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サムオブ井戸端話 #096「お金がない時代の音楽の不自由さ」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

お金がない時代のなかで音楽をやることについて語るサムオブメンバー。後編では、音楽の世界も世間へのアプローチが上手い器用な人が勝つことや、わかりやすい小さな大衆動員ばかりが起きて「よくわからないもの」のフックアップがされにくいことについて語りました。前編は下記リンクから。

 

 

YOU:ファンとアーティストの関係性はどんどん固定化されていると思う。で、そうじゃないと気持ち悪いと思っているファンの人も多いと思う。そうじゃないとどう推していいかわからない人たち。

カンノ:やっぱりエンタメに安心・安定を求める時代だよね。そういう推し方しかしたくないわけだし。アーティストも急にファンを置いていくようなこともしないし。あと新人アーティストは「〇〇っぽい」とかを踏襲しないと聴いてもらえないとかさ。

YOU:そうだね、未知って求められてないよね。

カンノ:そうなんだよ。未知が求められてないし、〇〇が売れてるからそれっぽいことをやるという流れが強すぎるというか。だって新着プレイリスト聴いてたら、もうVaundyのワナビーがいたからね(笑)「もういるの?」っていう(笑)

カンノ:「俺も年取ってもう若いアーティストの区別がつかないや」っていうレベルじゃないんだもん(笑)「もう寄せにいってるじゃん!」っていうさ。「このファン層を取りにいってるじゃん!」っていう。

YOU:最短距離でこういうことができるというノウハウが出回るのがちょっと早すぎるよね。だからアーティストもみんな会社員みたいな動き方するよね。

カンノ:「今の音楽界はこういうレギュレーションになった。じゃあこうしよう」という合わせ方がみんな上手すぎてつまんないんだよね。ルールが確定して、その戦い方に合わせる人たちがボコボコ出てきて、それって結局なにもかも器用なやつが強いっていう話だから。だから会社で働きながら音楽をやれる器用な人しか音楽ができなくなっちゃうなと思ってね。

YOU:わかる。結局超強いやつしか残れない。

カンノ:だから数持ってるやつしか残れない世界になってくるから、どの世界もホリエモンが強いんじゃんっていうことになるというか。

YOU:なるほどね~。今の時代、誰でも簡単に音楽が作れるようになって、発信も簡単な世界だからこそ、逆に結局勝つ人っていうのはものすごく器用な人ってことになるのかもしれないね。

カンノ:ここで言う「器用」というのは「楽器が器用」とか「歌がうまい」とかじゃなくて、自己プロデュースとか政治のやり方とか運営・運用とか。それが強いやつ。SNSでのアプローチとかも。それが強いやつの音楽が聴かれるということは、やっぱり真の意味で音楽が聴かれていないなと。音楽を使って世間へのアプローチが上手い人の上手さを見ているだけっていうか。

YOU:以前、『ぼっち・ざ・ろっく』の記事を出したときに、「でも『ぼざろ』があったお陰であのシーンの音楽に辿り着けたじゃん」みたいな感想もあったんだけど、そんなこと誰が頼んだんだよっていう。

カンノ:アハハハハッ!

YOU:もちろん『ぼっち・ざ・ろっく』の作り手の人たちはいいものを作る一心だと思うんだけど、受け取り手が「広まってよかったね」とか聖地巡礼とか言ってライブハウスに入ってみたりするわけじゃん。なんだろ、もうちょっと勉強もしてくれよって思うのよね。

カンノ:アハハハハッ!

YOU:「お金使ってるんだからいいでしょ」っていう話になっちゃうんだよ。いや、いいんだけど、それだけじゃないよね。

カンノ:このつまらなさはどこから来るのかなってずっと考えてるんだよね。「お金を落としてる」とか「日中はビジネスマン」とか「メジャーデビューとかできたら最高だけど、でも現状やっていけてる」とか。なんかさ、それが辛くて。

YOU:逆にどうだったらいい?

