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サムオブ井戸端話 #128『ジャンルにおける価値固定と価値転倒』(その④)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

ジャンルの価値観やそこから生まれる権威について語るサムオブメンバー。その④では、「僕と君」についてシリアスに歌うことが"邦ロックたるべき姿"という戒律に対してのNONA REEVESの在り方について語りましたその①、その②、その③は下記リンクから。

 

 

カンノ:たとえばYOU-SUCKが好きなTHE NOVEMBERSも音楽性が変わるところとかっておもしろいじゃん。

YOU:音楽性が変わるというより、THE NOVEMBERSは邦ロック畑から出てきた人たちなんだけど、もともと邦ロック好きの人たちの多くが通過していないラルクとかヴィジュアル系とかニューウェーブが全部好きな人たちで、そのルーツを換骨奪胎して、毎回もう一度THE NOVEMBERSとして組み直しているところが、今のおもしろさにつながってくる。それが毎回オルタナティブでおもしろいなと思うんだよね。

カンノ:そういう意識を持ってる人が僕も昔から好きなんだけど、いま自分のnoteでNONA REEVESのことを書いていて。それはNONA REEVESと邦ロックの関係性みたいな文章なんだけど。

カンノ:当時の邦ロックって「『僕と君』という一人称と二人称でその関係性や距離感を日本語でどう遠回しに歌うか?」という考え方が強かった時代だったと思うの。それがゼロ年代邦ロック。それはアジカンが当時のキッズたちに『君繋ファイブエム』というアルバムで植えつけた戒律みたいなものだと思うんだけど。

カンノ:で、みんな「僕と君」について歌い始めた。そんななかにおけるNONA REEVESってそれを全然やらない。あとシティボーイズ小林賢太郎エレ片などのお笑い畑の人たちへの楽曲提供やロフトプラスワンでの政治語りトークイベントとかをやっていて。それが派生してTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』内で「マイケル・ジャクソン小沢一郎 ほぼ同一人物説」を語って爆ハネするみたいな。

カンノ:それって邦ロックの「僕と君」について歌って、原則ボーカルの人はギターを持って、ロックフェスに出まくってみたいなことと真逆のやり方だと思うの。ようは軽薄なの。

YOU:邦ロックの戒律を内面化した人からすると、軽薄に見えるってことね。

カンノ:そうそう。だって軽妙に喋るロックミュージシャンって邦ロック全盛の2000年代当時は嫌だったと思うの。「僕と君」について歌う真剣さが薄まっちゃうから。

YOU:なるほどね。西寺さんはライブでもめっちゃ喋るもんね。

カンノ:もちろん昔はサブカルとの親和性とか、ラジオとミュージシャンの親和性はあるから、今思うと「軽妙に喋るミュージシャン」のほうが当たり前なんだけどね。だから2000年代の邦ロックってシリアスさとか真剣さが変に求められていた時代だとも思うの。すごくざっくりした言い方だけど、陰キャ陽キャ。邦ロックって陰キャ全盛だったと思うんだけど、そのなかのNONA REEVESって陽キャだったんだよね。

YOU:NONA REEVESは明らかに陽キャだったね。

カンノ:それは西寺郷太という人がカギだったなと思っていて。それがRYHMESTERの番組に出る。で、RHYMESTERもヒップホップやってるけど高学歴で悪そうなイメージとは全然違う方向でヒップホップをやり、2000年以降はロックフェスにバンバン出ていく。そのRYHMESTERの宇多丸さんの番組に初めてバンドとして特集されたのがNONA REEVES。そこで僕は改めて「NONA REEVESってバンドなんだ」って知るの。だってそのときはまだ「バンド=邦ロック」だから、NONA REEVESがバンドであるイメージが掴めなかった。

YOU:たしかにNONA REEVESとの出会いは俺らが邦ロックにどっぷり浸かってるときだったから、「この人たちはバンドなのか?」っていう思いはあったよね。

カンノ:で、個人的にあのころの邦ロック全盛の時代に思っていたのは、ピンボーカルのバンドはナメられがち。日本語で「僕と君」について、または日本語の叙情性を歌わないといけない。バンドは3~5人でサポートメンバーは含めない。これらが暗黙のルールとして存在していたような気がしていて、NONA REEVESEはそのルールから全部外れてる。

YOU:たしかに。邦ロック勢がポストロックやグランジが好きというなかで西寺さんの好きなミュージシャンはマイケル・ジャクソンだからね。

カンノ:だからNONA REEVESはおもしろかったんだよね。今となっては全然当たり前だし、むしろ今NONA REEVESみたいなバンドが出てきたら超売れると思うの。

YOU:そうかもしれないね。

カンノ:これも場の問題、環境、自身の身体性や興味、才能、努力等が組み合わさったときに何が発揮されるかされないかがわからないという。ただNONA REEVESはしぶとく続けたから今の地位にちゃんといると思うけどね。でもあのしぶとさがなければ続かなかったと思うな。

YOU:セールスもそんなにいってないだろうし、解散しててもおかしくないよね。

カンノ:あの当時、筒美京平とタッグを組もうと思ったバンドなんてどこにいるんだよ?

YOU:そうだよね。

カンノ:意図的か結果的かはさておき、自身の持ち物と場や環境によってオルタナティブになるか正統になるか変わっちゃうだけなんだよね。それをクチロロとか向井秀徳の表現にも思うのよ。

YOU:邦ロックのことを考えれば考えるほど、そこから外れた人たちのことを思うわけだね。

カンノ:外れた人のことを考えることが邦ロックです!

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