SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #105『「推し」から考えるマイルドな言葉の功罪』(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

「推し」という言葉について考えるサムオブメンバー。後編では「推し」というマイルドな言葉で喧伝されることで資本主義の論理に巻き込まれた結果、推しとファンとの間にお金だけしかない世界について語りました。前編は下記リンクから。

 

 

カンノ:今までの話を聞いて思ったのが、文化ってなくてもいいものじゃん。アイドルより水とか食べ物のほうが大事じゃん。食べるものがあって、寝床があって、トイレがあればそれでいいじゃん。で、それにお金が必要だったり、服を着るとか髪を切るとかがあって、その先の先の先に文化に辿り着くじゃん。好きな芸能人とかアイドルとかミュージシャンとか。それが基本だと思うのよ。でもそれが「背骨」なわけでしょ。

YOU:そう。不要なはずのものが「背骨」なんだよ。

カンノ:いろんな絶対的に必要なものを差し置いて「文化」が先頭に来ちゃう感じって何なのかなと思ったんだよね。だから「推し活」がポピュラーなものになっていくのかなと。やっぱり序の序に立ち返ると、なにも推さなくたっていいし、活動もしなくたっていいじゃんっていう。

YOU:これらの本を読んでて、全然選択肢がない気がしたんだよね。家とか地元がキツいと、結局残るものって「情報」なんだよ。

カンノ:あぁ~、なるほど。

YOU:で、良くも悪くもみんなスマホは持ってるんだよね。

カンノ:無意識的にインプットする時代だもんね。最近それがしんどくなっちゃって。もう無意識インプットが嫌になっちゃって。だから新譜もほぼ追わなくなったし、SNSも極力見ないようになった。「これを見た」「あれを見た」の感想を言う時代がずっと続いているじゃん。どうでもいいものがどうでもよくなくなって、どうでもよくないものがどうでもいいことになってしまったなと思っていて。

YOU:すごいわかる。

カンノ:「推し活」がその象徴に思えたのかもな。どうでもいいものが重要になることの無意識さが「推し活」で、その言葉のマイルドさゆえに喧伝されて広がっていくことの危うさ。言葉がマイルドになったときってやっぱり危ないんだよね。

YOU:その通り。結局、資本主義の論理に忠実に巻き込まれていくだけなんだよね。

カンノ:それがマイルドな言葉の魔力だなって思う。好きなものを推すことを「推し活」と呼んで、それにどっぷりハマることを僕は極力したくなくて。「アイドルを推すってことがわからないんだよね~」という上からマウントを取る意味じゃなくて、自分のなかで「そうなったらマズい」という感覚がどこかにあるから、「わからないままでいたい」という抵抗なんだよね。

YOU:もっとすごい世界があって、「アイドルを推す」ってチェキ撮ったり、握手会行ったりと触れ合えるじゃん。で、たかだか1回1000円くらいじゃん。

カンノ:会いに行けるような人たちはね。

YOU:もちろんそれを大量にやったら生活は大変になるけど、正直かわいいもんじゃん。

カンノ:それで日々が潤えばね。

YOU:で、『「ぴえん」という病』に出てくる世界がすごくて、顔のいい男の子が配信アプリで顔を映しながらしゃべってて、QRコードとかを映して「PayPayで課金してください!」とか言って、1000円とかが飛んできて、「それで暮らしてます」みたいな人がいるとか。もうそれをやる人も払う人も「何なの?」っていうさ。自分の理解の範疇外だよね。ファンと推しの間になにもないんだよ。金しかないんだよ。まだCDが手に入ったりするとかならわかるけどさ。

カンノ:曲が聴けるとかね。

YOU:そういうのがまだあったじゃん。

カンノ:かつてはAKBのCDが握手券目的でとか言われてた時代もあったけど、まだCDが残るからね。

YOU:そうそう。それも超えて、媒介が金しかない。昔、三毛猫ホームレスが出した「KANEKURE」っていう曲があって、「三菱東京UFJの普通口座」とか「府中支店」とか口座番号をギャグっぽく歌ってるのよ。本当に振込もあったらしいんだけど(笑)