カンノ:ざっくり言うと、「それが良しとされる」ことが決定されてしまってカウンターが出にくいだろうなとは思ってる。

YOU:たしかに順応することが良しとされてるね。

カンノ:「夏フェスに出たいんだろうな~」というバンドの振る舞い方の型、「TikTokでウケたいんだろうな~」というヒップホップの人の型、そういうものに対しての裏切りのアプローチが見たくて表現とか好きだったりしたと思うんだよね。そういう意味でのパンクスっぽいものってどこにあるのかという。

YOU:ないね。ないかもしれない。

カンノ:音楽シーンではあんまり見られないよね。

YOU:でも俺らのころにもそういう人っていたのかと思うと微妙じゃない?

カンノ:なんとなく個人的な指標として、かつてフジテレビで『冗談画報』という番組があって、そこに米米CLUBや筋肉少女隊や聖飢魔Ⅱ電気グルーヴスチャダラパーが出てたり、憂歌団ダウンタウンでショートコントをやっていたり。そんな番組が今あったら誰が出てるのかなという。

YOU:誰も出なそうだね。

カンノ:でしょ(笑)たとえば僕らの青春期のミュージシャンで言ったらSAKEROCKは絶対に出てるよね。

カンノ:そのラインの人たち。僕からすると『冗談画報』に出るようなミュージシャンがカルチャーの匂いのする人ってことなんだけど。もうそういう人がわからない。大衆動員しようとする人しかいない。もう大衆って現場レベルではほとんど存在しないけど、大衆動員しようと振る舞うミュージシャンしかいない感じ。でも大衆動員できるミュージシャンなんて一握りだからさ。

YOU:マキタスポーツが言ってることだけど、第一芸能界と第二芸能界の話だよね。

YOU:マスメディアを相手取るような第一芸能界と、現場レベルの第二芸能界の話だけど、今は第一芸能界を目指さないといけないと思われてるよね。ちゃんと数を取って持続的な活動をしていくという算段がある人が多い気がする。

カンノ:YouTubeとかTikTokも最初は第二芸能界のほうだったはずが、第一芸能界としてここに予算を割くのは当たり前になったもんね。それがメジャーだろうがなんだろうが。プロモーションを打つ行為として。

YOU:Nirvanaとかにあった、売れることの矛盾に悩むみたいな苦しみがあったわけじゃん。そういうのは今の日本になさそうだよね。

カンノ:大衆動員をしなくてはならないことや見栄え、振付、グッズとかに力を入れることに、それをやっている側のアーティストももう疑問を持っていない気はするよね。

YOU:なにかが一周しちゃったのかもね。なんか、カンノみたいなことを求める人はもうインターネット上でつぶやかなくなる気がするな。

カンノ:そういう小言を言うのが2010年代のインターネットっぽかった気もするけどね。ネットが第二芸能界だったのが第一芸能界になったし、Twitterにこんなに芸能人や企業がいなかったわけだし。そういうことでなにかが終わっていく流れはあるのかもね。

YOU:第二芸能界になっているところがどんどんなくなっているのかもね。

カンノ:お金がないのは確か。あと国民が疲れているのも確か。そのなかでアーティスト側は小金を稼ぐために大衆動員をしようとしている。小さい大衆動員だらけ。いろんな小箱で手を振らせるムーブがある。

YOU:本来はべつにそれが目的で音楽をやったり聴いたりするわけでもなかったもんね。

カンノ:そうそう。それありきになっちゃったよね。わかりやすい意図ってやっぱりつまらないと思うんだよ。よくわからないものが見たいという欲求が音楽のなかではあまり満たされなくなったなと。

YOU:よくわからないものって「よくわからなかった」で置き去りにされるからね。

カンノ:よくわからないものがフックアップされる時代っていろんな意味で余裕があった時代ってことだよね。

YOU:だからやっぱり90年代で止まったよね。

カンノ:「心身共に健康」という意味で言うとどっちもダメっていうね。なんだか普通に嫌な話をしてしまったなぁ…。

YOU:アハハハハッ!

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