SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。
先日、自身のユニット・4×4=16としてワンマンライブを行ったカンノメンバー。そのライブで先輩からもらったアドバイスと、ラジオ番組で聞いた「マズ味」というワードの関連性から、音楽におけるマズ味の重要性について語りました。
カンノ:先日は私がやっている音楽ユニット・4×4=16(シシジュウロク)のワンマンライブを行いました。ご来場して頂いたお客様、誠にありがとうございました。
YOU:お疲れさまでした。
カンノ:疲れましたね~。
YOU:でもライブパフォーマンスは疲れを感じさせない勢いはありましたよ。
カンノ:やってる側はもうわからないですけどね。ライブ中、変なアドレナリンは出ていたと思いますが。ただライブ終えてから1週間は立ち直れませんでしたけどね(笑)
今さらですが、4×4=16ライブ『はじまりの一歩』セットリストです。17曲やりました。band setはほぼ新曲。5分超えが5〜6曲。10分超えが2曲。お疲れ様でした。友人知人関係者の方はライブ映像お送りしますのでご連絡頂ければ〜。 pic.twitter.com/NT1WLezqxk
— カンノアキオ (@akiokanno4) 2023年6月23日
カンノ:でね、来てくれたとあるお笑いの作家さんに「カンノ君のやりたいことはよくわかったし、そこさえブレなければあとはどんどんお客さんに媚びたことをしたほうがいいよ」って言われたんですよ。
YOU:なんか意外な方向のアドバイスだね。
カンノ:「カンノ君のサービス精神に振り切ったライブが見てみたい」って言われて、ちょっと泣けるくらい嬉しかったんですよね。その人にある程度は認めてもらえたんだなっていうことと、次の段階に行かなきゃなっていうこととね。ようするに「売れろよ」ってことなんだけど。
YOU:そろそろ売れてくださいよ(笑)
カンノ:もちろん、それにまつわるいろんな具体的なアドバイスも頂いたんですけどね。そんなことがあったうえで、隔月の日曜日の深夜にTBSラジオで放送している『文化系トークラジオLife』という番組があります。
カンノ:いろんな社会学者や大学講師の人、ライターや編集者等の人が集まってサブカルチャーを通した社会的トピックについておしゃべりする番組なんだけど。で、今回のテーマが「生成AIに負けないぞ!人間に残された”ことば”とは」で、AIには繰り出せない人間のことばについて喋っていて。その番組のなかで、作家の海猫沢めろんさんが「マズ味」の話をしていて。
YOU:マズ味?
カンノ:これはエリックサウスというインド料理屋を営む稲田俊輔さんが広めている言葉らしいんだけど。で、めろんさんが番組のなかで喋っていた稲田さんの話というのが、「料理にはいろんなスパイスが入っているけど、それを表現する言葉がわからなかったが、それを”マズ味”と言えばいいんだ」っていうことで。
YOU:ほぉ。
カンノ:たとえばマズ味成分が高いものの代表例がビールとかコーヒー。あとはスパイスやハーブが入った料理。パクチーとかもそうだね。ようは子どもには分からないけど、大人になればその味わいが分かるもの。それとは逆に、マズ味がゼロの食べ物はオムライスとか。ようするに全部美味い。そしてそれは子ども向け。
YOU:あぁ~、なるほど。
カンノ:子ども向けの味を「旨味」とすると、その「旨味」と「マズ味」のバランスで「おいしさ」が構成されているみたいな。
この スムース/ラフ の二元論に関しては、先日ある方が
— イナダシュンスケ (@inadashunsuke) 2021年6月23日
「酒には『マズ味』がある」
と書いてるのを見て、それだ! と納得したんですよね
おいしさとは「旨味」と「マズ味」のバランスで構成されてる、みたいな。
ハーブやスパイスは基本マズ味要員で、いわゆる「お子様味」は旨味に振り切った味
カンノ:このあたりをめろんさんは「小説にもマズ味ってあるよね」という話をしていて。子どもにはわからないけど、大人になればなるほど味わい深い文章表現の話をしていたんだけど。