YOU:で、もうそういうことがギャグじゃなくなってしまったという。

カンノ:それをまだ金がある人がやればいいんだけど。

YOU:そう!金がない人がやるんだよ。でね、これは大人が悪いと思うんだよ。生まれた子どもをちゃんと愛してあげてさ…。

カンノ:そういう話になるのか…(苦笑)

YOU:そう(笑)なぜなら今、俺には子どもがいるから。『「ぴえん」という病』に関しては子どもがいる状態で読むとすごくキツいんだよ。「どうしてこうなった?」っていうさ。「俺の子どもはこうなるのか?」とかね。でね、俺が推しにピンと来ていないことに関して、ちょっと微妙な言い方をするとホッとしてる。

カンノ:まぁ、わかるよ。べつに他人の不幸の上に自分の幸せがあるっていう話ではなくて、自分とは違う人の行く末を見たときに、「これよりは…」っていうさ。悪魔的に自分の幸福とか安堵を感じる瞬間って人間誰しもあるというかさ。

YOU:そうそう。日本って飯が美味くて治安が良くてっていう話があるじゃん。

カンノ:僕は食事を自転車で届けるデリバリー業で金を稼いでいますが、これをやってるとどんどん日本は生きづらくなってるのがよくわかりますよ。

YOU:それは暑さとか?

カンノ:それもそうだし、こんなにスコールが降る国じゃなかったわけだし、毎日2桁以上のサイレンが鳴るパトカーや救急車を見るし。で、外がこんな状況のなかで「飯を持って来い」と思っている客がいるんだし(笑)

YOU:アハハハハッ!正直、俺も今日はマックをデリバリーで呼んだわ(笑)

カンノ:低賃金労働者の作る服を安く買ってみんな着てる時代とかあったわけじゃん。そこに想像が及ばないとそういうことができちゃうというかさ。やっぱりいろんな意味で貧しくなったなと思うんだよ。

YOU:正直俺らは傍目でそういうことを思うわけだけど、当事者は本当に辛いと思うんだよね。「なんでこうなってしまったのか?」がもうよくわからないと思うんだよ。

カンノ:「推し」が生活の充実とかなにかの捌け口とかになってればいいけど、それで首を絞めてしまうことになっちゃうのがね。

YOU:そもそも生活をしようとしたときにお金を払って、服を買って飯を食って部屋を借りてと順序立てて考えると、推しは相当後ろに来るじゃん。なのに推しが早い段階で入って来ちゃうんだよね。これはスマホが悪いと思うの。スマホは情報がダイレクトに入って来ちゃうから。で、そこにリテラシーがないと広告の流れるままにそれをやっちゃうからさ。これはかなりしんどいと思うんだよね。で、カジュアルに「推し活」と言ってライブに来ている人たちがアーティストやその音楽を支えていることも確かじゃないですか。そういう人がいないと回らないんですよ。

カンノ:これは次の回でまた話そうと思ってたんだけど、劇団ナカゴーの主宰の鎌田さんが亡くなったじゃないですか。

カンノ:「もうナカゴーが見られないんだ」って思うじゃん。そのときに、「ちゃんと見よう」と思ったんだよね。べつに僕も全然、金はないんだけど。それが推しにつながるかどうかはさておき。ちゃんとお金を払ってその現場でなにかを見るということを月1とか、何千円とかで済むんだったら、それはちゃんとやろうと思ったんだよね。だっていなくなっちゃうんだもん。

YOU:そう。人はいなくなるから。

カンノ:いろんな人がいなくなったけど、ナカゴーは一番リアルタイムで近いところで見ていたから。

YOU:年齢も近かったからね。なんか、推しに関していろいろ言ったけど、反面羨ましさもあって。自分の背骨を明け渡せるものがあるというのは、俺は体験したことないから。その刹那に全ベットできるんだもん。

カンノ:「宵越しの金は持たない」なんて江戸の粋を表す言葉があるけど、それも通り越して「今世の金は持たない」みたいなことだもんね。

YOU:すごい世界だよね。

f:id:someofthem:20230901144046j:image