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サムオブ井戸端話 #087「演歌から考える”解放と抑圧”」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

カラオケ番組で演歌を歌う学生に疑問が浮かんだYOU-SUCKメンバー。「演歌は日本の心です」という言葉の嘘から演歌と歌謡曲の違い、演歌には存在しない身体性について語りました。

 

YOU:この前実家に帰ったときに、家族でカラオケ番組を見ていたんですよ。そのときに、中学生・高校生の歌うま王選手権みたいな企画をやってたのね。そこで、実家がカラオケスナックをやっていて演歌が好きな学生の男の子が出てたの。そこで歌っていたのが山内惠介の「恋する街角」っていう曲で。

YOU:たしかに歌は上手かったんだけど、ちょっと引っかかったのは、その子が「演歌は日本の心です」と言ったところで。なんか「んっ?」って思っちゃって。しかもこの曲って演歌というよりはムード歌謡なんだよね。

カンノ:演歌と歌謡曲の境ってたしかに曖昧だよね。

YOU:で、なんでここで俺が引っかかったのかというと、『創られた「日本の心」神話』という新書を読んだんですよ。

YOU:これは2011年の本なのでちょっと前なんだけど、この本では要するに、演歌は普通の流行歌だったんだけど、いつの間にか保守化して、「演歌が日本の心を歌っている」「演歌が日本人の精神を代弁しているもの」みたいな評価のされ方をするようになって、それが今や「演歌は日本の心です」っていう言説に結びついているという。

カンノ:べつにそういうものじゃなかったはずのものが、結果そうなったということだね。

YOU:そうそう。たとえば藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」という曲があるけど。

YOU:この曲ってすごく恨み節なんだよね。で、そういうものが「日本の心」と結びつくんだよ。やくざ者を評価する感じというか。ようは、権威に対する反抗として捉えられていたらしいの。で、そういう歴史がかつてあったのだけれど、今は「演歌って日本の心を代表していますよね」っていう言われ方をしているの。でも、演歌の成り立ちを調べると、そう簡単に「日本の心を代弁してる」とは言えないんだよね。たとえば北島三郎のデビュー曲のタイトルって「ギター仁義」って曲なんですよ。

YOU:北島三郎ってもともと流しの人なんですよ。

カンノ:楽器を持って歌ってた人なんだ。

YOU:そう、もともとはギターを持ってた人なんですよ。で、ギターってめちゃくちゃ西洋楽器じゃん。だから日本の演歌の中心みたいな人のデビュー曲が「ギター仁義」だから、全然日本の心を歌ってないんだよね。なんか、そういうことが興味深くて。ほかにも前川清とかさ。「長崎は今日も雨だった」とか有名だけど。

YOU:一般的には演歌歌手の認識が強いと思うんだけど、この人のルーツはジャズなんだよね。

カンノ:内山田洋とクールファイブの「東京砂漠」とかもあんまり演歌っぽさはないもんね。

YOU:ポップスだよね。

YOU:で、前川清って洋楽のカバーとかもやってたの。だから皆、単なる流行歌手だったんだよね。それが演歌に全部回収されてるのはおもしろいなと思って。でね、決定的なのがSpotifyの演歌のプレイリストに和田アキ子とか坂本九が入ってきちゃってるんだよ。

カンノ:もうしっちゃかめっちゃかだね。

カンノ:つくづく、「歴史改ざんの歴史」なんだね。

YOU:その通りなんですよ。で、最近は歌謡曲ブームじゃないですか。エレカシの宮本さんがそういう曲をカバーしたり。

YOU:今、俺の手元には『BRUTUS』の歌謡曲特集の本があるんですよ。

YOU:でね、70年代当時は歌謡曲がバカ売れしているのと同時に演歌も売れてたはずなんだよ。でもこの特集を見ると、全然演歌について書かれていないんですよ。取り上げられていない。つまり、演歌って漏れやすいんですよ。

カンノ:演歌って漏れるよね。

YOU:で、なんで漏れるかってなんとなくわかるんです。それはダンスができないから。演歌って踊れないの。つまり、踊れるものだけが今や歌謡曲になっていて、踊れない演歌は歌謡曲ゾーンから外されてるんですよ。それが演歌の定義かなって勝手に思ってる。

カンノ:氷川きよしって急に身体性が出てきたよね。

YOU:氷川きよしはめちゃくちゃベタで保守で伝統的な演歌をイケメンがやっているというところをやっていた人ですね。

カンノ:それがここ数年で急に取っ払われたってことだもんね。

YOU:そう、急に自我が台頭してきた。

カンノ:前回話したキャラクター論から続くけど、保守的で伝統的な演歌キャラクターに耐えられなくなったものの反動で全然違うキャラクターが生まれて、結果活動休止になっていくわけだからね。

カンノ:あと、これは当たり前といえば当たり前の話なんだけど、「演歌はダンスできない」っていう話はおもしろいね。そういう意味で演歌に身体性はない。

YOU:つまり直立不動で歌うから。

カンノ:こぶしとかでしか身体性をつけられない。

YOU:身振り手振りや泣きながらっていうのはあるかもしれないけど、踊ったりはしない。

カンノ:あと、変に身体性をつけちゃいけないんだろうな。「お前の勝手な解釈入れるなよ」っていうことになっちゃうんだろうな。なるほど、踊りって基本はその人の解釈で行われるもんね。

YOU:もちろん振付師とかはいるんだけど、基本はその人の踊りだからね。自分の身体から溢れ出るもの。

カンノ:今の時代ってなにかを解放することが善しとされる時代じゃん。それに対して演歌みたいな「なにも解放してはいけない」みたいなものがあまり好かれない感じは、なんかわかるっちゃわかるね。人に書いてもらった歌詞で、こういうふうな歌い方で、「こう振る舞ってください」ということが決められていて。基本的には歌い手のアドリブとか認められないんでしょ。その世界で歌わなきゃいけないというジレンマはおもしろいね。

YOU:今の時代に演歌はとても新鮮に聴けますよ。あと皆、歌がうまい。民謡にルーツがあったりするから、発声がしっかりしてるのよ。

カンノ:「基礎がしっかりしている」というのも、なんか切ないよね。基礎からはみ出られないっていうところが。

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