SOMEOFTHEM

野良メディア / ブログ / 音楽を中心に

サムオブ井戸端話 #115『心に残ったミュージシャンインタビュー』(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

KREVAのインタビューがめちゃくちゃおもしろかった」とカンノメンバー。BEEFの関係にあったOZROSAURUSのMACCHOと「Players' Player」という曲をリリースした際、「ディスられてるの知らなかった」と答えたKREVAのインタビュー動画を見て感じた、本当も嘘も事実も誤解もすべて飲み込む"KREVA力"について考えました。

 

 

カンノ:KREVAYouTubeチャンネルにインタビュー動画がアップされていて、これがめちゃくちゃおもしろかったんです。

カンノ:それは「Players’ Player」というOZROSAURUS feat. KREVAの楽曲についてのインタビューです。

YOU:この曲はすごい文脈があるらしいですね。

カンノ:そうです。日本語ラップが好きな人はほぼ全員盛り上がったと思われる楽曲です。それはなにかというと、OZROSAURUSのMACCHOというラッパーとKREVAにはBEEF(ビーフ)の歴史があったんですよ。ようはお互いにディスり合う歴史。まずはOZROSAURUS「Disrespect 4 U feat. ZEEBRA」という楽曲でMACCHOが「ガキだまくらかす くそエリート サビの唄のメロでへたれヒット おりこうさんだがナルシスト それがあだで迷い込んだHip Hop だがそれまでにしろ おめーのラップごっこ ここじゃ通用しねえ おめーの学力も」と歌います。

カンノ:それに対してKREVAが「THE SHOW」という楽曲で「人は人 俺は俺 やいのやいの言う前によこしな beat beat」と歌っていて、これはOZROSAURUSの楽曲「ON AND ON」の歌詞「でも俺は俺だけさ 常忘れねー 人は人 それはそれ」を引用してアンサーします。

カンノ:そして2ターン目。OZROSAURUS「1 for da 何?」という楽曲でMACCHOは「1 for DA マネーって言うけどクソ 1番大事なのはライムとShow」と歌って、それに対してKREVASEEDAの楽曲「TECHNIC」にfeat.で参加し「1for the what? 2 for the what? きっと人それぞれ言うことはないはず マイナスのバイブスでチャチャいれるヤツは なんもわかっちゃいねぇな」とアンサーして、このBEEFはいったん終了となります。

カンノ:それが2023年、この2人が一緒になって「Players’ Player」という楽曲をリリースし、OZROSAURUSの横浜アリーナで行われたワンマンライブでもKREVAが参加してこの曲を歌ったと。

カンノ:前置きが長くなりましたが、そんな楽曲をどんな思いで作ったのかというKREVAのインタビュー動画が先述したものです。このKREVAのインタビューがすごくおもしろい。なにがおもしろいって、「俺、MACCHOにディスられてるの知らなかった」ということを言ってるの。

YOU:それ本当なの?(笑)

カンノ:むちゃくちゃ笑ったよね。「1回もアンサーを返したことがない」「まったくディスられてることを知らなくて」って言ってるんだよ。もう僕は本当、KREVA大好き(笑)KREVAサイプレス上野とロベルト吉野「ヨコハマシカ feat. OZROSAURUS」という楽曲のリミックスをSoundcloudにアップしたんだって。「MACCHOのラップはいいな~」と思って。で、それについたコメントで「MACCHOにディスられてるのにリミックスつくるとかアツい!」って書かれて「えっ…?」って思ったんだって。それで知ったと。

カンノ:っていうことをこのインタビューで言ってるの。で、KREVAはメディアで「Players’ Player」について結構喋ってるのね。でもMACCHOからの表立ってのインタビューっておそらくまだないんじゃないかな?

YOU:はい。

カンノ:でね、テレビ東京のヒップホップ番組『流派‐R』でヒップホップ座談会みたいな企画があって、サイプレス上野さんがサ上とロ吉としてOZROSAURUSの横浜アリーナのワンマンライブに出たときの話をしているの。

カンノ:でね、「KREVAがインタビューで『Players’ Playerだけど俺はKINGだ』みたいなこと言ってるのはマジ気にくわねえよな」ってMACCHOが言ってたという話をしていて(笑)

YOU:フフッ。

カンノ:でね、これは総じてなんだけど、「なにが本当でなにが嘘でなにが事実でなにが誤解で」みたいな議論が発生するミュージシャンってKREVAがNo.1だなって思ったの。というか、本当とか嘘とかどうでもいい。KREVAの「ディスられてたの、知らなかった」というのも本当か嘘かはどっちでもよくて、KREVAが「知らなかった」って言うことが大事なんだよ。本当や嘘や当事者の思いや誤解等、すべてを飲み込む”KREVA力”を見た気がしたの。

