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サムオブ井戸端話 #074「『KICK BACK』と対比する”いなたい”という価値観」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

米津玄師の「KICK BACK」を初めて聴いたとき、あまりの情報量の多さに爆笑したカンノメンバー。情報量の多さが重宝される昨今のJ-POP界において、「この曲を頂点にもうそういう曲を聴くことをやめませんか?」という余計なお世話と"いなたい"という価値観を提案してみました。

 

 

カンノ:米津玄師さんの「KICK BACK」って曲があるじゃないですか。最初にあの曲を聴いたとき爆笑したんですよね。

オノウエ:フフッ。

カンノ:すごすぎてね。情報過多具合が半端ないというか。秒毎になにか起きてるじゃん。

YOU:速いよね。

カンノ:「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」という歌詞はもちろん、こういう曲を米津玄師が歌うこと、アレンジャーにKing Gnuの常田さんがいること、そして「何曲分なの?」っていうくらいの展開具合。それが目まぐるしくて笑っちゃうんですよね。1曲のなかに何曲分の要素があるっていうのは僕らが知ってるところでいうとヒャダインがやった芸ですよね。

カンノ:「KICK BACK」は1曲のなかにマキシシングル分の楽しみは入っているよね。途中ストリングスだけになる箇所とかすげえ笑っちゃうもんな。「何で?」っていう(笑)

YOU:あの曲は「米津玄師ってこんな声出るんだ」って思ったね。それでクレジット見たら常田が関わっていてビックリしたね。

オノウエ:たしかに「KICK BACK」は展開も要素も多いけど、取り立てて「すごいな~」という印象でもないかな。その観点で言うならヒャダインのほうが俺は笑っちゃうかな。

カンノ:なるほどね。ヒャダインがシーンに登場してきたときは、まだ僕はあまり理解が追いついていなかったかも。まだ笑えるリテラシーがなかったかな。その流行が続いて今なら笑えるっていう感じかもしれませんね。で、どうでしょうか?この曲を最後にこういう曲を聴くのやめませんか?

オノウエ:相変わらず余計なお世話ですね(笑)

カンノ:もう「KICK BACK」が頂点でよくない?もういいかなって思うんです。で、これを情報量J-POPの一つの頂点と見立てたときに、最近はゼロ年代のギターロックバンドばっかり聴いてるんですよ。音速ラインとかLUNKHEADとか椿屋四重奏とか。

YOU:それは米津と比較できねえだろ(笑)

カンノ:でね、”情報量”というものが価値としてJ-POPのなかで重宝されている時代だと思うんです。それに対して”いなたい”という価値観はどうでしょうか?J-POPに”いなたさ”を求めた聴き方をしてみませんか?

オノウエ:いなたいってどういう意味?

YOU:田舎っぽいとかかな。

カンノ:芋っぽいとかね。洗練されてるというよりはベタっとした感じかな。そういう音楽が僕個人としては最近いいなと思っているんです。

オノウエ:でも、いなたいって相対的な価値観でしょ?「都会に比べて田舎っぽい」ってこととか、「垢ぬけた人に対して芋っぽい」っていうことでしょ。”いなたい”という感覚を自ら目指してやることなのかな?音楽を志す人が「俺はいなたい音楽をやるんだ!」と思ってやることじゃないよね。

カンノ:それはよくないね。

YOU:それはあれだね、「俺は鬱ロックをやるぞ!」っていうことと同じ話だね。

カンノ:「鬱ロックを頑張ります!」

YOU:それは全然ダメだな(笑)

カンノ:矛盾が生じてるから(笑)

オノウエ:「健康のためなら死ねる!」みたいなね(笑)

カンノ:そもそもマルチプレイヤーであることや、一人でなんでもできるとかが僕個人的としてはあまり価値が高いものとして置いてないんだよね。

YOU:一般的に言われているのは、昔と違って今はロックとかバンドとかって金持ちがやる音楽になりつつあるっていう話があるじゃないですか。昔は不良が楽器を持ってバンドを組んで学園祭で演奏するとかあったけど、今はヒップホップが流行ってるからマイク1本でできちゃうみたいな。イギリスとかで起きてるらしいけど、イギリスって階級社会だから、上層クラスの人が授業の一環でバンドとかできちゃうから、それでエリート集団みたいなバンドがいっぱいいるらしいんだよね。労働者階級のバンドが出てこなくなってるという。

カンノ:これもよく言われるけど、実家が太いかどうかとかさ。

YOU:そうそう。それは露骨にあるよね。

カンノ:家に楽器がいっぱいあるとか、いつでも楽器を鳴らすことができる環境下にあるとかに「強さの差ってあるよな」と思っちゃうよね。楽器を始めた親が音楽を好きで居続けて、子にレコード聴かせたり、ギター教えたりするっていう流れはあるもんね。ミュージシャンのインタビューとかで「親のレコードを聴いて」とか「親の楽器を借りて」とかって、2人に1人くらいは喋ってるじゃん。「家にレコードがある」っていうことがそもそも資本だし、もう差がついてるっていう話だからさ。

YOU:その一方で米津玄師ってボカロPだから、インターネット側の人じゃん。これの捉え方って「一人でなんでもできる」ではなくて、「一人でできることをやる」ってことだと思うんだよね。だから米津を「資本や知識があって一人でなんでもできるエリート」って思っちゃうと捉え方が難しくなっちゃう気がするかな。

カンノ:なるほどね、そもそもの捉え方の話ね。

YOU:ただ、カンノの言いたいこともわかる。J-POPアーティストがみんな洗練されて技巧派になってるなかで、「シンプルな音を鳴らすバンドです」っていうことを表明するバンドがあまりいなくなってるよね。

カンノ:実質すべてを一人でやれちゃう環境にあるから、なんでもできるっていう見え方になるんだろうね。

オノウエ:バンドを組んでないから、一人でなんでもやらなきゃしょうがないもんね。

YOU:元も子もないけどね(笑)

カンノ:一人で作れて社交性のある人が強いってことだね。バンドという結束がないぶん、横のつながりで即席のユニットなり楽曲提供なりプロデュースなりがバンバンできる身のこなし方ができる人がとても強い時代だなって思うかな。そういうことを思うなかで、これは相対的な見方になっちゃうけど、そのうえでガチガチに一方向の音楽しかやってない人が好きということですかね。

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