SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
いろんな場面でフリーターがいなくなっていると思ったカンノメンバー。中高生のなりたい職業ランキング1位が会社員であったり、正社員をしながら音楽活動する人たちだらけであったり、ファンとアーティストの経済面での合致をとおして、音楽側から実験的な提示がしづらくなっていることについて語りました。
カンノ:最近やってるバイトがあるんです。そのバイトの詳細は省かせていただきますが、すごくお給料がいいんです。
YOU:えっ?出し子?
カンノ:ちょっと前にとあるバンドのドラマーが出し子で逮捕される報道もありましたね(笑)それは置いといて、そのバイト先の社員さんといろいろ喋っていたら、こんなに高給のアルバイトなのにそれをするような人が全然いないんだって。
YOU:えっ?マジで?フリーターが全然いないってこと?
カンノ:あくまでこの会社での話だけど、この社員さんたちの知り合いですぐに動ける人たちが全然いないんだって。で、その知り合いの知り合いの知り合いみたいなかたちで僕にその仕事が回ってきたの。だからここでの人間関係ですぐに稼働できる人がもう全然いないんだって。
YOU:もうフリーターがいないんだ。
カンノ:あくまでここでの人間関係の話ね。で、これはミクロ的な話ね。現場レベルの話。
YOU:はいはい。
カンノ:次はマクロ的な話。第一生命保険がアンケートを実施した「大人になったらなりたいもの調査」というランキングが2023年の3月に発表されたんだけど、中学生・高校生の男女共に1位が会社員なんだよ。で、上位に公務員とかITエンジニア/プログラマー。すごくお堅い仕事が上位なんだよね。
YOU:「会社員」って雇用形態であって、仕事の内容ではないけどね(笑)
カンノ:もうスポーツ選手系が全然ランクインされてない。中学生や高校生とかべつに「野球選手」とか言えばいいのにとか思っちゃうけどね。「ミュージシャン」とかさ。それが「会社員」なんだよね。
YOU:なりたい職業ランキング1位が「会社員」はヤバいよね。
カンノ:そしてフリーターが全然いないという。あと僕が音楽をやってて思うのが、正社員をしながら音楽活動する人だらけになったね。
YOU:あ~、なるほど。
カンノ:会社員をしながら音楽をやることが当たり前の時代。だからフリーターなんているわけがない。定時まで働いて夜にライブハウスなりスタジオなり曲制作するなり、そういう生活をすることが、音楽を志してライブハウスに出入りするような人たちですら、それがデフォルト。
YOU:はいはい。
カンノ:で、また全然別の話。この前、とあるバンドのライブを観に行ったんです。お客さんに手を振らせるムーブってあるじゃないですか。左右に扇を描くような。あと「ここで〇〇って叫んでくださいね~!」みたいなやつ。一体感を人工的に作っていくやつ。あれが発生するたびにバンド側にチャリンチャリンと小金が入ってくるイメージがあるんですよ。
YOU:課金システムに見える(笑)
カンノ:そういうことをやればやるほど、お客さんも一体感を得られて楽しめたからグッズを買うことになる。それでお金を落とすことになる。今の時代、バンドはグッズが収益になって運営資金になるということはお客さんも当然わかっている状況。べつに趣味でグッズを作っている人なんて誰もいない。運営や生活のためのグッズ。
YOU:今回、カンノが言おうとしていることがなんとなくわかってきたぞ…(笑)
カンノ:で、お客さんに手を振ってもらったり、声を出してもらったりして、ノラせるための音楽をやっている。だから、グッズはもちろんバンドの資金のためなのはわかるんだけど、演奏される楽曲もグッズ化しているように思えるというか。
YOU:あぁ~。
カンノ:で、そのグッズ化した楽曲がわんさか集まった場というのが夏フェスという感じがするの。
YOU:ようするに、推しにお金を払いたいファン心理と、お金を払わせたいアーティスト側の思惑が合致しているということでしょ。
カンノ:その思惑が合致した世界で経済が回っていて。で、そういうところから好きなカルチャーを感じることができないよね。
YOU:アハハハハッ!
カンノ:どこまで音楽がサービス業化していくのかなって。で、フリーターがいなかったり、仕事しながら音楽をやっている人だらけだったり。
YOU:「夢を持って音楽やろうぜ!」というマインドがないってこと?
カンノ:もうとっくに夢はないでしょ。
YOU:夢がなくなって経済しか残っていない(笑)
カンノ:それを感じる場面が明らかに増えた気がするの。
YOU:たとえば音楽やって人気になった人がいるとするじゃん。そうすると、「お金落としたいです!」って言うファンは今すごく多いと思うんだ。俺が警戒している言葉で「推し活」っていうのがあるんだけど(笑)、自分がファンであることを自認した瞬間にその対象に直接お金を落とすことに躊躇いがない感じになっている気がする。だからホストとかコンカフェで問題が起きてると思うんだけど。推しに対してお金を払うことがさも尊いことのかのように話をする人もいるから。ただ、一方で推しにお金を払うことを通して癒されている人もいると思うの。さっきカンノが「カルチャーを感じない」って言ったけど、我々90年生まれの世代だったらギリギリ、経済活動の前にカルチャーがあったと思うんだ。「とりあえずお金のことは置いといて」という空気感というか。たとえば豊田道倫っているじゃないですか。あの人が『実験の夜、発見の朝』っていうアルバムをメジャーから出しているんだけど。
YOU:このアルバムは豊田さん曰くめちゃくちゃ予算を使ったんだけど、売れてないらしいんだよね。売れてないんだけどそれができた時代だったんだよ。で、90年代ってそういう空気があったんだよね。もちろん業界全体にまだお金があったからなんだけど、一方でそれ以前に「やってやろう」という空気感というか、経済が度外視された謎のやる気があったと思うんだよね。そういう日本のバンドの無茶苦茶さはシーンにまだあったと思うんだよね。でも今はバンドを長く続けるために「こういうキャッシュフローがあって」とかさ(笑)そういうビジネスモデルが先に来ちゃうくらいの貧しさがあってしまうというさ。
カンノ:もう音楽やめよっかな!
YOU:普通に働くしかないよね(笑)その一方で音楽を続けていくためにはお金が必要だからね。だから全然良い面もあるとは思うんだけどね。それだけ真剣に考える人が多くなったわけだから。あとバンド側から客をノラせることでいうと、ヴィジュアル系の世界だと振付があるんですよ。たとえば「咲く」っていう振付があるんですけど、手をパァ~っと開くムーブってあるじゃん。
カンノ:あぁ~、ヴィジュアル系のライブでよく見かけるやつだね。
YOU:そういうお決まりの動きがあるのよ。逆にビジュアル系のライブで「咲き禁止」とかもあったりね。昔の話だけど、某有名V系バンドでは逆にライブで咲きをやったらファンに殴られるという噂もあったりね。
カンノ:フフッ。
YOU:ようはファンとそのアーティストのコミュニケーションは型があるんだよね。
カンノ:ヴィジュアル系はわかるの。様式美があったうえでの表現だったりするし。ただ今の音楽が全部そうなっちゃってるよね。
YOU:今は全部そうだね。
カンノ:やっぱりそれは自由がないよね。