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サムオブ井戸端話 #136『J-POPが嫌いだったときを思い出す』(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

J-POPが嫌いになったときのことを語るサムオブメンバー。後編では、カンノメンバーがもともと好きだったお笑いやヒップホップがブームになったことによって、好きなものが誰かに取られてしまった感覚について語りました。前編は下記リンクから。

 

 

カンノ:虐げられるっていうことではないんだけど、僕にとってそれはお笑いかもしれない。今「ラジオリスナー」と呼ばれる人たちと僕は全然話が合わない自信があるの。ラジオリスナーと呼ばれる人たちと全然一緒にされたくない(笑)

YOU:フフッ。

カンノ:で、今僕が言った「ラジオリスナー」という言葉の頭には”お笑い”って言葉がつくの。僕は今、お笑い芸人のラジオを全然聞いてなくて。音楽のラジオばかりを聞いてる。でもこの「ラジオリスナー」という言葉のニュアンスって「オードリー好きなんですか?リトルトゥースなんですか?伊集院は?爆笑問題は?」みたいなことだと思うのよ。もうそのあたりは全然聞いてない。僕が今聞いてるのは、桑田、ヤマタツ草野マサムネクリス松村

YOU:もう20代があまり聞いてなさそうな番組ばかりだよね(笑)

カンノ:でも今のラジオリスナーって確実に頭に”お笑い”がつくからね。

YOU:みんなお笑いだもんね。

カンノ:虐げられるではないんだけど、好きだったものがずっと誰かに取られちゃってる気がする。ここ最近だとお笑いとヒップホップがそうかも。ずっと好きでコソコソ見たり聞いたりしていたものが、なんだか力のある人に取られちゃったような気がする。で、自分がそのジャンルにおいて思い描いていた世界にどんどんならなくなっていった。

YOU:なるほど。

カンノ:それは一時期、邦ロックもそうだった。2000年代後半くらいに目新しさを感じなくなっちゃって。そのときに邦ロックを聴くのをやめて、インディーズの日本語ラップを聴くようになっていった。ただ、ここ数年で価値観が統一されちゃって、ラップとトラックの「これがいい」が確定されちゃった感があって、「オルタナティブなものが見られなくなったな」と思ってね。お笑いも同じ感じ。

YOU:「お前、それ全然好きじゃなかったじゃん」みたいな人に自分が好きだったものを取られちゃった感じがあるってことね。

カンノ:その文化やジャンルが流行った途端に、自分が思い描いていたことにならなくなっていった、ということは結構あるかも。ラジオもね。だって誰も聞いてなかったから聞いてたんだもん。で、みんなが聞くようになって「こっち行っちゃったな」と思ったから聞かなくなった。お笑い、ヒップホップ、ラジオ。テレビもそうだったけどね。だから文化やジャンルのことについて、基本誰とも話したくないのかも(笑)

YOU:そうだよね。いまやカルチャー的なものを話すのにも、関係性が必要な感じがするよね。よほど気の合いそうな人じゃないと細かいギャップで躓いちゃう。

カンノ:好きなもの同士のはずなのに、話が詰まっちゃうと余計にストレスだからね。「それ、どういうこと?」みたいなのも面倒だし。だからあんまり喋んなくなっちゃった(笑)

YOU:面倒臭くてね(笑)

カンノ:あと「良いものは良いって言えばいいじゃん」という世界とか嫌い(笑)だって、みんなが「良い」って言うものが「嫌」なんだから。

YOU:わかるわ~。

カンノ:こういう感覚ってあるでしょ?

YOU:でも、もうそれを言えなくなってる空気だよね。

カンノ:オードリーが東京ドームで5万人集客してライブやってたけど、「それが嫌」って言う人もいたっていいじゃん。「そんなのラジオじゃない!」とか(笑)

カンノ:もちろん、オードリーがラジオで東京ドームを埋めるのは素晴らしいことだよ。でも、「5万人集めるラジオ番組って果たして本当に好きだったっけ?」って思ってしまう。あと僕は、深夜ラジオは、年齢を重ねたら、どこかで卒業したほうがいいものという古臭い考えを持ってる人間なので。

YOU:わかるよ。だってオードリーって2人とも子どもいなかったっけ?

カンノ:いるよ。

YOU:その状態で深夜ラジオってなにも言えなくない?

カンノ:その温度感がちょうどいいんじゃない?「なにも言っていない」の温度感のちょうどよさってわかるし。「友達同士の話の感じがすごく好きです」っていうコンテンツって多いじゃん。現に、今僕らはこうやってリモートで収録してますけど、僕の画面の後ろのほうでテレビをつけっ放しにしてますが、そこではずっとタイムマシーン3号YouTubeを無音で流してますから(笑)

YOU:一種のアンビエントだね(笑)

カンノ:タイムマシーン3号YouTubeを流すことで、後ろで友達がなにか喋っているという感覚で僕は作業してたりするから。だから、「友達同士の話の感じが好き」ってこの程度の温度感なんだよ。それが僕にとってはタイムマシーン3号YouTubeだし、ほかの人からしたらオードリーのラジオ、ほかの人は爆笑問題、ハライチ、バナナマン霜降り明星…。まぁ、お笑い芸人が強いんだろうけどね。YouTuberでもいいですよ。なんでもいいんだけど、それを何個も持つものでもないな、とは思うかな。

YOU:わかるし、それをむやみやたらに他人と共有したいとも思わない。

カンノ:共有って強要されるもんね。

YOU:でも難しいのは、誰かが共有しないと知り得ないことばかりだよね。誰かが共有してくれるから、自分が好きなものが見つけられる。恩恵を受けている。

カンノ:そうだね。でも、自分が好きなものの話はべつに誰ともしたくないですね(笑)

YOU:カンノの場合は、その感覚を腹に据えてもの作りするのがいいんだろうね。

カンノ:今日話してていろいろ思い出した。好きだったものが誰かに取られて嫌いになっていく感覚は本当にある。すべては自分の勝手だから。他人には関係ないからさ。「わかろうとしないでいいよ」っていう。自分の中で好き嫌いは移り変わるんですよ。じゃあ逆にJ-POPが好きになっていく方向でいうと、KICK THE CAN CREWRIP SLYMEが2000年代のJ-POPの世界で現れたとき、新鮮だったもん。ラップという歌唱法が。たとえばKICK THE CAN CREWの『マルシェ』というマキシシングルが一番最初にお小遣いで買ったCDだったけど、超かっこよかったんだよ。でも今聴くとサビが「上がってんの? 下がってんの? 皆はっきり言っとけ!(上がってる!)」だよ(笑)これを「かっこいい!」と思うという(笑)

YOU:フフッ。

カンノ:そのJ-POPっぽいものと、でも掛け合いのラップは非常にスキルフルという。その結果「ラップって楽しいな」と思わせること。そういうところからだんだんとMステも普通に見れるようになったりするんだけど、最初は「音楽ってつまんねえな」と思ってた。その感覚を久々に思い出しました。

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