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サムオブ井戸端話 #101「『旨味・マズ味』理論で最近のアルバムを考える」

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

ART-SCHOOLの新作アルバムについて語るサムオブメンバー。元々ファンだったYOU-SUCKメンバーに対し、どこか取っつきづらい印象のあったカンノメンバーだったが今回の新作は聴きやすかったとのこと。そこから前回までに話した「旨味・マズ味」の観点でいろんなアーティストの新作アルバムに当てはめて語りました。前回まで話した「旨味・マズ味」の記事は下記リンクから。

 

 

YOU:ART-SCHOOLの『luminous』というアルバムがリリースされました。

YOU:かなり久々のアルバムですね。

カンノ:昨年、EPは出ましたね。

YOU:そうだね。ボーカル&ギターの木下理樹が長らく病気療養のために活動を休止していて、その復活作が昨年のEP『Just Kids .ep』で、今回のアルバムになりました。このアルバムは昔のART-SCHOOLっぽさもあるけど、今のモードも感じられるし、全キャリアの良いとこ取りみたいな感じがあってよかったですね。あとART-SCHOOL好きのなかで言われているのが、ギターを弾いてる戸高賢史、通称・Toddyがたまにボーカルをやることもあるんだけど、今回12年ぶりにToddyボーカル楽曲が収録されるという。

YOU:木下理樹って喉の調子が悪かったりして歌が厳しい状態が続いていて、だから「なんでToddyが歌わないんだ」って思ってたんだけど(笑)今回はそれに加えて木下理樹も声が出るようになって、かなり良い状態に思えた。たとえば2010年代のART-SCHOOLって新しいことをやろうとしているんだけど、アルバムを全体とおして聴くと「あのバンドのパロディだな~」とか思っちゃうこともあったの。でも今回のアルバムはそういうことはなくて。もちろん昔から言ってることの繰り返しや手癖みたいなものはあるんだけど、それが良い方向に作用している。Twitter見てる限り概ね評判も良さそう。ギターロック好きには好意的に受け入れられていると思う。

カンノ:なるほど。僕はART-SCHOOLってなんか縁遠い存在であんまり聴いてこなかったんですが、今回のアルバムはとてもよかったですね。

YOU:俺は昔からART-SCHOOL好きなんだけど、冗談半分で「ART-SCHOOLって曲も同じようなものが多いんだけど、でも好きなんだよね」みたいな開き直り方をしちゃうんだよね。

カンノ:あ~、その感じわかるかも(笑)

YOU:でも今回のは純粋によかったな。

カンノ:あまりART-SCHOOLを通ってこなかった僕からすると、あまりにアルバムが聴きやすくてビックリしたかな。

YOU:聴きやすかったよね~。

カンノ:たとえば、昨年リリースされたsyrup16gのアルバムもすごく聴きやすかったの。

カンノ:なんかこの2組は今まで取っ付きづらい印象ではあったんだけど、どちらも聴きやすいが、それぞれのバンドの色は間違いなく出てるじゃん。なんだろ、2組とも最新作がすごくクリアに聴こえるというか。

YOU:俺はsyrup16gに関しては洗練されすぎてて言葉がめっちゃ頭に入ってくる感じは、良い意味で嫌だったんだけどね(笑)喰らっちゃうという意味で。

カンノ:でも、それこそがsyrup16gの真骨頂だったりするじゃん。これは先ほど話した「旨味・マズ味」の話だけど、その人自身から出る味ってマズ味の可能性だってあるわけじゃん。ちょっと前に流行った言葉でいうと「クセがすごい」というやつですが(笑)それがとてもキャッチーな形で世に出されるというのは、旨味とマズ味のとてもいい配分だなって思うんだよ。これが「良いアルバム」の証明だなって思うの。で、今年リリースされたなかでそれの一番の極地だと思ったのがスピッツの『ひみつスタジオ』だと思ったの。

YOU:スピッツのアルバムもよかったね~。

カンノ:無茶苦茶よかった!で、これまた僕、スピッツを全然通ってないんですよ。一般の人が知ってるようなシングル曲しか知らない。そんな僕がスピッツの新譜を聴いたらすげえよかったという。全曲良い!

YOU:アハハハハッ!

カンノ:スピッツ的な影に忍ばせた訳のわからなさもあるし、でもそれをスパイスにして全曲キャッチーな出し方をしているから。売れることの科学をし尽くして、自分たちの音楽の追求もし尽くして、その結果の旨味とマズ味の配合具合が最高点に達しているのがスピッツのアルバム。で、その真反対がceroのアルバムのように思えたんだよね。

カンノ:毎回頑張って聴くんだけど、「なんにもわからなかった~」と思いながら聴き終わってしまう(笑)

YOU:ceroのアルバムって聴き流せないよね。でもだからといって不快だから止めるみたいなことはないじゃん。

カンノ:それはないね。

YOU:アンビエント的に聴いてしまうというか。

カンノ:サントラっぽく聴いてるかも。なにか映像作品があったうえであのアルバムが機能しているような気持ち。だから逆に言うと、アルバム単体としては物足りなさを感じながら聴いてるかもしれない。で、そういうアルバムを最近聴いてなかったなとも思ってね。サブスクで音楽を聴くようになったことで、キャッチーを科学することが非常に重要とされているじゃん。リスナーを増やすとか、数を確保するとか。それでいうとceroは「Summer Soul」以降は突き放しにかかっているように思えるね。

カンノ:「Summer Soul」は頑張らなくても聴けるが、新作は「頑張って聴かないと」という気持ちにさせられるというか。

YOU:あのアルバムは深堀りしたくなる気持ちが沸いてくるよね。

カンノ:で、Twitter上でマウントっぽいことが起きちゃうのもわかるなと思ってね。あのアルバムが良いと思うかどうかという。また逆に言うと、「全然わからなかったわ~」というマウントも起きちゃう(笑)

YOU:わかる、もうなにも言いたくなくなっちゃうよね(笑)

カンノ:スピッツceroの新作は発売が1週ズレてて、それも良い対比に思えちゃったんだよね。で、ART-SCHOOLに話を戻すと、アルバムを聴いた感想としては、自分たちがどれだけ意識したかはわからないが、自分たちのもつクセ(マズ味)をどうキャッチーに見せるか(旨味)という実験を行って成功したんだなと。で、これは今の中堅以上のミュージシャンで結構見られる現象だなと思ったんだよね。

YOU:いろんなジャンルで旨味・マズ味の話は応用がきくね。

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