SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
2ヶ月連続で日比谷野音でスチャダラパーとNUMBER GIRLのイベントを見て、ロックの現場が真面目過ぎると思ったオノウエメンバー。後編では、ロックの現場はルールを守って真面目に見なければならないという精神性は「ダイブモッシュ禁止問題」から来ているのではないかという話をしました。今回YOU-SUCKメンバーは欠席です。前編は下記リンクから。
カンノ:配信じゃわからないことってあるよね。空気感とかは現場に行かないと。
オノウエ:それは思った。ナンバガは配信ライブは復活以降結構見てたんだけど。
カンノ:去年のフジロックのナンバガは最高だったじゃん。その空気感とはまた全然違うんだろうなと思うけどね。フジロックは踊ってる人多かったし。
オノウエ:もちろん『FUN CLUB』でも踊ってる人や拳を突きあげてる人もいたんだけどね。これは日比谷野音という場所の特性もあるかもしれないけどね。自分の席が決まってるという。これってロックが真面目に捉えられる状態が長く続いていることが起因してるのかな。
カンノ:しかもナンバガもイースタンも4つ打ちで踊らせる系のバンドじゃないからね。「ノッてください、踊らせます」というスタンスじゃないし。ナンバガもイースタンもお客さんからの眼差しが強いバンドじゃん。
オノウエ:「眼差しが強い」とは?
カンノ:たとえばスチャダラパーはヒップホップファンからしたら眼差しは強いよ。でも基本的にスチャのスタンスはお客さんのほうに降りていって「はい、楽しんで~!」っていうことを言う立場を取るじゃん。MCも多かったり。それに対してナンバガの向井さんのMCってお客さんの突き放すMCだったりするじゃん。サービス性というよりは「こういうスタンスだ」ということを真正面な言葉を使わずにMCをするじゃない。
オノウエ:それが向井さんの芸風だもんね。
カンノ:だからお客さんのほうへわざわざ降りてくるMCはしないわけじゃん。お客が求めにいかないとわからないMCというか、行間を読み取る必要があるじゃん。それがお客が真面目になるのに繋がる部分はあるかもしれない。
オノウエ:コロナ前にカンノとYOU-SUCKで『ビクターロック祭り』見に行ってたじゃん。そこで出てくるバンドのMCがすごくお行儀が良かったっていう話をしてたじゃん。もうそうしないと盛り上がれる場を作れないっていうことなのかな?
カンノ:もうそこまで説明しないとわかってもらえないんだろうね。これに関してはどっちも良くない気がする。バンド側もお客側も。お行儀問題は根深い気がするね。
オノウエ:あと思い出したのは、『スチャダラパーク』のときにBOSEさんがMCで「こういう状況だからマスクは付けなくちゃいけないし、歓声もあげちゃいけないけど、この場に来ているということは自己責任で来ているわけだから、たとえばちょっと声を出しちゃうとか、お酒を飲んじゃうとかは僕は自己責任でやっていいと思うんですよね」みたいなことを言ってたの。「盛り上がろうとしてみんな来てるんだから、ちょっとずつ許容していこう」という空気を作っていってたの。それが『FUN CLUB』では一切ないんだよね。そうするとみんなルールを守ろうとするんだよね。だからピリっとしてくる。もともと精神性としてはどっちも同じことをしたいはずなのに、「ちょっとくらいルール破ったっていいじゃん」と言えるBOSEさんとかそういう空気が許されるヒップホップと、本心ではみんなで盛り上がってほしいと思うけど「ルールは破っていいよ」とは言えずに「バーカウンターはあそこです」としか言えないロックの人たちっていう構図は何なんだろうか。
カンノ:ここ最近、ゼロ年代の話をするときによく出る話題なんだけど、ダイブモッシュ禁止問題があるわけじゃん。その時点からロックバンドって規制されてるわけだよね。そこで見つけた手段が4つ打ちで踊らせるという。でもナンバガもイースタンもそれ以前のバンドなわけでしょ。ナンバガは解散してたんだから。
