SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
様々なジャンルの価値観の固定とひっくり返しについて語るサムオブメンバー。その③では、落語やお笑いやヒップホップにおけるオルタナティブと権威についての話から、古典化されたスキルでもべつの場や環境で行うことでオルタナティブ性が発揮されるという話をしました。その①とその②は下記リンクから。
YOU:落語の話もさっきしたけど、立川吉笑というオルタナティブな落語家のおもしろさって立川流から出てきている点だと思うのね。
カンノ:立川流の家元・立川談志は「落語とは何たるか」をずっと言葉にしてきた人なんだよね。
YOU:俺も昔、まだ談志が生きていたころにドキュメンタリーで見てたけど、昇進試験がめちゃくちゃ儀礼なんだよね。最初に談志にお土産を渡して、一人ひとり与えられた長唄かなにかを披露して。
カンノ:歌舞音曲ってやつだね。
YOU:そういうのを全部披露して、「これじゃダメだ。お前はこうしろ」みたいなことをバーっと言って、「今年はお前だ」ということで昇進する。
カンノ:最初に持ちネタを家元に出して、「じゃあこの噺のこの部分やってみろ」とか言うんだよね。最初から途中まで見せるんじゃなくて。
YOU:そうだね。で、俺もドキュメンタリー見てて「緊張感すげえな」って思ったもん。そもそも立川流は落語界においてオルタナティブだと思うんだけど。
カンノ:寄席に出てないからね。
YOU:でもそのうえで権威として立川談志という存在があったわけじゃん。その弟子である立川志らくはいろいろ言われがちだけど、あの人はちゃんと権威をやろうとしてると思うの。そんな権威があるところから立川吉笑みたいな落語家が出てくるのはすごくおもしろいなと思う。ようは”外す落語”をしているわけだから。
カンノ:バカリズムとかラーメンズのコントって「コント」という仕組みとかロマンに対して俯瞰の目線で作られていると思うの。
カンノ:それに立川吉笑さんの落語も近いと思ってて、それが立川流から出てきたのがおもしろいよね。ガチガチに固まったシーンや世界や価値観にどんな距離感や視点でいるか。これは僕が勝手に思ってることだけど、スチャダラパーのBoseさんが今東京ではなく鎌倉に住んでいるのは、シーンの距離感と比例している気がするの。
YOU:「東京に居続けなくていいや」というね。
カンノ:Boseさん自身はべつに鎌倉が地元じゃないから「レペゼン」とかでもないからね。また話はM-1に戻るけど、権威に対していろいろ言ってるけど、とは言っても権威には権威らしく居てほしい思いもあって。
YOU:わかる。俺もそう。「権威がこっちに寄り添ってくるなよ」とも思う。
カンノ:で、M-1が権威っぽくなくなっちゃったの。それはマヂカルラブリーが優勝してから。マヂラブって大会の噛ませ犬的な存在でさ。ネタの突拍子のなさとか。で、2017年のM-1で最下位になって、上沼恵美子に酷評されたことをネタにし続けて、優勝した2020年の決勝で野田さんが土下座で出てきたんだよね。それはその年の大会というよりは、昔の大会ありきのやり方だからさ。それを通して優勝させちゃうと、権威ある大会というよりは、いちバラエティ番組になっちゃうなと思うの。で、そこからの優勝者がマヂラブ、錦鯉、ウエストランドだから全員噛ませ犬なんだよね。従来のM-1では優勝してなかった類の人たちが優勝してる。だから「M-1はもういいや」って思っちゃったんだよね。
YOU:広い意味で客ウケが優先された世界になっちゃった感はあるよね。
カンノ:まぁ、オルタナティブと言えばそうなのかもしれないけど、そんな人たちにやっぱり優勝してほしくない個人的な思いはあるのかもしれないね(笑)それに有名な賞レースでそういう人たちが優勝しても、今のお笑い界なんて大吉本帝国世界だからさ。ほぼ独占企業だから。そんなのほかの小さい事務所は吉本さんに対して遜るしかないからさ。「う~ん、なんだかなぁ~」っていうね。
YOU:権威をどう考えるかが大事だと思う。とくに日本では年下の人と接するときには己の権威性も考えなきゃいけないから。
カンノ:スポーツ化やアスリート化して勝ち負けが生まれる世界で権威が発生しやすい。そしてその世界において消費者は熱狂しやすいということだよね。日本においてはM-1やヒップホップがそう。で、そうじゃないのが邦ロックなのかもなと思ったり。
YOU:べつに邦ロックに勝ち負けないもんね。売り上げとかライブのキャパシティは置いておくとして。
カンノ:ない。邦ロックは古典化してきてるから、ここに何かの要素をどの程度入れたら変な花が咲くかを確かめたい。それは一種の価値転倒だと思うの。
YOU:そこで価値転倒につながるのね。よく考えるね。
カンノ:僕は24時間カルチャーのことを考えてるからね。
YOU:気持ち悪りいな(笑)
カンノ:ある程度お笑いのことを知ってると、今のお笑いを見て腹抱えて笑うことはないと思うんだよね。でも、ある程度のことを知ってると青森さんの落語を聞いて「うわっ…」という驚きはあるじゃん。
YOU:思ったね。
カンノ:「こんなことできるんだ」って思うよね。だってわりとサンボマスター・山口隆をそのままトレースしてるじゃん。
YOU:あれはバンドでライブハウスでやると「なんだ、サンボマスターまんまじゃん」という評価になりそうじゃん。それを落語会でやるからおもしろいよね。
カンノ:だから、場とか環境が変わることによってオルタナティブになる可能性を含んでるという考え方はおもしろいよね。その人の才能とか努力とかも大事だけど、それだけではなくてその周りの環境やどんな場所でやってるかとかで全部変わることもある。
YOU:俺はサンボマスターが好きだから思うけど、山口隆のスキルってライブハウスだから、音楽の現場だからこそ通用するものだと思ってたの。そうじゃない。べつの場に持っていったらそれはそれで効力を発揮するんだね。
カンノ:ナカゴーや東葛スポーツが劇場じゃなくて区民センターや視聴覚室みたいなところで演劇公演を行ってたりさ。
YOU:俺は全然演劇を追っかけてるタイプの人じゃないけど、それでもナカゴーや東葛スポーツとかが好きだと思っていたのは、そのオルタナティブ性かもしれない。