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サムオブ井戸端話 #097「RHYMESTERの新作から考える現代のアルバム論とジャンル物語」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

RHYMESTERの新作が評判悪くてビックリした」とカンノメンバー。そんなアルバムが近年のRHYMESTER作品のなかで一番好きという話から、カンノメンバーのRHYMESTERに対するヒップホップ性以外の聴きどころや、どうしてもヒップホップ性が求められてしまうことについて語りました。

 

 

カンノ:RHYMESTERの新作『Open The Window』の評判があまりに悪くてビックリしました。

YOU:僕はとくにRHYMESTERを追っかけてる人間ではないので、「新作出たんだ」と思ってなんとなく聴いただけなんですが、怒っている人がTwitterに多くてビックリしましたね。

カンノ:そして厄介な話が、このアルバムが近年のRHYMESTERのアルバムで僕は一番好きだってことなんです(笑)

YOU:近年っていつから?

カンノ:2007年に一度活動休止して、2010年にアルバム『マニフェスト』を出して以降で一番好きってことですね。

YOU:あのケンタウロスのジャケのアルバムね(笑)

 

 カンノ:2007年以前のRHYMESTERのアルバムって「自分たちのカッコ悪さをどうカッコ良く提示できるか」という実験をやっていたような気がしていて。それに対して2010年以降のRHYMESTERってずっとカッコ良いんだよね。

 

YOU:言われてみればそうかもしれない。

カンノ:それになんかノレなかったんだよね。なんだろ、全部「ONCE AGAIN」の雰囲気に引っ張られてるような気がしていて。

YOU:「ONCE AGAIN」はストレートにカッコ良いよね。

カンノ:その印象をずっとRHYMESTERはやっているような気がするんだよね。もちろん「B-BOYイズム」というクラシックとか、ジャパニーズヒップホップの黎明期から活動してシーンを担っているということはたしかなんだけど。

カンノ:ただ僕が好きなRHYMESTERってそういうこととは別の観点なんだよね。僕ははっきりと一番好きなRHYMESTERの曲というのがあって、2006年のアルバム『HEAT ISLAND』収録の「LIFE GOES ON feat. Full Of Harmony」という曲なんだけど。

カンノ:まずこの曲を「RHYMESTERの曲のなかで一番好き」って言う人はいないと思う。

YOU:いないだろうね。

カンノ:というくらい地味なアルバム曲なんだけど。これは「それでも人生は続いていく」みたいなことを歌ってるんだけど。Mummy-Dさんは親友のことを歌っていて、自分はラッパーという人生を歩み、親友は普通に働いて子育てもして、それぞれ全然違う道を歩んでいるけど、あのときに言いかけた言葉もあったけどそれは胸の奥にしまっておいてこれからも生きていくみたいな。で、これは「LIFE GOES ON」というタイトルの楽曲におけるベタなリリックだと思うの。ちゃんとテーマ通りにやってる意味で。

YOU:なるほど。

カンノ:それに対して宇多丸さんの歌詞って、自分が高校生のころに岡田有希子自死した報道がなされて、そこに梨元勝みたいな芸能リポーターが「恐縮です!」と言いながらその凄惨な現場とかも普通に映して、でも高校生の宇多丸さんは本当はショックを受けてるのに「へぇ~」とか強がって、そこから何十年か経って自分も身内の不幸で喪服を着ることも増えて、そのときに「あのときよりもマシな日だってあったんだ」と思うという内容の曲なの。で、高校生のころにこの曲を聴いた僕は「こんな超個人的な内容もラップにすることができるのか!」って感動して泣きながら聴いてたんだよね(笑)

YOU:アハハハハッ!

カンノ:で、僕は宇多丸さんをラッパーとして以上にエッセイストとして見るようになったんだよね。

YOU:なるほど、その捉え方は面白いね。

カンノ:で、あの人が今、TBSラジオで帯番組を持っているということはすごくわかるの。だってそういうことを歌ってた人だから。

カンノ:「アイドルの自死」ということに対して「悲しい」だけではないもっと複雑な気持ちをラップで表現する、みたいなことを当時の僕は聴いたことなかったから。で、そういうことはヒップホップとはまた別の観点で捉えてるんだよね。そういう行間を読ませるようなRHYMESTERが好きなの。それでいうと、近年のRHYMESTERは僕が好きな方向ではない印象だったんだけど、『Open The Window』にあるのはタイアップという画角ね。タイアップのお陰でヒップホップから外れた観点のRHYMESTERが今回結構垣間見れて。それがすごく嬉しかったの。

YOU:あ~、なるほどね。

カンノ:ただ世間はRHYMESTERにすごくヒップホップ性を求めてたんだよね。

YOU:俺からすると、RHYMESTERってもう芸能人みたいなものというか。

カンノ:そうそう。僕も「やっとRHYMESTERから芸能を感じるアルバムが聴けた!」と思ってすごく嬉しかったんだよね。「西原商会」とか「2000なんちゃら宇宙の旅」とかすごく好きなんだけど、どうやらTwitter見る限りこの2曲はアルバムで飛ばされがちみたいね。

カンノ:だからジャンルへの愛情が強いと今回の新作は苦手になるということが歴然と出てしまった。でも僕はジャンルへの愛情がむしろないほうが聴けるというか。あとスチャダラパーと一緒にやった「Forever Young(ザキヤマRemix)」は、もともとの既発曲であった「からの~」というリフレインをアンタッチャブル山崎弘也、本人が歌うという流れって結構正しいと思うんだよ。

カンノ:でもあれが本当に嫌だという人がいっぱいいて、「こんなに真面目に聴かれてしまうのか」と思ったんだよね。

YOU:彼らのアルバムを聴いた感想を見かけたうえで思ったのが、自分たちの信じているヒップホップ性への疑いのなさとか衒いのなさみたいなものがちょっと怖いなと思ったんだよね。リアルなヒップホップみたいな感があったうえで、それに対する芸能とか広告代理店とかを「リアルじゃない」と捉えて嫌がる感覚ってわかるんだけど、それだけで断罪することってちょっと難しいなと思うんだよね。「だからRHYMESTERがよくない」とか、「これはリアルだから〇〇は素晴らしい」とかはそれぞれの良し悪しがあるだけだから。その一方で今回のRHYMESTERのアルバムは既発曲だらけだったわけじゃん。

カンノ:11曲中8曲が既発曲で、3曲が新録曲でした。

YOU:「なんだよ、既発曲だらけかよ」という反応もわからないわけではないんだけど、既発曲だらけのアルバムも並び方次第で「こんな聴き方があったんだ」という楽しみ方もあるじゃん。それはそれで新鮮でおもしろいはずなんだけどね。

カンノ:今回のアルバムは完全にそのパターンだったかな。正直、1曲1曲EPで発表される度に「ちょっと弱いな」と思ってたんだけど、アルバムで通すとすごくおもしろくて。さっき『HEAT ISLAND』の話をしたけど、あのアルバムってすごくバラエティに飛んでるんだよね。楽曲の幅とかテーマとか展開とか歌詞のおもしろさとか。

カンノ:で、たしか『HEAT ISLAND』がリリースされたときの評判もそんなに良くなかった記憶があるんだよね。その前作の『グレイゾーン』が暗くてシリアスなテーマな楽曲が多かった分。

YOU:それに絡めて感想つぶやいてる人もいたよ。「『HEAT ISLAND』も嫌いなんだよね」みたいな。

カンノ:だから逆に言うと、RHYMESTERってそういうことをやってきた人たちではあるってことなんだよね。

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