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サムオブ井戸端話 #100「音楽における『マズ味』と国民食になったサザンオールスターズ」(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

音楽における「マズ味」について語るサムオブメンバー。後編ではYOU-SUCKメンバーの大好きなサザンオールスターズ桑田佳祐をマズ味の観点で語りました。前編は下記リンクから。

 

YOU:俺はこの「旨味」と「マズ味」の話を聞いていてサザンオールスターズのことを考えていたんだけど。

カンノ:サザンは完全にこの話と適合するね!あんな異物感をもって登場してきた人たちが、いつの間にか国民食みたいなものになったわけだもんね。

YOU:その通り。「勝手にシンドバッド」は本当に衝撃的だったらしいし、その一方で「いとしのエリー」が発表されたときも真逆のアプローチでこちらもビックリされたと。

YOU:初期のこの話はとても有名だけど、サザンってそういうことをずっと繰り返してる人たちなんだよね。これは俺のnoteでも書いた話だけど、1998年にリリースされた『さくら』というアルバムがあります。

カンノ:僕もYOU-SUCKのnote経由でアルバム聴きましたけど、めっちゃ良かったですね。

YOU:このアルバムのなかに「LOVE AFFAIR~秘密のデート」っていう有名なシングル楽曲も入っているけど、そのあとに「PARADISE」っていうシングルをリリースするのね。 

YOU:この曲は核保有国批判みたいな政治的なことを歌ってるんだけど、すごくファンクっぽい曲で。かなりシリアスな曲なんだけど、シングルとして次にリリースされたのが今回のnoteの核となる楽曲である「イエローマン~星の王子様~」につながってくるんだけど。

YOU:この曲はアクが強すぎて全然売れなかったらしいけどね(笑)

カンノ:マズ味の極み(笑)

YOU:で、その次のシングルが「TSUNAMI」なんだよ。

カンノ:すごい流れだね。日清がいろんなカップヌードルの味の実験をして、まったく売れない味が続いたと思ったら「TSUNAMI」という名前のチリトマト味を発明したみたいな(笑)

YOU:そうそう(笑)で、そのカップリング曲がヤバいの。「通りゃんせ」っていう曲なんだけど。

YOU:すごいハードロック調の曲なの。全然ポップじゃない。それで歌詞も古語をすごく使っていて意味が取りにくいし、しかも最初にお経みたいなコーラスが入っててすごく怖いんだよ。

カンノ:サザンって仏教的なことをすごくモチーフとして使うよね。

YOU:正確には仏教というよりは和のモチーフだね。とくに90年代のサザンはその傾向はある。

カンノ:この前、TOKYO FMの『桑田佳祐やさしい夜遊び』でサザンの新曲が2曲流れたんだよ。そのうちの1曲が完全に和とか仏教イメージの曲だったね。

YOU:サザンって一言でいうとバランス感覚が優れすぎてるんだよ。

カンノ:ここはハメ外して、ここはかっちり取りに行くとかね。

YOU:あと2000年代の頭ってソロ活動になるんだけど、桑田佳祐のソロ活動がヤバくて。2001年に「波乗りジョニー」と「白い恋人達」と連続で大ヒットシングルをリリースして超イケイケなんだよ。

カンノ:そのころにフジテレビで『桑田佳祐の音楽寅さん~MUSIC TIGER~』も放送してるもんね。

YOU:そうそう。「旨味」と「マズ味」で言ったら完全に「旨味」をやり尽くしている時期。で、そのあとにシングルで発表されるのが「東京」なんだよ。

カンノ:その流れで来る「東京」のマズ味はすごかったなぁ~(笑)『めざましテレビ』で「東京」のPVめっちゃ流れてたもんな。毎日朝から中尾彬が女性の首を絞めてる映像見てたもん(笑)

YOU:この桑田佳祐の振れ幅のことをスージー鈴木さんは「ロックの総合商社」って言ってるんだけど。この「東京」もそうだけど、急にド直球な歌謡曲みたいな曲がアルバムに入ってたりするんだよね。こういうマズ味を桑田佳祐はずっと持ち続けてるんだよね。というかマズ味を入れざるを得ない人。そういう人ってすごく珍しいと思うし、だから売れ続けられるんだと思うね。

カンノ:サザンは全曲聴かなきゃな。

YOU:サザンは全曲聴くべきですよ。なんで聴いてないの?

カンノ:ごめんなさい…(苦笑)サザンは味の教科書だね。旨味とマズ味のバランスを持った人こそ教科書だから、「ここでこういうスパイスが効いてるんだな」「このタイミングでシナモンを入れるんだな」とか。

YOU:だからはっぴいえんどとか大瀧詠一みたいなおいしい音楽ばかり聴いてちゃダメなんですよ!

カンノ:フフッ。それで言うと、シティポップって完全に旨味化したよね。

YOU:そこでブームに乗っかったシティポップ楽曲をリリースしてる人たちにマズ味はないからね。旨味を抽出したシティポップだから。

カンノ:これは後ほど話すことになるだろうけど、ceroの新作が旨味とマズ味の二分論で言ったらマズ味のオンパレードのアルバムだったよね。

カンノ:これを「いいんだ!」って思おうとする流れもわかるし。もちろん本当にいいと思う人はそれでいいんだけど。でも「いいと思おうとする」という人もいると思うんだよね。それが行間としてあるんだよ。「頑張っていいと思おうとする」ってアルバムを3000円払って買って聴いたときの感覚を思い出させる現象だなって。

YOU:そうなんだよね。本来、一聴して「いい!」と思うことってそんなになかったはずなんだよね。聴き込んでいくうちに「いいな~」と思うことってあったもんね。

カンノ:一聴して「いい!」は旨味成分の抽出だもんね。これもあとで話すことだけど、ART-SCHOOLの新作は僕からするとかなり旨味が凝縮されてたし、ceroはマズ味に振り切っていたし、RHYMESTERのアルバムは「みんな、こんなにマズいと思っていたんだ」っていうことだったんだよね。

カンノ:というわけで旨味とマズ味という画角で音楽に触れてみようという話でしたね。そのバランスを知るためにサザンを全曲聴こうってことですね。

YOU:そうですよ。

カンノ:で、私の音楽もこれから旨味に徹して、おいしいオムライスが提供できるように頑張りたいと思います!

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