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サムオブ井戸端話 #106『音楽におけるナンセンスを考える』(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

劇団ナカゴーの主宰・鎌田順也が亡くなってから音楽におけるナンセンスについて考えたカンノメンバー。実際に舞台でナカゴーを観た体験や別役実の指す"ナンセンス"を基に、ZAZEN BOYSのライブアレンジやMELODY KOGAのライブをとおして「音楽におけるナンセンス」について語りました。

 

 

カンノ:劇団ナカゴーの主宰・鎌田順也さんが亡くなられたニュースがありました。

カンノ:僕もYOU-SUCKもそれぞれこの劇団は観てましたよね。おもしろいなと思ったのは、駅前劇場で公演されていた『まだ出会っていないだけ』を僕とYOU-SUCKで日程違いで観に行ったんですよ。

カンノ:で、僕のときはすごいウケてたんだけど、YOU-SUCKが観た回はすごいスベってたと言ってたね。

YOU:そういうこともあったね。

カンノ:「当たり外れ」みたいな言い方も本当は違うんだけど、そういう落差がある人たちではあったんだよね。だって、『いとうせいこうフェス』を2日間連続で観に行きましたけど、そのなかでスベってたのがナカゴーと鬼ヶ島だけでしたから(笑)その感じもおもしろかったですね。

YOU:俺は『ベネディクトたち』が超おもしろかったね。

カンノ:篠原さんの筋肉のある上裸姿が絶妙に気持ち悪くて最高だったよね(笑)僕の一番最初のナカゴー体験が第1回目の『テアトロコント』で。

カンノ:とんかつ和幸のしきたりで、店長のホームパーティーに集まったアルバイトの人たちの右腕がどんどん切り落とされていくコントをやっていて、この10年の間で本当に一番笑ったね(笑)腹が千切れて死ぬかと思うくらい笑った(笑)

YOU:フフッ。

カンノ:その鎌田さんが亡くなられました。劇作・演出をされていた人だから、「もう観られないんだな」と思ってね。でね、ナカゴーみたいなものをそれまで僕は観たことなかったんだよね。あんなことが行われていいんだと思って(笑)舞台上って本当に何でもありなんだなって思って。『テアトロコント』って一応、人を笑わせようとするライブイベントではあるんだけど、笑いってセオリーがあるじゃん。フッてボケてツッコむとか、リアクションとか。自分のなかでなんとなくあった組み立て方みたいなものがすべて崩された感というかさ。「こんな笑いの取り方あるの?」っていう。

YOU:最初にあらすじをネタバレ込みで話したりね(笑)

カンノ:あれもすごいよね(笑)でね、これも一つのナンセンスの考え方かなと思ったの。セオリー通りではないって不条理じゃん。見てる側が「不条理だ!」って思う(笑)「おい、なんだこれは?全然道理に適ってないじゃないか!」って。だって「とんかつ和幸のアルバイトの人たちが店長のホームパーティーで右腕を切り落とされる」んだよ。何それ?

YOU:アハハハハッ!

カンノ:舞台上の演者全員が阿鼻叫喚。いい大人たちが大絶叫してるの。すごいよ。おかしかったな。で、気持ちの9割はおかしくて涙が出ておもしろくてなんだけど、1割はちゃんと怖いんだよね。

YOU:そうそう、ナカゴーっておかしみのなかに怖さがあったよね。

カンノ:笑いを中心にした情緒を観に行って”怖さ”を感じるのは一種のナンセンスかなと思うの。これは僕にとって創作するうえでのバイブル的な一冊なんだけど、『別役実のコント教室 不条理な笑いへのレッスン』という本があります。

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カンノ:これは劇作家・別役実の劇作セミナーを単行本化したもので、このセミナーを受講した生徒さんの書いたナンセンスコントをいろいろ評して、書き方を教えるものなんだけど、そのなかで「死体」か「爆弾」を出して書いてみましょうというのがあって。「死体」か「爆弾」という非日常なものを象徴として出したコントを書いてみようと。この2つはナンセンスを作るうえでわかりやすいんだよね。で、この2つが出てきたときに人が通りかかって「うわっ、死体だ!」とか「爆弾だ!」って驚くんじゃなくて、そうじゃない自然な反応をしてみようと。で、この反応をお笑いで実践しているのってたとえばラバーガールなんだよね。

YOU:そうなんだ。

カンノ:飛永さんがツッコミの立ち位置ではない。この場合、大水さんが死体で爆弾なんだけど、その大水さんになにか言われたあとの飛永さんの「いや、ちょっとわかんないですね」とか「そっちじゃないですよ」とか。あとはキングオブコメディ。キンコメの引きこもりのコントがあるんだけど、これは引きこもりの高橋さんの家に同級生の今野さんがその部屋の前まで行って、「高橋君入るよ~!」と言うと高橋さんは「来るなよ」って言うの。「入るよ~!」「来るなよ」「入るよ~!」「もう学校に行きたくないんだ、来るなよ」「入るよ~!」「入れよ…」っていう導入なの。

YOU:アハハハハッ!

