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サムオブ井戸端話 #075「『KICK BACK』と対比する”いなたい”という価値観」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

米津玄師の「KICK BACK」の情報量について語るサムオブメンバー。後編では、情報量が多い音楽が今のJ-POP界で重宝されているなかで、"いなたい"という言葉で表せられるような"なんでもない曲"じゃないと普段聴きができないのではないかという話をしました。前編は下記リンクから。

 

 

YOU:前編の話を踏まえたうえで、最近カンノが好きなバンドは誰かいる?

カンノ:リュックと添い寝ごはんの新譜は好きでしたね。

カンノ:すごく雑な言い方をすると、「なんでもないような曲が12曲入ったアルバム」なんだよ。こういうことが良さとして伝わればいいなって思うんだよね。それって「KICK BACK」の価値観と対極なものとしてあるような気がしていて。「KICK BACK」って1曲のなかに「何かである」ということの連続だと思うの。”仕掛け”とか”作用”とかを見てもらうための楽曲だと思うのね。

YOU:これは『シナぷしゅ』回でも話したけど、「KICK BACK」って正しく『チェンソーマン』的な楽曲なんだよ。

YOU:それは歌詞もそうだし、曲の展開もそうなの。『チェンソーマン』ってほかの少年漫画が40巻かけてやることを10巻でやってんだよね。

カンノ:あ~、なるほど。ジェットコースター漫画だ。

YOU:そうそう。本当にジェットコースターみたいな速さで展開するの。「このキャラを活かしたあとは、このキャラとあのキャラの友情を使って敵と対決させて…」みたいなのをやるのが普通の少年漫画だとしたら、『チェンソーマン』はキャラとの関係を描くのは最低限にして、キャラが敵と1,2回対決したらガンガンキャラが死んで次の展開に行く感じ。それでも凡百の少年漫画より面白いしキャラ同士の関係性もエモい漫画になってるのがすごいんだけど。

カンノ:ファスト映画っていう問題があるなかで、作り手がファスト映画的なものを作ることによって何の問題もなく読まれるっていうことに近いのかな?

YOU:そうそう。『チェンソーマン』って正しくファスト映画的・要約的なコンテンツ。だからこそ今ウケてるんだと思う。

カンノ:合法でファストっぽいものが読めるわけだからね。

YOU:そういう意味で、あの速さと展開量で適度に暴力的な「KICK BACK」という曲は正しく『チェンソーマン』の主題歌だと思うんだよね。

カンノ:いろいろ喋ったけど、つまり洗練されてなくてもうちょっとベタっとした音楽に価値が置かれてもいいのにっていうことを僕は思ってるんですよね。最近だとサニーデイ・サービスの新譜がベタっとしてる印象で。

カンノ:個人的にサニーデイってベタっとした印象のアルバムと、すごく洗練されたアルバムが交互にリリースされてるイメージがあって。ホッとするアルバムと尖ったアルバムと言えばいいかな。このホッとしたほうのアルバムが好きなんだよね。あとはさっき言ったリュックと添い寝ごはんね。本当に白湯みたいな曲がずっと続くアルバムで聴いてて疲れなくてよかったんだよね(笑)

YOU:それは褒め言葉なのかよ(笑)

カンノ:「ちょうどいい」ってことかな。なにかを懐かしむような遠い目をしながら聴いてますよ。

オノウエ:この話でちょっとわからないのは、米津って国民的音楽家のポジションにもういるじゃないですか。でもリュックと添い寝ごはんは違うじゃん。あと僕らが中学生当時も音速ライン音速ラインレベルの広まりだったし、LUNKHEADLUNKHEADレベルの広まりだったわけじゃないですか。

カンノ:規模感が釣り合わないから比較が難しいっていうことね。

オノウエ:そうそう。話はわかるんだけどね。

カンノ:僕は「KICK BACK」を聴いて爆笑するんですが、これって否定とか嫌いとかじゃなくて、「やっぱ面白いな~、この曲」って思っちゃうんですよね。ジェットコースターみたいだから。でもジェットコースターが面白いのはどうしてもそのとき限りで、これがずっと常に存在しちゃうのは違うと思うんですよ。聴く側の感情を波立たせまくる曲じゃん。でもそれは何年経っても繰り返して聴くような曲じゃないと思うんだよね。僕は結局カップヌードルとか町中華の450円くらいの醤油ラーメンが食べたいんですよ。ずっと家系ラーメンを食べてるわけにはいかないんですよ。

オノウエ:あ~、なるほどね。

カンノ:「なにを普段食べたいのか?」っていう話と同じかな。「なにを普段聴きたいのか?」っていう。そこに「KICK BACK」が入ってきちゃうのはちょっと個人的にマズいんですよ。マルチプレイヤーで一人でどんなアプローチでもできる米津玄師とかVaundyとかKing Gnu的なものとかが国民的なものになってしまうと「これから太る人、いっぱい出てくるだろうな~」と思ってしまうんだよね。

オノウエ:その例えで言うなら、もうみんな太ってるかもね。だってイントロがいらなくて、1曲に何曲分の情報が集まってて、横のつながりでいろんな人がくっついては離れてをやっていたらさ。

カンノ:甘さに特化した曲、辛さに特化した曲、甘くて辛くて苦い曲とかもういろいろありすぎてね。ヒャダインがやったことってそういうことかなと思いますね。ラーメンが美味しくなり過ぎたことによって「そういう舌になった」と同じように、J-POPの味が強くなり過ぎたことによって「そういう耳になった」ということかもしれません。

オノウエ:「味濃いめをそろそろやめませんか?」という提案ですね。

カンノ:「薄い味っていうのもいいよね」という価値観を覚えておくのも一つの手ですよ。それはこれからも自分が音楽を聴き続けるために。チェイサーですよ。

オノウエ:チェイサーの提案ね(笑)

カンノ:チェイサーミュージック(笑)9%のアルコールを飲んだあとに家系ラーメン食ってる状態ですから。

オノウエ:なるほどね。そしてこの例えは正しいのか…?(笑)

YOU:以前もこういう話をカンノしてたよね。「アルバムの捨て曲みたいなものも結構大事にしたほうがいいよね」みたいな。

カンノ:クチロロの『ファンファーレ』の中間にある曲たちは本当にチェイサーですよ(笑)

YOU:フフッ。

カンノ:あのアルバムは頭とお尻はすごく美味しいラーメンとかお酒が並んでるんだけど、間の楽曲が本当に水みたいなんだよね(笑)その塩梅が好きなんだよね。そういう聴き方の提案でございます。

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