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サムオブ井戸端話 #098「RHYMESTERの新作から考える現代のアルバム論とジャンル物語」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

RHYMESTERの新作について語るサムオブメンバー。後編ではRHYMESTERの新作を聴くことのハードルの上がりっぷりやヒップホップ側への目配せ、そもそもRHYMESTERは新作にケチをつけられがちのグループであったことについて語りました。前編は下記リンクから。

 

 

YOU:既発曲の話から、ちょっとサザンの話がしたいんだけど、サザンのアルバムってよく聴くと既発曲だらけだったりするのよ。たとえば2005年に発表された『キラーストリート』っていうアルバムがあるんだけど。

YOU:このアルバムは既発曲だらけなんですよ。シングルのカップリング曲とか結構入ってて。サザンってよくカップリング曲をアルバムに入れるのよ。このアルバムが発表された当時は俺中学生で、「これ聴いたことある曲ばっかりじゃねえか」って思ったんだよ(笑)当時はパソコンの容量も少ないから、iTunesに入れるときにシングルやカップリングに入ってた曲は全部消して新録曲だけPCに入れて聴いてたんだけど「少ねぇ!」って思ってたね。

カンノ:フフッ。

YOU:「なんだよ、このアルバム」って思って聴いてた(笑)でも今聴くと、ビックリするくらい良い曲ばっかりなんだよね。ただ、このアルバムが現代にリリースされるとRHYMESTERと同じ意見になりそう。「既発曲ばっかりじゃねえか」っていう。

カンノ:サザンのレベルになったらもうべつに言われないんじゃないか…?その流れで言うとさ、山下達郎の『SOFTLY』も既発曲だらけなんだよね。それでほぼ全曲タイアップ。

カンノ:そういうことをRHYMESTERはやったということだと思うの。サザンやヤマタツがやってたようなことをRHYMESTERもやったと。だって宇多丸さんは毎日帯番組やってるんだよ。そのなかでツアーもやってアルバムも作ったんだもん。凄まじいじゃん。アルバムが出るだけでありがたいと思うんだけど、やっぱり現役感のあるものが求められてしまうという。そういう意味でRHYMESTERは正座して聴きたいと思う人が多かったってことだったんだよね。ずっと期待され続けてハードルが上がっている人たち。

YOU:期待されているというのは良いことではあるんだけどね。

カンノ:で、世間的にはすごく期待されてるんだけど、僕は近年のRHYMESTERにあまりノレていなかったので、正直全然期待しないでアルバムを聴いてたんだよ(笑)だから「めっちゃ良いじゃん!」ってなったのはたしかだね。全然期待していないで「めっちゃ良いじゃん!」と思う僕と、めちゃくちゃ期待していたのにガッカリしてしまった世間という差は間違いなくあると思う。

YOU:なるほどね。

カンノ:で、RHYMESTERがそういう芸能の匂いのするアルバムを発表したのと同時に、Mummy-Dがソロ活動を開始してTHA BLUE HERBILL-BOSSTINOをフィーチャリングした楽曲を発表したのはヒップホップ側への目配せのような気がした。

カンノ:あの曲はヒップホップの物語を紡ごうとした楽曲だからさ。かつてBEEFがあって和解して曲を発表するってヒップホップ的な物語だから。それは今回のRHYMESTERのアルバムの反動っぽく見えるというかさ。ただ僕はヒップホップ方向じゃないことをラップで表現するRHYMESTERが好きな人間なのでね。で、これもよく語られてたけど、同日発売だったNORIKIYOの『犯行声明』とすごく良い対比になってしまったという。

カンノ:ヒップホップ的な物語というか、あまりにノンフィクション性が強いアルバムがヒップホップ側から出てしまったというのが、RHYMESTERのアルバムと良い対比になってしまったなとは思うよね。

YOU:NORIKIYOのアルバムはあまりにヒップホップ的だよね。

カンノ:しかもこのアルバムが無茶苦茶良かったという。あんまりいないんじゃないかな、今回のRHYMESTERのアルバムとNORIKIYOのアルバム、どっちも良いと思った人って。

YOU:たしかにね(笑)

カンノ:RHYMESTERのアルバムの最後の曲が「待ってろ今から本気出す」っていう曲なんだけど。

カンノ:「今回のアルバムはアレでしたが、最後の曲が『待ってろ今から本気出す』だったのでこれからのRHYMESTERの本気を期待してます!」みたいなツイートもよく見かけたんだよ。なんだか変な意味がついちゃう感じも本当は違うんだろうなと思ってね。RHYMESTERはずっと本気だって。

YOU:フフッ。

カンノ:ただどれもこれも、カッコ良い立場を取ってしまったことの変な作用だろうなとは思うんだよね。あとこれも思い出した、『POP LIFE』とか『フラッシュバック、夏。』がリリースされたあとも良くない反応が多かったんだよね。

カンノ:「RHYMESTERが売れ線行った」みたいな。で、『POP LIFE』の最後の曲が「余計なお世話だバカヤロウ」という曲で、今回の「待ってろ今から本気出す」で終わる流れが似てるんだよね。三枚目としてオチをつける感じ。

カンノ:そうなると僕はとことん三枚目方向ないし、芸能方向のRHYMESTERが見たいんだよなという。それがヒップホップ出身で、キャリアとか立場を考えるとなかなか認められづらいのだろうな。「音楽」とそれをやる「精神的なもの」と「経済活動」でもあるという、ほぼ結びつけることが不可能なことを結びつけて動かなきゃいけないからいろんなジレンマは発生するよなっていうことの良い教材になってしまったということかな。

YOU:既発曲だらけのアルバムを出したら怒られるのもなんだかね。

カンノ:だから怒られないくらいのレジェンドにならなきゃいけないってことだよね。

YOU:本当に図らずもいろんな意味で良い教材になってしまったね。既発曲とかタイアップとかヒップホップの精神とかいろんなことを考えるうえで。

カンノ:で、「あのアルバムは間違っていた」という結果になりそうだもんね。なんか、すごい現象を垣間見てしまったなと思ったかな。僕、いまだに「Forever Young(ザキヤマRemix)」の評判が悪いのが納得いってないんだよね(笑)

YOU:あの曲ってスチャダラと一緒にやった既発曲のリミックスだもんね。

カンノ:そもそもの曲が「ふざけてますよ~」ということは出ているはずなのに、あのふざけ方はダメだったという。ザキヤマ本人が出てくるのは正しいし面白いと思うんだけどな~(苦笑)だからここでスチャダラが怒られないのは勝ってるよね(笑)

YOU:宇多丸さんは「スチャダラに先を行かれた」ってよく言ってるもんね(笑)

カンノ:「俺はサブカル列車に乗れなかった」みたいなね(笑)

YOU:それに尽きるよね。

カンノ:そうなるとヒップホップを担う存在にならざるを得ないというね。Mummy-D宇多丸の対比もあると思っていて。雑なキャラクター分けだけど、Dさんがヒップホップを担う人で、宇多丸さんはカルチャーとか批評目線を担う人。で、僕はずっと宇多丸さんに憧れてきたし、二枚目のDさんに対して三枚目の宇多丸さんが放つラップに二枚目を感じていたし、その宇多丸さんが本当にちゃんとカッコ良くなってしまったということかな。

YOU:なるほどね。

カンノ:改めて言いますが、僕はRHYMESTERの新作はかなり好きだということです。以上!終了!

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