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サムオブ井戸端話 #117『音楽における”ヤラセ”を考える』(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

プチ鹿島『ヤラセと情熱』が2023年のNo.1読書体験だったカンノメンバー。この本から「音楽もヤラセじゃないか?」と思い、「聴いてる人をどうさせたいか?」という音楽の制作者のスケベ心について語りました。

 

 

カンノ:出版されて1年くらい経ちますが、プチ鹿島さんの著書『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「河口浩探検隊」の真実』が僕の手元にあります。

カンノ:鹿島さんは新刊『教養としてのアントニオ猪木』も出ていますね。こちらは読み進めている途中でございます。

カンノ:で、『ヤラセと情熱』なんですが、僕の今年No.1読書体験でしたね。

YOU:俺も読んだけど、これはおもしろかったね~。

カンノ:ここは音楽ブログなので、直接的な本についての話はしませんが、最高におもしろかったです。ようは「川口浩探検隊」はヤラセやインチキと揶揄されながらも実際に現地のジャングルには行っている。約1トンの機材は運んでるし、現地のコーディネーターとのやり取りがうまくいかなかったりもする。第7章のタイトルが「ウミヘビ手掴み10匹持つAD」ですが、追いかける珍獣は実在しないのかもしれないけど、スタッフはその珍獣の盛り上げ役であるウミヘビを10匹手掴みできるようになるわけですからね。それらはマジっていう。でも、そんな生々しい箇所はカメラには映らない。そうなると、なにが本当でなにが嘘で、なにがリアルでなにが演出でっていう話ではないよね。

YOU:タイトルは「ヤラセ」になっているけど、ようは「演出」なんだよね。演出のためにガチになってるだけ。

カンノ:その演出が高い視聴率につながるけど、現場のスタッフたちは「おもしろいものを作る」ということに一種のトランス状態みたいなことになっていて、数字はじつは二の次だった、みたいな話も出てきたね。で、そこから派生させるんだけど、この『ヤラセと情熱』を読みながら、「音楽もヤラセじゃないか?」って思うようになったんだよね。

YOU:また刺激的なテーマだね。

カンノ:その音楽にどんな演出がされているか。それが練られたものが数字を取る音楽だなと思ったの。これは僕が以前話しましたが、音楽って人の心をどこかに持って行くものだと思うの。

カンノ:人は音楽を聴いてなにかを思いたかったり、目の前の現実とは違うことを考えたかったり、なにかに浸りたかったりしている。またこれも以前話しましたが、別役実が開催した劇作セミナーを単行本化した『別役実のコント教室 不条理な笑いへのレッスン』という本があります。

カンノ:この本で書かれているナンセンスコントを作る方法論として挙げられているのは最初に死体か爆弾を出してみましょう、ということ。そして「死体だ!」「爆弾だ!」っていう反応ではなくて、それらが平然と存在する世界としてコントを作ってみましょう、という作り方。

YOU:それもすごい方法論だよね(笑)

カンノ:で、様々な受講者が何十通り、下手したら何百通りのナンセンスコントを作るわけだけど、全部「ナンセンスコント」という括りで言えば同じようなものとも言える。内容は全然違うけど、方向性は同じ。つまり、「初心者でもできる」というメソッドがあるということだと思うの。ナンセンスコントって一見作りづらそうだけど、そういう方法論を学んだら、完成度はさておいてそれらしいものは原則誰でも作れると思う。

YOU:いろんなジャンルでそういうことはあるよね。

カンノ:でね、最近は音楽に対してそういうことを思っていて。人の心をどこかへ持って行くことが音楽の目的であり効能であるとするならば、「エロティックとエモの親和性」について考えるところがあって。裏声と地声の微妙なラインの発声で歌唱すると、聴いてる人を少しエッチな気分にさせることができるんじゃないかなと思うの。

YOU:あ~、はいはい。それはわかる。

カンノ:それを星野源を聴いてて思ったの。星野源はそれを実践してる。

YOU:星野源の「Ain’t Nobody Know」っていう曲はカップルが寄り添ったりキスしたりするMVがすごくエッチな雰囲気なんだけど、カンノの言った歌唱法で星野源が歌ってるね。

カンノ:「Ain’t Nobody Know」はわりと最近の曲だけど、アルバム『YELLOW DANCER』あたりから星野源はそういう歌い方をしているね。「Week End」とか「Snow Men」とかは人をエッチな気持ちにさせる歌い方だと思う。

カンノ:それが音楽の効能だし、そういう効能にするための演出だと思うの。それがここで言う「ヤラセ」の意味。つまり「聴いてる人をどうさせたいか?」というスケベ心が発生した瞬間にヤラセになる。作詞、作曲、編曲、歌唱法など、すべては「聴いてる人をどうさせたいか?」だと思うの。で、これはガチで自分の意図を作る行為だから、『水曜スペシャル』の制作陣のような「おもしろい番組をつくる!」という気概とリンクすると思ったんだよね。番組作りも音楽作りも、情熱を注いでフィクションを作ってるんだから。

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