YOU:”KREVA力”ね。

カンノ:それをまざまざと見せつけられた。もしかしたら「はったり」という言い方になるかもしれないし、もちろん「本当」なのかもしれない。でもさ、「本当」を喋ってんのに「嘘」っぽく見えるのもすごいじゃん(笑)だからそんなものは、当事者ではない見てる側からしたらどっちでもいいの。で、こんなミュージシャンはあんまり見たことない。

YOU:俺たちは以前、KREVAのライブを見たじゃないですか。

カンノ:『ビクターロック祭り』ね。このサムオブでも以前記しましたね。

YOU:あのときのKREVAの会場をロックする力が凄まじかったじゃん。

カンノ:KREVAの人心掌握力ね。

YOU:どのバンドよりも会場を盛り上げていた。

カンノ:『ビクターロック祭り』を見た感想が「もうバンドはお行儀が良すぎて終わりだ」っていう(笑)それで話は変わるんですが、プチ鹿島さんの『教養としてのプロレス』という著作があります。

カンノ:この前書きのところに『笑っていいとも!』のグランドフィナーレのことが書かれているんです。タモリ明石家さんまとんねるずダウンタウンウッチャンナンチャン爆笑問題ナインティナインがステージ上にずらっと並んでいる瞬間のときにタモリが「これ…プロレス?」って言ったんだって。これは鹿島さんからするとタモリが「プロレス」という言葉を正しい意味で使っているんだって。『教養としてのプロレス』にはこう書かれています。『あのときの「とんでもないものを見ている」という驚きとワクワク、「いったいどんな事情でこうなった!?」という興奮。今後語り継がれるであろう歴史的場面。あれを見た人の感動や驚き、一方で「どこまでが段取りがあったの?」という半信半疑や各々の解釈。すべて、それらが「プロレス」なのである。プロレスの醍醐味なのである。真実を知りたい、何かについて語りたいという野次馬精神。人々はそう思ったとき「プロレスを見ている」のだ。プロレスしているのだ。』と。

YOU:ほお。

カンノ:僕からするとKREVAとMACCHOのあり方はこの状態に近いと思うの。

YOU:なるほど。真偽のほどが定かではない感じが通じているかもね。

カンノ:その一方で、THE BLUE HERBILL-BOSSTINORHYMESTERMummy-Dの楽曲もありました。

カンノ:この2人もBEEFの関係にあってそれが和解になったんだけど、でもKREVAとMACCHOのほうがヒリヒリする感じがするのね。

YOU:X(旧Twitter)とか見ているとそういう語られ方をしているよね。

カンノ:だからKREVAって見せ方とか興行のやり方とかやっぱりすごくうまいなと思ったんだよね。逆に言うと、それが胡散臭くも思えたりもする。

YOU:はいはい。

カンノ:物議をかもす、胡散臭い、それがおもしろい。

YOU:KREVAってそれをちゃんと引き受けてる人だよね。

カンノ:だからあのインタビュー動画っておもしろいなと思ったんですよね。ミュージシャンのインタビューで、このパターンはあんまり僕は見たことなくてさ。たとえば『ROCKIN’ ON JAPAN』の1万字インタビューやら2万字インタビューって、ミュージシャンがどうしても悦に浸りがちなものになるじゃん。うっとりしてるというか。

YOU:『ROCKIN’ ON JAPAN』の1万字インタビューのあの感じは作り手側のスタンスだと思うんだよね。

カンノ:なるほど。

YOU:インタビュアーが「僕はこういう解釈だと思うんです!」みたいなことはせずに、ミュージシャンの話を聞くスタンス。たまにライターの言葉が入っても相槌程度。

カンノ:そうなると物語になりがちだよね。

YOU:こういう生い立ちや私生活のなかで思ったことや感じたこと、人間関係のなかから出てきたものが「この作品です」という物語があるかのような書き方にはなるね。それが俺たちが高校生のときくらいの2000年代はまさに『ROCKIN’ ON JAPAN』はそういう時期だったし、今もそんなに変わってない気はするんだよね。

カンノ:最初に話したKREVAの「Players’ Player」のインタビュー動画は40分くらいあって、すごく喋ってるの。でも、まだなにか喋っていないこともある気がするんだよね。

YOU:それはたとえばどういうことを?

カンノ:だって「知らなかった」って言ってるんだよ?

YOU:アハハハハッ!

カンノ:すごくない?(笑)

YOU:その真偽のほどがわからない感じ、すごいよね。

カンノ:だって「そう来るか!」って思ったもん(笑)もう本当、予想の遥か上を超えてくるよね。それもめちゃくちゃおもしろいし。本当に素晴らしいインタビュー動画だと思いましたね。

f:id:someofthem:20231115125025j:image