(↑該当箇所は12:35あたりから)
カンノ:で、これを自分のことに寄せつけて話をすると、今回僕が行ったワンマンライブってマズ味のオンパレードだったと思うんだよね。
YOU:なるほどね(笑)
カンノ:いろんな文脈を提示したり、「ここがこういう装置になっているんです」みたいなことを音楽のなかで理解させたり。で、冒頭で話した作家さんの話というのはつまり、「もっとオムライス的表現をやっていけ」ってことだと思うんだよね。
YOU:ようは「味の構成バランスが悪いぞ」ってことだね(笑)
カンノ:でも、せっかく料理を作るなら「ちょっとコクを出したいな」と思ってマズ味成分を入れたくなるじゃん。それが忌避されてるよね、こと音楽に関しては。
YOU:今回は料理の例えでこういう話をしてるけど、我々はいつもこんな話ばかりしてるよね(笑)「アルバムの捨て曲ってじつは味わい深いよね~」とか(笑)
カンノ:アルバムの捨て曲は完全にマズ味成分だね~(笑)
カンノ:今回のライブで新曲「音楽とは」という曲を演奏しましたが、あれは身体性をすべて排した状態で演奏することがコンセプトの曲なんです。
4×4=16ライブ『はじまりの一歩』
— カンノアキオ (@akiokanno4) 2023年7月8日
M-12 音楽とは🎵🎼♪
新曲です。「踊れる音楽が良い音楽」みたいな風潮にちょっとしたアンチテーゼをしたくなりました。歌ってる人や演奏する人は一切音楽に乗らない場合、お客さんはどう思うのか?をテーマにしました。意外と評判良くて嬉しかったです。 pic.twitter.com/EoweuWMMp4
カンノ:歌っている僕も楽器を演奏するバンドメンバーも全員、鳴っている音楽に乗らない。曲も一定で単調。そのなかで聴いている人はどう思うのかということをやったんだけど、あれはマズ味が100%なんだよね。
YOU:でもああいうのってなくはないというか、ちょっとポストパンクっぽいなと思ったんだけど、カンノはそういうことをまったく意識せずにやっているんだろうなとも思ったよ(笑)
カンノ:前回のサムオブでもバンド側が「オイ!オイ!」と乗らせたり、手を左右に振らせるムーブをしたりみたいな話をしたけど、あれってやっぱり旨味だと思うんだよね。バンド側からオムライスとかお子様ランチを提供していることだと思うんだよ。
YOU:楽曲だけじゃなくて楽しみ方もセットで提供しているよね。
カンノ:そこへの批評みたいなかたちで「音楽とは」という曲をやってみたんだけどね。この「旨味」と「マズ味」で音楽をちょっと考えてみたいなと思ってね。たとえば最近だとTikTokでもYouTube発の楽曲って、言葉数が多いメロディの楽曲って多いじゃん。でもそういう曲って最初はマズ味だったと思うんだよね。それがいつの間にか「おいしい」ということになった。
YOU:言葉数が多いメロディの曲がマズ味だったっていうのはどういうこと?
カンノ:もともと日本の歌って言葉の情報量は少ないでしょ?たとえば演歌とか歌謡曲って。メロディのなかの言葉数って少ないと思うんだよ。それがおそらく90年代以降で言葉数がぎゅーっとメロディのなかに詰め込まれていって、それと同時に日本語ラップも盛り上がっていって00年代になったらオリコンチャートにバンバン入るようになるわけだし。日本の音楽ってもともとリズムを楽しむものじゃなかったと思うんだよ。
YOU:そうだね。リズムじゃなくて歌から漂う情感とかね。それを含めて「歌」を楽しむもの。
カンノ:それがリズムに乗りながら楽しむものになっていった印象なんだよね。以前も話したけど、踊れるか踊れないんだったら踊れたほうがいいわけじゃん。
カンノ:それが今のモードなのはよくわかるんだけど、それにしてもその型ももう多いからさ。ということはいつの間にか「おいしい」ものになっていったんだよなと思ったりね。カレーって最初に輸入されたときはとても大きな驚きをもって迎えられたと思うんだけど、いつの間にか国民食になっていったわけでしょ。
YOU:日本人はマズ味を日本人好みのマズ味に変えることができるみたいなのはあるかもしれないね。