SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #102「すべてが一緒くただった戦後芸能界」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

桑田佳祐の『ひとり紅白歌合戦』から昭和歌謡曲に興味をもったYOU-SUCKメンバー。そこから永六輔坂本九ものがたり』をとおして戦後芸能界の様々なジャンルが「芸能」という言葉に集約されていたことと、現在の芸能のジャンルがそれぞれ独立していることの比較について語りました。

 

 

YOU:さっきから何度も話していますが、中学生のときによく聴いていたサザンとか桑田佳祐をまた聴き返しています。原点回帰中です。で、桑田の企画で『ひとり紅白歌合戦』というものがあります。

YOU:これは文字通り、紅白歌合戦のラインナップに出てきそうな昭和~平成の歌謡曲やヒットソングを桑田佳祐が歌うという企画で、めっちゃ楽しいです。で、「この桑田のカバーしている曲の原曲ってなんだろう?」と思ってサブスクで調べて、その原曲も良かったりするんだけど、これって戦後の芸能史にすごく興味の出るコンテンツなんだよ。それで興味を持って今読んでる本があるんだけど、永六輔の『坂本九ものがたり』というもので。

YOU:『ひとり紅白歌合戦』でも坂本九のカバーをしています。で、それと同時並行で『男はつらいよ』も見返してて。もう趣味がおじいちゃんみたいなことになってるんだけど(笑)それで渥美清のことを調べているうちに黒柳徹子にぶち当たって。この2人ってすごく仲良かったみたいなの。「お兄ちゃん」って慕ってたみたい。それで黒柳徹子の『トットひとり』という本があるんだけど。

YOU:これを読むと戦後芸能史、ラジオからテレビに移行するときの芸能界の人間関係がすごく詳しく書いてあるの。で、戦後芸能史の面白さって舞台とか音楽、お笑い、作詞家や放送作家等の書く仕事としての文芸、歌舞伎、ストリップとかがすべて「芸能」という言葉に集約されていた時代なんだよね。なんでそれを感じたかというと、いろんな人が出てくるんだけど、たとえば飯田久彦。この人は歌謡曲のプロデューサーで、自身も『ルイジアナ・ママ』とか歌ってた人ね。愛称はチャコで、サザンの「チャコの海岸物語」ってこの人が元ネタなんだけど。

YOU:あと坂本九って一瞬だけザ・ドリフターズにいたんだよね。

カンノ:へぇ~!

YOU:いかりや長介が加入する前のドリフね。

カンノ:いかりや長介は途中加入だもんね。

YOU:そんな感じで、今見ると全然違う事象に見えることも、あの時代に芸能界でやっていこうと思ったときにすべての人間関係が一緒くたになる感じ。これがすごく濃密で面白いなと思っていて。で、今の芸能ってそんな感じがしないんだよね。いろんなジャンルが全部独立している感じ。音楽は音楽だし、お笑いはお笑い。

カンノ:音楽のなかでも細分化はあるし。

YOU:そういう垣根があるというか。で、俺が面白いと思う人や長く第一線でやっている人ってそういう垣根がない人な気がしていて。たとえば映画の話でいうと、MCUが好きな人って本当にMCUの話ばかりするじゃん。スターウォーズの話ばかりする人とかさ。

カンノ:僕にとってのわかりやすいところでいうと、スチャダラパーの話をするときに、ヒップホップとしてスチャダラの話をする場合もあるけど、サブカル面での話になるときもあるし。

YOU:そうそう。音楽の話のみに終始しちゃうというか。そこからはみ出ちゃうのが当たり前だったのが坂本九が生きた時代だったんだなと。そういうことを思ったの。

カンノ:昔って悪い人との付き合いとかもっと当たり前にあったんでしょ、おそらく。

YOU:あぁ…(苦笑)

カンノ:昭和芸能界って(笑)もちろんお金の流れはそこにはあったんだろうし。

YOU:面倒なことを解決してもらったりね(笑)

カンノ:それが今は「ない」っていうことになったじゃん。

YOU:お金の匂いがするところにわらわら人が集まることってあったと思うし、今もあると思うんだよ。でもその一方で今はお金とかの軽薄さよりも「これを真剣にやろう」ということが先立ってる感じもするんだよね。『アメトーーク!』の「〇〇芸人」みたいな括りってあるじゃん。「このジャンルが好き」という人の集まり。おそらく戦後芸能界ってそれを声高らかに言うこともなかったんだよなと思って。そのジャンルが好きなことが当たり前だったから。「芝居が好き」「落語が好き」「小説が好き」とかが当たり前の人たちだから、「芸人なのに〇〇が好きなんですか?」という意外性もなかったというか。

カンノ:これは『アメトーーク!』の話になるんだけど、そのジャンルが好きな人で集まって話をすることが目的なんじゃなくて、そこで話したことがどうほかの仕事につながるかが目的だと思うの。その象徴が「家電芸人」だと思ってて。「家電が好き」という大義名分で集まってるけど、あそこでやっていることはプレゼンター合戦なんだよ。その巧みな話術を持ったプレゼンター芸人たちが語ったことで、そこで紹介された家電はやっぱり売れたと思うんだよ。その結果、ペナルティのヒデは通販番組の司会者になってるわけだし。

カンノ:「自分はこれが好き!」を高らかに言うことで直接仕事になるのは今の時代で、昔はそのあたりは奥ゆかしかったかもね。「このミュージシャン、お笑い好きっぽいよ」ってなったら芸人と番組やらせたりツーマンライブやらせたりさ。「お笑い好きです!」って言うほうが今の時代は得だもん(笑)というか、昔はそもそも芸能の絶対数が少ないからわざわざ言う必要がなかったんだろうね。

YOU:そう、種類が少なかった。

カンノ:おそらく当時の芸能界は教養の範囲内のものが多かったんじゃないかな。ストリップも落語も音楽も同じ地平というか。

YOU:そうだろうね。

カンノ:「あのコンテンツを見なきゃ」「このコンテンツを摂取しなきゃ」という考え方がそもそもない。

YOU:「それしかなかった」ということだよね。それが面白いんだよね。「こうつながるんだ!」みたいな。

f:id:someofthem:20230810082542j:image