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サムオブ井戸端話 #061「人前で歌う”恥”の感覚」(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、オノウエソウ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

今年のフジロックの中村佳穂のライブ映像を見て「人前で歌うことの恥」について考えたカンノメンバー。「音楽を信じてる」と人前で言えない照れを持ちつつ、やむにやまれず人前で歌うことを職業とした人こそ信用できるが、そういう人は近年減ってきていないかという話をしました。

 

カンノ:フジロックの中村佳穂のライブを見ていて、そのときのライブMCが基本的に「音楽楽しい」「音楽大好き」「音楽信じてる」ということを言っていて。それを見たときに、「僕はこの人とはまともにおしゃべりができないかもな」と思ったの。

オノウエ・YOU:フフッ。

カンノ:僕は音楽をやっていますが、人前に立って「音楽を信じてる」と言えることを真正面の道としたときに、そこからどれだけ遠回りするかっていうことを僕はやってきたんです。僕は人前に立って「音楽を信じてる」と言えないまま音楽をやってきたんです。

YOU:その対比はあるよね。

カンノ:それで僕は、その遠回りを信じているんです。「音楽を信じてる」と人の目を見てまともに言えない人の音楽を僕は信じていたいんですよ。もっと言うと、人前に立ってなにかすることに恥があるかどうか。僕はすごく恥ずかしい行為だと思ってまだ音楽をやってるのよ。で、「音楽を信じてる」と言える人には恥がないと思うの。「音楽最高じゃん、私は音楽を信じてる、どう?私の音楽を聴いて、最高だと思わない?あなたも最高だと思うでしょ?私も最高だと思う、音楽って対話だからさ、オーディエンスのあなたたちがこう音楽を聴いて、私たちがこう音楽を鳴らして…」

YOU:もうやめてくれ…(苦笑)

オノウエ:それはカンノに誰が憑依したんだよ(笑)

YOU:今、共感性羞恥心がすごかった、ヤバい…(笑)

カンノ:っていうことの表明がめちゃくちゃ良しとされる時代だなって思ったんだよ。

YOU:なにか目指すものがあったり、ステージに立ってなにか表現することもそうだけど、それに対して斜に構えて距離を取って対象化してアイロニーを表明することが忌避されてる感じはあるよね。今のカンノの話を聞いて、もう冷やかしちゃいけない感じはあるなって。

カンノ:中村佳穂で言ったら、フジロックのあの格好あるじゃん。あれはとても試金石な気がしたの。あれを見てイジるかどうかで人が分けられるというか。で、イジったら「はい、あなたはこっち側」っていうことに確定される感じ。

YOU:演奏中、衣装の角が取れかけてたじゃん。ツッコミ所がいろいろある中で、角が取れそうなことに対して誰も傷付けないツッコミポイントが見つかった感があったのね。「角が取れた」ってみんな言う感じ。あれは「みんな空気読んでるな~」と思ったんだよね(笑)もう「なんだあの格好?」って言えないからさ。そのツッコミポイントが「角!」っていうことに転換されたなと思ったね。

カンノ:半笑い文化が一切通用しなくなったことに対して、ああいう形でステージに出られて、真正面に「音楽信じてる」と言われて、演奏は超天才で。そんな形で来られたときに、ずっと見ている人が試される感じは何なんだろうね。

YOU:カンノは本当に微妙な話をしてくるな…(笑)でも思うよね。

カンノ:音楽の才能に溢れまくっている人がちょっと強すぎるんだよ。藤井風とかね。

YOU:藤井風も強いね。

カンノ:でも僕が好きだったミュージシャンって、すごく理屈っぽくて、心根がいろいろねじ曲がってて、でもそんな人が音楽をやることになってしまっていて、ライブMCとかも「いや~、もう俺みたいなもんが音楽やっちゃってね」みたいなさ。そういう人のほうが個人的には信頼できるというか、「こっち側の人だな」と思えるというか。

YOU:音楽をやることの恥ずかしさの表れだよね。これは『痙攣』っていうZINEでHAL1989さんが言及していることの受け売りなんだけど、桑田佳祐の曲には「下ネタ」や「自虐」的な歌詞が多いのは、「照れ隠し」の裏返しだっていうのがあって(HAL1989『照れ」と桑田佳祐』,痙攣 vol.02 16ページ)。

YOU:桑田佳祐が最初にテレビに出たときに「芸人でーす」って言ったりしたことは有名だと思うけど、同時に「働けロック・バンド (Workin' for T.V.)」では売れてテレビに出て働いて疲れている自分を歌ったり、「大爆笑アイランド」では芸能界や政権批判をしたり、そしてあらゆる楽曲とんでもなく卑猥なことを歌って、ステージでは水着のお姉ちゃんに抱きついたり、サザン≒桑田はいろんな側面をもっているのだけど、桑田佳祐はそれらすべてが恥ずかしいことだと思っている気がする。そういう「恥」を起点としたところでのバランス感覚を桑田佳祐は持ってるんだと思うんだよね。

オノウエ:今までの話を聞いて思ったのが、「ミュージシャンなんてドサ回りしている芸人だ」と思ってるかどうかなんじゃない?結局、ドサ回りしている芸人じゃん。

カンノ:ツアーを回ることは「旅芸人」と言い換えられるしね。

オノウエ:コントライブのDVDを売るのと同じようにCD売ったりさ。桑田佳祐ってそう思ってるんじゃないかな。あと基本、芸人をやってる人って芸人は恥ずかしいものと思ってる気がするの。

カンノ:自分の頭の上にタライが落ちて、お金をもらってるからね(笑)そんな仕事は恥ずかしいよ(笑)

オノウエ:そういう感覚がミュージシャンにあるか否か。人前に立ってなにかすることの恥ずかしさを抱えているか、普通に天然で歌えちゃうのか。

カンノ:やっぱり僕が好きなのはRHYMESTER宇多丸さんなんですよ。

オノウエ:あの人は恥に自覚的だよね。

カンノ:「私みたいなもんがね、歌っちゃってね」みたいなさ。そういうスタンスが僕には合うなと思ってるんだけど。ただ、自分に合うスタンスの人がなんか減ってる気はするの。ということは、もしかすると人前で歌うことが恥ずかしいという感覚が薄れてる可能性があるのか?改めて聞くけど、人前で歌うことって恥ずかしいよね?

YOU:間違いなく恥ずかしい行為でしょ。

カンノ:でも、その感覚って薄れていってない?

YOU:TikTokのせい?

カンノ:あぁ、なるほどね。

オノウエ:中村佳穂は天才過ぎて例外だと思うけどね。

カンノ:それはそうだね。

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