:「まだできてない」(笑)

カンノ:それが完成なのか未完なのかあんまり分かってない。

YOU:なるほど。その過程はどうでもよくて、アウトプットが変かどうかなんだね。

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