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サムオブ井戸端話 #067「もう音楽の機微がわからなくなった」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

04 Limited Sazabysの新譜を聴いて全曲同じに聴こえたカンノメンバー。音楽に熱中しているときは似ている音像でも細かい機微を肌感覚で理解して聴けたのが、今は1つ1つ情報を処理しながらでないと聴けなくなってしまい、音楽の細かい機微がわからなくなってしまったことについて語りました。

 

 

カンノ:音楽を熱中して聴いてるときってちゃんとその背景とかも吸収できたんだよね。たとえばデータとかその人の傾向とかが音楽を聴いていたら自然と入っていたものが、いつの間にか「こういう音楽をやる人」「こういう傾向がある」「誰が参加している」「データはこれ」みたいなことを1つ1つ情報として理解しないとわからなくなったんだよね。でも、中学生や高校生のころって聴いて一発でいろんなことがなんかわかったじゃん。それが何回か分けて聴かないと背景とかデータとか情報とか傾向とかがわかんなくなっちゃって。それを感じたときに「もう音楽を聴くことに対して熱がないんだな」って思ったんです。

YOU:悲しいことを言うね…(笑)

カンノ:僕の言ってる感覚はわかりますか?

オノウエ:僕はよくわかりますよ。

YOU:わかるよ。

カンノ:一回聴いただけでなにかいろんなことがわかったことがもうわからなくなった。「これはこうだから、こうで、こういうことなんだ」って順序立てないとわかんないというか、頭に入ってこない。あれはなに?

YOU:何なんだろうね(笑)

カンノ:たとえば僕のなかで確実にKICK THE CAN CREWRIP SLYMEって180度違う存在なんです。

カンノ:そういう機微を小学生、中学生のころにすごく感じて聴いてたの。

オノウエ:その2組はどう違うの?

カンノ:RIPのほうが良い意味で軽薄です。KICKも軽薄な楽曲はあるけど、KICKのほうが全然重たいね。シリアスです。で、KREVAの当時のモードが全面に出てる。で、話は変わるんだけど、04 Limited Sazabysってバンドがいるじゃないですか。

オノウエ:フォーリミね。

カンノ:フォーリミの新譜を聴いたんです。「どの曲も同じに聴こえるな~」っていう例えってあるじゃん。もう例えとか冗談じゃなくなったね。本当に全曲が同じ曲に聴こえました。でも、絶対に僕が10代だったら好きなバンドなんだよ。

YOU:それはそうなんだ。たとえば僕らが10代のときのバンドでいうと、どこに当たりそう?

カンノ:ざっくり雑に言うとELLEGARDENですね。

YOU:あっ、そうなんだ。

カンノ:メロコア風情のなかにちょっと文化系を感じるんですよね。つまり、声がかわいいんです。

オノウエ:文化系ってそういうことね(笑)

カンノ:疾走感ロックサウンドでかわいい声。それが十何曲続いたんです(笑)でも10代だったらそのなかの機微は捉えられたはずなんだよね。で、もうそういうことがわかんなくなっちゃった。

YOU:なるほどね。

カンノ:たとえば今の50代からするとRIPとKICKってもう同じだと思うの。でも30代40代でそれが青春だった人はRIPとKICKが違うという機微はわかると思うんだよね。

YOU:俺はRIPもKICKもそんなに興味がなかった人なんだけど、でもなんとなくカンノの言ってることはわかるよ。あの2組が違うっていうのは。それは小学生のときにRIPとKICKがいて「同じジャンルに括られてるけど、なんかちょっと違うな」っていうのは。やっぱり当時の肌感覚で触れてたからね。

オノウエ:僕の父親は60代なんですが、たまに音楽の話とかするんですよ。で、彼はラップやヒップホップへの耐性はゼロ。なので全然受け入れられないし、わからない。あと、僕が青春時代に聴いていたような2000年代のロックバンドはまさに同じ感想。大体同じに聴こえる。

カンノ:アジカンエルレストレイテナーもBUMPもフジファブリックACIDMANGOING UNDER GROUNDも全部一緒ってことね。

YOU:うわ~、なるほどね。

カンノ:でも僕たちにとっては全然違うよね。これが機微ですよ。

オノウエ:そして父親が好きな音楽は70年代から80年代の、たとえばスネアに「パァーン!」とリバーブが入っていて、ギターにコーラスが入っていて。ニューウェーブプログレッシブとアメリカンロックが混ざったやつみたいな音ってあるじゃん。当時流行ってたからそういうサウンドなんです。そういうのを僕らが聴くと、「このギターのコーラスの音って当時っぽいよね」って言うと「えっ、そうなの?」と返されるみたいな。

カンノ:その渦中にハマってた人って分析的なことを言われても逆にピンと来なかったりするよね。で、いつから音楽を聴くことが主観的から客観的になっちゃったのかな?

オノウエ:それはカンノが義務感で音楽を聴いてるからだよ(笑)

カンノ:自分からちゃんと主観的になっているものって今ある?今、なにに熱中してるんだろう?「これはこういうデータで、こういう傾向があって…」みたいなことが一発で肌感覚でわかるようなこと。

YOU:経験則になっちゃうよね。「このジャンルではこういう位置づけでこういう音だから、ここが新しさになるんだよ」みたいな。それってわかったうえで聴いちゃってるから、全身を「ビビビッ!」って喰らう感じで聴いてないもんね。

オノウエ:それでいうと、熱中できる期間って人生のなかでも限られた箇所にしかないんだよ。

カンノ:10代にしかないのかもしれないね。

YOU:うわ~、すげえ恐ろしい話になった…(笑)

オノウエ:たとえば僕は乃木坂46みたいなアイドルにハマったことがないんだけど、もしハマったとしても「AKBグループから派生して、こういうグループがあったうえで乃木坂は存在してて、そのなかでもこの子にはこういう特性があって…」みたいな目線で見ちゃうと思うんだよね。

カンノ:分析の目からは逃れられないよね。

オノウエ:なんでもそうだけど、「こういう構造で成り立っているよね」ってある程度触れるとわかってくるじゃん。それが合ってる間違ってるは置いとくにしても、全体の構造は年を取ってくるといろいろわかってくるじゃん。その目でものを見ちゃうと、熱中とか主観とかで片付けられない状態になっちゃうよね。

カンノ:「なにも知らない」という状態って本当に大事だよね。知ってつまらなくなることっていっぱいあるよね。

オノウエ:Stay Foolishの精神ですよ(笑)

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