オノウエ:ライブハウスでモッシュやダイブが起きている現場にいた人たちだもんね。
カンノ:それを僕たちは様々な映像作品で見てきたわけじゃないですか。「こういう現場があったんだなぁ」って過去のものとして。狭いライブハウスで人が上に乗っかりまくってる現場はもうないわけじゃん。
オノウエ:存在しないし、存在してたら許されなくなってるもんね。そっか、その記憶がバンドやファンにはあるのか。
カンノ:それが起因して言えないっていうのはわからないけど、でももともとの楽しみ方はこうだったという事実はお客にも刷り込みはあるはずだし。それができない中で楽しまなくちゃいけないという。もう本来の楽しみ方ができないんだよね。そのフラストレーションが前提である状態でナンバガとかを見なくちゃいけない。
オノウエ:そういうことだよね。モッシュやダイブをやりすぎた結果、禁止されちゃった記憶がファンにも演者にもあるから、より振る舞いとしてなにも禁止されないように自分を厳しく律する方向になるという。
カンノ:それに加えて今の炎上時代もあるね。そういうことを言った、言わないとか。さっき話に出た『ビクターロック祭り』でいうと、バンドが1曲1曲終わるたびに「ありがとうございました」って言うような、へりくだり過ぎちゃうというのも一つ炎上対策だという話はあるね。ロックバンドがライブの場で余計なことを言わないようになっているという。それは周りのスタッフもメンバー自身も律している部分はあると思う。だからバンドって本当に締め付けられていたんだと思うよ、ヒップホップに比べて。
オノウエ:ヒップホップにおけるダイブやモッシュに相当するものって何なんだろう?
カンノ:ドラッグ…?
オノウエ:もうダイブもモッシュもかわいいもんだよ(笑)でもそうだよね。
カンノ:コール&レスポンスとかかな。いとうせいこうさんが「Make Some Noise!」を「騒げ!」と翻訳したって話はあるけど、基本的にそこから変わっていないじゃん。
オノウエ:たしかに一体感の出し方はコール&レスポンスから変わってないね。
カンノ:コロナだから今は声を出す出さない問題はなかなか厳しいけど、その前まではそういう規制はないからね。暴力沙汰くらいじゃない?フリースタイルバトル中にカッとなってマジで殴っちゃったみたいな。で、それはもともと持ってるならず者の精神性がそうさせたってことはわかるじゃん。
オノウエ:もともと2人とも不良だし、みたいなね。なんかカンノが言ってたモッシュとダイブが禁止されたことの記憶を持っている人からすると、自らを律さざるを得ないというのはすごくわかる話だな。それ以降の人たちって「モッシュやダイブとかやってたんですか、そんな危ないこと!」みたいな話になっちゃうもんね。
カンノ:あとスチャダラパーとNUMBER GIRLって両者ともキャリアは長いし、両者ともジャパニーズヒップホップとジャパニーズロックの伝説的な存在だけど、スチャダラパーはその伝説から逃れようとしてると思うの。お客さん側に降りてくるMCや振る舞いをする人たちだから。で、ナンバガは十何年振りに再結成して箔が付いてるし、MCもお客から求めにいかないとわからない。そうなると「ちゃんと見なきゃいけない」という差は歴然と出ちゃうよね。
オノウエ:その論点でもそうだね。
カンノ:ジャンル面でも個々のアーティストの性質でもそうなる気がするね。あとスチャダラはちゃんと見なくても怒られなさそうだけど、ナンバガやイースタンはちゃんと怒られる気がする。
オノウエ:あれはちゃんと見ないと怒られる現場だった(笑)それでいうとスチャダラは全然怒られない。どういう場が自分にとって楽しいかなってことを考えたときに俺は不真面目な現場のほうが楽しいと思ったね。
カンノ:そりゃそうだよね。こっちはちゃんと仕事をして、そこで得たお金でちゃんとしてない態度で音楽を聴きたいのに、なんでそこでもちゃんとしなくちゃいけないんだっていう(笑)高級フレンチより町中華行きたいじゃん。そういうことに近いんじゃないかな。