カンノ:これは”ツッコミ”じゃなくて”諦め”なんだよね。会話劇で笑いが作られてるよね。高橋さんにとっては不条理なことが起きている。今野さんという爆弾が来て、「入るよ~!」ってたくさん言われた結果、「入れよ…」っていう諦めの台詞が来るという。これは昔の『東京ポッド許可局』でよく話されていたことなんだけど、お笑いロマン主義自然主義っていう話で、ボケのためのボケ台詞とツッコむためのツッコミ台詞を言うコンビがお笑いロマン主義。つまりはご都合主義ね。笑いの画角で見るとすごくわかりやすいネタをやってくれる人たち。それに対して、なにか異物(ボケ)が起こったことに対して無視しちゃうとか、訂正をするとか、やんわりと注意をするとか。つまり人間の心の動き的にそっちのほうが自然という。だって異物(ボケ)に普通はツッコミってできないんだから。殺されるかもしれないじゃん(笑)それがラバーガールとかキングオブコメディとか。

YOU:なるほど。

カンノ:で、ここまで話したお笑いにおけるナンセンスとかロマン主義とか自然主義とかって、「音楽だとなにに当てはまるかな?」と思ったの。それで一つ浮かんだのが、ZAZEN BOYSの原曲があったうえでライブアレンジバージョンになったときの”ノレなさ”って何なんだろうなと思ったの。

YOU:たしかにノレないアレンジってあるよね(笑)

カンノ:あんなにキャッチーな「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」がライブでシンセアレンジになった途端、一気にノレなくなる感じ(笑)

YOU:R&Bとか聴いた耳でも全然ノレないもんね。

カンノ:「もともとノレてたのにノレない」というのはナンセンスの系譜じゃないかなって思うんだよ。

YOU:たしかにあれは爆弾とか死体が置いてあるアレンジかもね(笑)

カンノ:”ノレない”ということはもっと考えていいと思うんだよ。ライブハウスでたまにバイトして人のライブを見るときに思うんだけど、今のミュージシャンって客をノラせようとするんだよね。手を挙げさせたり、踊らせようとしたり、掛け声をさせようとしたりするムーブってあるじゃん。これは以前話したことでもありますが。

カンノ:ミュージシャンってどの場所でも夏フェスっぽくしようとしてるじゃん。

YOU:そうだね。

カンノ:でね、祝祭感について考えたいの。ハレの日。この祝祭とかハレという概念が多すぎるって思ったの。そんなにハレの日って必要なのか?そんなに祝祭がしたいか?たとえばTikTokって踊りのスワイプじゃん。それって短い祝祭をバンバンスワイプしているようなものだと思うの。

YOU:たしかにTikTokには短いハレしかないね。鬱なことを言っててもハレっぽくなる気がする。

カンノ:そうなんだよ。やっぱり数字が可視化された途端、すべてがハレになるというか。いいねの数も再生回数も全部がハレとか祝祭になってしまう。「ここに集まれ~!」みたいなさ。「こんなに盛り上がってます、その証拠にこの数字です!」みたいなさ。

YOU:なるほどね。

カンノ:それでまた別の話。先日、MELODY KOGAさんが日ノ出町・試聴室その3で行った88曲を8セット(全704曲)演奏するライブに行ってきたの(笑)

YOU:すごいな(笑)

カンノ:メロコガさんは同じコード進行で歌詞もメロディも違う約1分の曲をおそらく何万曲かある人なんですけど(笑)

カンノ:その日のライブは平日の昼11時くらいから22時まで演奏し続けるライブなんだけど(笑)、僕は昼の12時から2時間ほど見たの。でね、そのライブを見ながら、メロコガさんが何を言ってるのかとか、どういう音楽をやってるのかとかを全然気にしてなかったの。自分の肩凝りとか気にしてたんだよ(笑)メロコガさんの演奏を聴きながら、ずっと自分の体調を気にする2時間を過ごしたの。うす暗い、照明がぼんやりした雰囲気で、メロコガさんも少しお痩せになられた印象があったためか良い感じに幽霊っぽくて。それをぼんやり見てたの。それがなんか、寄席に行くおじいちゃんとかってこういう感じなのかなって思ったんだよ。寄席って毎日行われていて、その日の当たり外れは当然あって、おもしろかろうがつまらなかろうがぼんやり見られる。でね、寄席ってハレじゃないんだなと思ったの。

YOU:寝てる人もいるってよく聞くもんね。

カンノ:日常なんだよね。銭湯とか寄席とか。町で将棋を指すおじいちゃんとかさ。音楽にこういうものが全然ないなって思ったの。

YOU:日常だね。

カンノ:そう。ご飯・みそ汁・魚みたいな音楽。ミュージシャン側がそこを全然意識できてないなと思ったの。だって客がノラなくてもいいじゃん。おもしろいと思ってもらおうとする動きをすればするほどつまらなくなるというか。おもしろい・つまらないという評価軸から離れた場所から見えるものが今の音楽から全然感じられないんだよね。客の目を引こうとしすぎちゃって。ナンセンス、ロマンと自然主義、祝祭感とハレ、それに対する日常、みたいなことってなんかつながってくる気がしたんだよね。

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